第697話 神を見たカティ。


 ……センは言う。


「時間切れでは終わらせない。俺の全力でお前を潰す。必ずブチ殺す」


「すげぇよ、センエース。お前は本当にすごい……まさしく、最強の神だ」


 おだやかに、そう言ってから、しかし、


「だが、今の俺を殺しきれるほどのパワーじゃない……というより……まだ、俺の方が強いな。絶死を使った『俺』の方が……お前よりも強い。……たった五分だけの、無意味な最強……けど、『それだけ』は譲れない事実……」


 P1は、奥歯をかみしめて、


「無意味で無価値で非生産的な、なんの価値もない無味無臭な全世界最強。けど、せめて……せめて『それだけ』は証明して逝ってやる!」


 フラットな時間は終わった。

 最後の意地を見せようと跳躍するP型センエース1号。


 次元の断層をぶっちぎって、

 空間をねじ伏せながら、


 センエースに特攻を決める。


 オーラをこめた拳が加速して、

 全身を超速の弾丸にした。


「……ぐぅっ」


 センエースの顔面に、P1の拳が直撃する。

 波動が広がって、何重にもなっていく。

 単なる衝撃ではなかった。

 環次元上のインパクト。


「ごふっ」


 センエースの口から血が溢れた。

 真っ赤な鮮血。


 その血を浴びながら、P型センエース1号は言う。


「センエース……5分では、あまりにも短すぎて、お前を殺す事はできないだろう」


 絶死を積んだ『今のP型センエース1号の力』は境界線を超えた領域にある。

 その暴力は『真・究極超神化6を使ったセンエース』を超えていた。

 今のP型センエース1号の力があれば、究極超神センエースを殺し切ることは可能。


 しかし、究極超神の生命力は、当然のように膨大。

 いかに、今のP型センエース1号のパワーが膨大であったとしても、

 五分では流石に削り切れない。



「しかし、どうでもいい! お前の死など! どうでも! 俺という個が、お前よりも強いという事! それだけを! ただ! 全力で証明する!」



 P型センエース1号の衝動を受けて、

 センは言う。


「その想いを『くだらない』とは言わない。存在証明のやり方は人それぞれ。そして、結局のところ、存在証明なんて、どこまでいっても自己満足の枠からは抜けだせねぇ。だから、俺がお前に浴びせる言葉は一つだけ……」


 『痛み』の中で、センエースも跳躍する。


「俺を怒らせておきながら、満足して死ねるなんて思うな」


 そこから、速度の競い合いが始まった。

 有利を奪い合う瞬間移動合戦。


 『あっち』で殴り合っていたと思ったら、

 今度は『こっち』で殴り合っている。


 影と音だけが世界を支配する。

 暴力とは思えない芸術がそこにはあった。



 ――そんな超次の芸術を、

 『天上』の面々は、呆けた顔で見つめていた。


 ふいに、カティが、


「……ぁ、あれが……」


 ボソっとそうつぶやいた。

 多くの想いがこもった一言だった。

 やはり、なかなか、言葉にはできない。

 あまりにも尊すぎて、『丁寧に装飾された賛美』なんて口にしてはいられない。


「……ぁあ……ああ……」


 カティも、聖典を読んだ事はある。

 聖典を読んだ時の『彼女の感想』は一言。


 『退屈』


 それだけ。

 カティは、聖典のような、いわゆる『無敵の主人公が無双するタイプの作品』を楽しめるタイプではなかった。

 カティは、重たい文学を好むタイプ。

 創作に触れる時は、ドロドロとした『脆い自分』の中に沈んでいかなければ『面白い』とは思わないという、ちょっとアレな、そっち系文学少女。


 全員が全員、面白いと思う作品など存在しない。


 もちろん、カティも、聖典から『ゼノリカが目指している先』をくみ取る事は出来た。

 絶望の底でも勇気を叫ぶ――その意味と価値を、聖典から学んだ。

 だが、それは、あくまでも、『ゼノリカに属する者としての心構えを理解した』『会社理念やマニュアルに目を通した』というだけであり、

 だから、聖典を読んで、

『センエース、かっけぇ』

 とは思わなかった。

 センエースの華々しい活躍が描かれたページを読んでも、

『はいはい、すごいすごい』

 としか思わなかった。


 だが、今は、



「……超カッケェ……」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る