第567話 ウソをつくなら、もっと信憑性を……
「神帝陛下の記録は、おそらく『倍率をちょっと上げた上で、250日』ってところかな……はっはー、それでも、ハンパなく異常なワケだけれどねぇ」
空気を読んだ発言をはさんで、自らをクッションにしつつ、サトロワスは続けて、
「ただ、あの御方ならもしかして、と思わせる……そこが素晴らしい。それでいい」
最後に、テリーヌが困惑顔で、
「そもそも、神帝陛下が『本当に10秒ルームを活用なされたのかどうか』が疑わしいわね……あの御方の力を疑うというより、そういう次元じゃないっていう意味でね。あれほどの領域に至った御方が、いまさら、こんな地味な基礎訓練なんてしないでしょ」
プログラマーの天才が、プロゲートをやるか?
それに近い感情。
※ テリーヌがそう感じたのは、10秒ルームの本質が見えていないがゆえであり、
『10秒ルーム』=『プログラム界のプロゲート』というワケではない。
少し踏み込んで解説しておく。
『壁』を超えると『10秒ルーム内では無限に戦えるようになる』ため、そこから先の記録には意味がなくなる。
『どうやったら、その壁をこえられるのか』、そもそも『壁』とはなんなのか。
それは、誰かから教えを受けて分かるようなモノではない。
個々それぞれを阻んでいる『壁』を超えるための一助、それが10秒ルームの本質。
ただ、その壁を超えるのは異常なほど難しく、ソンキーですら、まだ超え切れていない。
そこを超えてしまえば、倍率がどうなろうと関係なくなり、かつ、『世界進化前のソンキー』の段階で、既に、その壁の目の前にまでは達していたので、実際のところ、ソンキーとセンの間に、数字ほどの大きな差があるかといえば、そうでもない。
ただ、それも、視点・捉え方で変わってくるものではある。
シューリの時にも例を出したが、センとソンキーの差は、100点と95~6点の違い。
いわば、100点が壁。
それでいうと、さっきとは真逆で、二人の間にある距離の差は、『数字ほど小さくない』とも言える。
――そこで、バロールが、ため息交じりに、
「おそらく、誰よりもジャミをよく知るパメラノ殿は『ジャミならば相当いい記録を出す』という事が最初から分かっていた――だから、ジャミが慢心しないようにと配慮した……ってところだろうな」
別に、神帝陛下を疑う気はない。
あからさまなウソをついたパメラノに対して嫌悪感もない。
ただみな、共通して思うのは、
(((ウソをつくなら、だから、もう少し、信憑性というものを考えてくれ……)))
それだけ。
もし最初から素直に、『神帝陛下の記録は、なんと、じゃじゃん、250日でぇす!』と言われていたら、全力かつ無邪気に感嘆の声をあげる事ができた。
『すげぇ! さすが神様。私たちには不可能な記録を平然と叩きだしてしまう! そこに痺れる憧れる!』
それでよかったのに、とみなは溜息をつく。
――と、そこで、バロールたちの推測を聞いたジャミは、
「先生は、嘘をついているようには見えなかったが」
「パメラノ殿は、『今から嘘つきます』って顔して嘘をつくほどのマヌケなのか?」
「……」
バロールの切り込みにジャミが思わず黙った――と、ちょうどその時。
彼らがいる瞑想フロアから二十メートルほど離れた地点に、時空裂が出現した。
空間に入った亀裂から、小柄な老婆が出てきて、
「ん……おっ、バロールも一緒じゃったか。手間が省けたわい」
そう言いながら、ジャミの方に近づいていく老婆。
ゼノリカの天上、九華十傑の第二席『パメラノ・コット・N・ロッド』。
「各員、傾聴。これより、『天上に咲くゼノリカの月見草、五聖命王・銃崎心理殿下』からの勅諚(ちょくじょう)を伝える。九華十傑の第一席ジャミ・ラストローズ・B・アトラーと、第六席ブナッティ・バロールの両名は、これより――」
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