第463話 ごあいさつ、できるかな~?


 『諸々の様々な配慮』から変装し、

 屋敷に向かう途中、


 シューリが、一枚の用紙に目を通しながら、


「……予選で引く可能性があるダンジョンは27種類。うち、最高難易度は『パラソルモンの地下迷宮』と『グロラリアのダンジョン』。どちらも、出現するモンスターの存在値平均30で、特に面倒な罠等はなし……最低難易度になると、脱出するために、ちょっとしたパズルを解かなければいけないだけで、モンスターが出る事すらなし……」


 とうとうと読み上げていき、


「マジでちゅか……マジで、オイちゃん、今から、こんなカスみたいなテストを受けるんでちゅか……」


 シューリからすれば、『特に難しくもない幼稚園の入園試験』を受けにいくような気分。

 『ごあいさつできるかなー?』

 『ちゃんと、お名前言えるかなー?』

 『あそこにある積み木を、みっつもってきてくださーい。みっつですよー。ふたつじゃないですよー。みっつってわかるかなー?』

 『はい、このどうぶつのおなまえはー? 首が長いですねー。ちょっとむずかしいかなー。ヒントは、最初がキで最後がンのどうぶつですよー』


 シューリからすれば、冒険者試験は、それよりも酷いレベル。

 あたりまえだが、いい大人の視点では『マジか? 勘弁してくれ』としか思えない。

 ためいきをつくシューリを横目に、アダムが、


「やはり、いくらなんでも、概念レベルで不敬すぎます。冒険者試験など、主上様が受けるような試験ではありません。フーマーの委員会をシメ上げて、冒険の書を献上させるべきかと存じます。御望み頂ければ、私がひとっ飛びいってまいりますが?」


 それを受けて、センは軽く苦笑いして、


「その方がてっとりばやいのは確かなんだがねぇ……でも、まあ、多分……てか、ほぼ確実に『正規のルート』がどうたら言われるのは目に見えているからなぁ」


 ボソっとそう言ってから、シューリに意識を向けて、


「つぅか、お前が手助けしてくれるとは思っていなかったよ。ありがとう、シューリ。まさか、こんなショボいテストで俺が落ちるとは思っちゃいないが、もし落ちたら赤っ恥もいいところだからな。お前という最高戦力がいれば、落ちる可能性は、完全にゼロになる。そういう意味で助かった」


「感謝は必要ありまちぇん。別に、お兄(にぃ)の手助けがしたくてここにいる訳じゃないでちゅから。オイちゃんは、愛するアーちゃんに頼まれたからここにいるだけでちゅ。ねー、アーちゃん」


 言いながら、アダムに抱きつくシューリ。


「ぉい……あまり、くっつくな」


「水臭い事いわないでくだちゃいよ。オイちゃんとアーちゃんの仲じゃないでちゅか」


 グイグイと距離をつめるシューリと、

 鬱陶しそうな顔をしてはいるものの、心底から嫌がっている訳ではないアダム。


 そんな二人を横目に、センは、


「いやぁ、なによりお前とアダムが仲良くなってくれて、本当に良かったよ」


 正直言って、別に、冒険者試験ごときでシューリの手助けなど必要ない。

 だが、現状のシューリは、『アダムからの頼みで、センに協力している』という状態なので、『断るのも違うなぁ』ということで、とりあえず『ありがとう』というスタンスをとっている(ちなみに、一緒にいられるのは、セン的にも素直に嬉しい)。



 なんだかんだで、センは、

 シューリに対して、『いい意味で気を使っている』という証拠。


 シューリに対しては、どんな時であれ、『いや、別に、お前の助けとかいらんし。てか、どう考えたっていらねぇだろ』などといった『デリカシーに欠けた発言』は言えない。


 強引なボケをぶっこんできた時などは、もちろん、

 というか、なかば礼儀として『なんでやねん』で応えるが、

 その際でも、実はかなり気を使って言葉を選んでいる。


 故に、たとえ別に必要なくとも、『助けてやる』と言われれば、

 『ぁっ、マジっすか、センパイ。あざーす。たすかりまーす』としか言えない。


 それなりに長い時間をかけた事で、互いの関係性は『ほぼ同等』になったものの、前提が前提だけに、どうしても完全な同等にはなりきらない。


 限りなく近い関係ではあるものの、詰め切っていない、その距離感。

 そんなセンとシューリを、絶妙な距離から俯瞰しているアダム。


 妙な3人組の冒険者試験は、いったいどうなる!


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