第280話 酒神終理
「――と、まあ、こんなところだな。諸々、詳しい事は、順次、分かり次第、伝えていく」
アダムから、今後についての諸々を聞かされた三至天帝は、
「秩序を乱さず、表を維持したまま、世界の裏を牛耳るとなると……かなりの処理能力がもとめられますね」
「総轄責任者の選別が重要じゃのう」
「誰にやらすの? 私は、バロールを押すわ」
「九華は副官において、一番上は、五聖命王から選んだほうが良いのではないか?」
「そうですね。後々まで見据えた場合、なかなか面倒な仕事になりそうですし」
「じゃあ……やっぱり『朝日』? あ、でも、こられないんだっけ? じゃあ、誰がいいかしら。『銃崎(じゅうざき)』?」
「……『異守(こともり)』の方がよいのではないか? 下の受けが最もよい」
「人気があるだけじゃダメでしょ。やっぱり、『銃崎』じゃない?」
「んー、銃崎には、いろいろとやってもらいたい事があるので、できれば、監督役には、他の誰かを置いてもらいたいのですが」
「じゃあ……『才藤(さいとう)』は? ちょっとヒネているけど、能力は確かよ」
「能力の高さで言えば、誰も劣ってはおらんじゃろう。というわけで、やはり、余は異守がいいと思うわけじゃが」
「随分と押すわね。男って、ほんと異守みたいなの好きよね」
「諸々が円滑に進むと思っただけなのに、まさかペド(ロリコン)あつかいされるとはのう。予想だにしておらんかった」
「幼女趣味呼ばわりを覚悟で言わせてもらえれば、ボクも、異守がいいのではないかと思いますけどね。ミシャさん、下のウケって大事ですよ?」
「んー……まあ、いいわよ。別に、異守がダメって訳じゃないし、才藤だと、問題ゼロのオールオッケーって訳でもないしね。というか、ぶっちゃけ、『アレ』でさえなければ、他の誰でもいいわ」
「そうですね。ボクも、『アレ』でさえなければ誰でも構いません」
「ふぁっふぁ。そんな事をいいだしたら、余も、『アレ』でさえなければ別に――」
互いに顔を見合わせて、
誰に『下のまとめ役』を任せようかという話し合いをしていた――その時、
扉が、バーンっと開いて、
「おまたせしまちたぁ!」
ボリューム満点の煌く金髪。キラッキラの鬼メイク。全身からアホを放出している、非常に頭が悪そうなキャバスーツの女(二十前後)が、ニタニタ笑いながら、謎のステップを踏みつつ近づいてくる。
デカめのヘッドホンを首にかけており、
左手の薬指には、質素なリングをはめている。
そのハデな女は、ドカっと、イスではなく、円卓に腰をかけると、優雅に、そのスラリと長い足をくむ。
超ミニスカのプリーツスーツ。ドンと開いた胸元にはキレッキレの谷間。
この神聖な場にはまったく相応しくない、その美女は、
「おまちかね、みんなのヒロイン、究極超美少女にして全知全能を地でいく無敵の女神! おそらく、たぶん、五聖なんとかの一人、酒神終理、ただいま参上でちゅ! オイちゃんの輝きの前に平伏す許可を与えまちゅ。足はなめちゃダメでちゅよ? オイちゃんの足を舐めていいのは『お兄(セン)』だけでちゅから」
などとイカれた事をほざいている酒神の背後から、一人の、シックなパンツスーツに身を包んだ知的な大人の雰囲気を醸し出している美女が、
「毎度のことながら、愚妹の非礼、まことに申し訳ございません」
コメカミに怒りマークを浮かべながら、酒神を睨みつつ、三至天帝に向けて頭を下げた。
ゆっくりと頭を上げてから、
「三至天帝の御三方は、おひさしぶりでございます」
そう言ってから、アダムに視線を向けて、
「はじめまして。私は、五聖命王が一人、銃崎心理と申します」
名乗りを受けて、アダムは、
「この上なく尊き主の側仕え『アダム』だ」
サクっと自己紹介をしてから、
「答えろ。今日の会議に、五聖命王は呼ばれていないはず。なぜ、主の命に背いて、この場にきた?」
ピリピリとしたオーラを発しながらそう尋ねた。
すると、酒神が、
「お兄(にい)が言ったのは、『こなくてもいい』でちゅよね? だったら来てもいいって事でちゅよね? 命に背いたって事にはなりまちぇんよ」
「……貴様が酒神終理か……主上様から話は聞いている……どうやら、聞いていた以上に狂っているようだな」
「いやぁ、そんなに褒められると、テレちゃいまちゅねぇ」
などとぬかす酒神を、アダムはジっとみつめ、
「……一応、確認しておこうか……私を前にしても、まだ、その口調を続けるのか?」
グゥっと強めのオーラを出してそう問いかける。
すると、酒神は、キョトン顔で、
「ん? 何か問題があるんでちゅかね? あれ? なんか怒っていまちゅか? んー、なんででちょう。オイちゃん、バカだから、ちょっとよくわかりまちぇん」
のほほんとそう言ってから、ニィっと微笑みを強めて、アダムの目をジっと見つめ、
「しかし、お嬢ちゃん、御見事な強さでちゅねぇ。確か、名前はアダムちゃんでちたっけ? いやぁ、素晴らしいでちゅねぇ。アダムちゃん、かっこいいっ! ぱちぱちぃ」
ニィっと笑いながらそんな事を言う酒神。
アダムは、ギリっと奥歯をかみしめて、
「……ずいぶんと長く生きてきたが……赤子扱いされたのははじめてだな……」
赤ちゃん言葉は、赤子が使う言葉ではない。
べろべろばぁ、かわいいでちゅねぇ
――赤ちゃんに対して使う言葉。
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