第197話 もっと、もっと、もっと、果てなく、ワクワクさせてやるよ!!




「ほ、ぉお……」



 ユンの言葉を聞いたセンは、二度ほど小さく頷いてから、扉に視線を戻した。


 注意して見てみると、中心部分に小さな四角い穴があいていた。


 扉が大きすぎるので、相対的に、酷く小さいと思ってしまうが、その穴のサイズは、




「ラムドの記憶にある『冒険の書』と大体同じ……あれが鍵穴とみて、間違いないだろうな」




 センは、そこで、ラムドの頭から、『冒険の書』に関する詳細を掘り起こし、




「……うん。この程度のアイテムなら、余裕で創れる」




 センは、そうつぶやくと、胸の前で、右の掌を天に向ける。


 ササっと、『慣れ親しんだ魔法』で、冒険の書を創りだそうとしたが、




「……いや」




 ――寸でで思い直し、




「……くく、ついでだ。ためしてみるか」





 センは、『GLの上昇』に伴い獲得した『GODポイント』を使って、魔法を強化する。



(久しぶりだな、GPを使って魔法を強化するのも……ははっ、つぅか、マジで魔法を、『ランク1000以上』に強化できるのかよ……すげぇな)



 GPを振る行為は、一瞬で済む質素な作業。

 けれど、あまりの懐かしさに少し胸がジンとした。


 『いくつかの条件』を満たせば『GPの振り直し』もできるのだが、

 センは、既に『自分にとっての完璧なビルド』を確立させてしまっていたので、

 これまでは、振り直す必要がなかった。




「……『創造、ランク1500』……」




 強化された魔法で、『冒険の書』を創りだす。

 いままでにない、完璧な作品。

 ほれぼれする出来。


「はは……すげぇな。これ以上のパチモンは、この世に存在しないと断言できるね」




 ボソっとそう言いながら、本物以上のクオリティを誇るパチモンを手に、


「これだけのモノを創れる力が……まだ限界でもなんでもないってんだから……ほんと、もう……は、はは……」


 思わず笑いながら、センは浮遊して、




「さぁて……それじゃあ、この大仰な扉を開くとするか」




 見れば見るほど、その扉は異質だった。

 何の力も感じない。

 けれど、張り詰めた空気を纏っている。



 センは、扉をじっくりと観察してから、



「おそらくだが……この先は……原初の世界の……『深層』……」



 ボソっとそう言った。

 ブルっと脳が震えた。


 興奮という痺れが駆け巡る。


「神ですら足を踏み入れる事ができない『原初の世界』。その異質っぷりを、俺は、『表』の段階で、既にいくつか体験し、ふつうに驚かされている。……この俺をも素で驚かせてみせる――そんなとんでもない世界の…………『深層』……ふ、ふふ……ははは……」


 そこに何があるのか、まったく予想もつかない。

 だが、もし――



(コードゲートとやらのインストールが、もし、『そこ』に足を踏み入れるための最低条件だったとしたら……)



 センは、想像力をフルに稼働させて、扉の先にある風景をイメージしてみた。



(ランク10万の魔法を使う、存在値100京のバケモノ……がウジャウジャと、その辺を徘徊している、みたいな……ふ、ふふ……)


 センですら、虫けら扱いされる世界。


 想像するだけで魂が震えた。



「流石に、それは無いか?! いや、でも、可能性はゼロじゃないよな! はっ、はは! ははははははは!」



 思わず、天を仰いで笑ってしまうほど、センの心は高揚していた。



 センの頭に広がった想像世界は、無間地獄よりも濃厚な地獄だった。


 けれど、踊る心。


 センの『世界』が広がっていく。






 『センでも届かないような世界』なんて、ありえない?






 いや!

 可能性はある!。



 ――無限に強くなれるのであれば、『果てなく求める者』が、必ず存在するはず――



 センは、長い間、『限界という名の無粋な檻』の中で燻っていた。

 センが足踏みしていた間に、『先へと進んでいた者』が『いない』とどうして言える。


 世界の進化。

 その捉え方次第ではありえるのだ。


 もし、かりに、『コードゲート(限界突破)というシステムそのもの』は最初から存在しており、『世界の進化』とは『深層への道が開いた事』


 ――ならば、


 センの妄想が現実である可能性も無くはない。




 ――『無限の果てを求めているバケモノども』の巣窟――



 扉の向こうを夢想しながら、センは、


「思い出すじゃねぇか……はじめて転生した日の事を……鮮やかな未来、無限の可能性……少しずつ強さを積み重ねていって、立ちはだかる無数の巨大な壁を、どうにか乗り越えんと躍起になっていた、懐かしき、夢のような日々」


 『ひゃっほい』というハシャいだ気持ちでいっぱいだった。


 恐怖がなかったとは言わない。


 けれど――







「……もしかして、俺は……あの日々を……『全てが輝いて見えていた、かつての俺』を取り戻せるのか?」



 




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