第111話 ウイング・ケルベロスゼロ(EW)


(……強ぇ)


 勇者は強い。

 総合力なら、間違いなく、この星の一等賞。


 だが、


(どうやら、魔王と同じで、魔法は使えないようだが……戦士としての格……『殺し合い』という純粋な一点に於いて、俺は、こいつより、わずかに……しかし、確かに劣っている)



 適宜、最善の距離をとり、2本のエクスカリバーで、カースソルジャーを削っていくが、


「ぐぁああ!!」


 損を覚悟で詰められて、強引に、一撃を叩き込まれれば、

 それまでに稼いだ優位は即座に覆される。



「くそが、くそが、くそがぁああああ!」



 血を吐きながら、歯をむき出しにして、


「調子に乗んなぁああ!」


 勇者はアイテムボックス(亜空間魔法のランク2。生命体以外で、重量5キロまでなら、どんなものでも収納できる亜空間倉庫)に手を伸ばす。


 取りだしたのは、1枚の誓紙。

 B5サイズの、日に焼けてボロボロの紙。


 勇者は、荒々しく、親指を噛み千切ると、


「ウイング・ケルベロス!! デザートの時間だぁ!!」


 勇者の血を受け止めた血判状は、青い焔に包まれて火の玉になる。

 玉になった青い焔は、ツラツラと長く伸びて、火の輪をつくる。


 その輪の向こうから、




「グルルルゥ」




 翼を生やしている三つの頭を持つ犬が現れた。


 ウイング・ケルベロスは、この場に出現すると同時に、

 ギチギチ、ブルブルと震えだし、体を、コンパクトに変形させていく。


 前屈し、腕と足がくっつき、翼が硬化する。


 バックパックの形状になったのを確認してから、勇者は、バチンと大きく指を鳴らす。

 グワっと、ウイング・ケルベロスは勇者の背中に食いついた。



 浮遊する2本の聖剣を従えし、ケルベロスの翼を生やす勇者が、そこにはいた。



「さぁ、本番と行こうか……ここからの俺は、もっと高く飛ぶ。文字通りなぁ!!」



 ヒュンヒュンと、黒毛の翼が風を切る。

 軽快に空を舞いながら、

 勇者は、浮遊するエクスカリバーで、カースソルジャーに猛攻を加えていく。



「どうした?! 得意の剣が届いてねぇぜ! まさか、飛び道具は無しか?! おやおやぁ! カースソルジャーさんともあろう者が情けねぇ! 呆れてモノも言えないとは、まさしく、このことぉ!! ――って、なぁっ!?」


 カースソルジャーが、魔剣の柄を、タタンと指ではじいた瞬間、

 死色の魔剣は、一瞬で、死色の魔双銃に変わる。



「ちぃ!」



 カースソルジャーは、二本の剣をアクロバティックに回避しながら、両手に握りしめた魔銃を乱射する。

 歪な形状をしているサブマシンガンタイプの魔双銃は、

 引き金を引き続けている間、延々に、高速で気弾を放ち続ける。


 連発してくるエネルギー弾の雨。

 それを、リロードもなしで、無尽蔵に撃ち続けられるという凶悪ぶり。


(クソがぁ! 厄介なことを! ――ぃや、だが、あの銃の威力は、剣より劣る!)


 銃タイプの武器は、この世界に太古から存在している。


 ただ、あんな複雑な形状の武器を、

 いったい、いつ誰が発明したのか、それは知られていない。


 ――というか、誰も知らない。


(弾の方が圧倒的にダメージは低い。よほど近づかれねぇ限り、弾は適度にバラけっから、まともには当たらねぇ。しゃぁねぇ……こうなりゃ、根比べだ……)


 気弾の雨を、必死にかわしながら、


(ナメんなよ、カスが。その火力じゃあ、俺は殺せねぇ。てめぇが俺を殺しきる前に、確定で、俺がお前を削りきる)


 勇者は、長期戦を覚悟した。


 だから、叫ぶ。

 覚悟を入れ直すために。



「上等だ、ごらぁああ! どっちが先に尽きるか、命でガマン比べしようじゃねぇか!」






 そんな、必死に闘っている勇者を遠くから眺めつつ、ラムドは、


(ウイケロかぁ。なつかしいなぁ。カッコいいっていう理由で、俺も使ってたんだよなぁ……魔改造して、ウイング・ケルベロスゼロ(EW)とか言って遊んでいたなぁ。どんだけ改造したところで、飛行オプションで使うなら、レーザーファルコンかドラゴンホークの方が上だから、結局、まったく使わなくなったけど)



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