第37話 辛辣な無崎くん。
「無崎さん。あなたはわたくしと同じ種(しゅ)。本当は支配など望んでいないのでしょう?」
((俺は厨二じゃないから、同じではないけど……まあ、当然、世界征服とかは絶対にやりたくないよね。誰が『究極の学級委員』なんてやるかよって話だ。俺は、せいぜい『ゴミ係』とかでいいんだよ。というか、ゴミ係をやりたいんだよ。公務員、最高! 親父みたいに、緑の車に乗ってゴミを回収するだけの穏やかで静かな毎日を過ごしたい!
「さあ、この手をとってくださいませ。共に『深潭(しんたん)たる絶悪』を愛(め)でましょう」
((センエースについて語り合うってこと? そいつは、とってもウェルカム。ただ、できれば、その厨ニ性を少し抑えてほしいかなぁ。スケット○ンスのダ○テみたいに、会話するたびに解読が必要とか、ちょっと面倒くさい……いや、まあ、『佐々波の通訳が必要な、面倒くささがえげつない俺』には言われたくないだろうけど。
「センセーの御言葉を伝えるっす。――少しは控(ひか)えろ。貴様の『我(が)』は面倒くさい」
((うぉおい、オブラート! 俺がしっかりと包んだオブラートをはがして、振りかぶって全力投球してんじゃねぇ! 確かに、言っている事は、そのままだけれども!
「……ふふっ……随分と辛辣(しんらつ)ですわねぇ」
((おやぁ? なんだか、そんなに気にしていないっぽい? なるほど、厨ニイジりは慣れているのか。周りにフランクな友達が沢山いるのかな? まあ、そうだよな。こんだけの超絶的な美人さんなら、周りが放っておかないよな。いいなぁ、厨ニなのに、リア充かぁ。きっと、超天才で超美人なのに厨ニっていう稀有(けう)なキャラとして愛されているんだろうなぁ。『はが○い』の『羽瀬○小鳩』みたいな感じかぁ。うらやましいなぁ。リア充。
「どうか、敵対意識をお捨てになって。わたくしは、あなたと同じ存在。いえ、あなた以上に『悪を愛する者』という自負がございます。ですから、きっと、仲良くなれますわ」
((ぉっとぉ、そいつは聞き捨てならないねぇ。友達が少ないがゆえに有り余った時間の全てを、ゲームとマンガとラノベに費やしている闇深いこの俺に、センエースに対する愛情で勝るって? ふっ、ナメられたものだ。――言ってやれ、佐々波。『クソボッチ歴』イコール『年齢』の俺こそがマニアとしては最強だと。リア充には負けないと。
「……センセーの御言葉を伝えるっす。常闇の深淵で孤高に研鑽を積んできた私の『アニマ(魂)』こそが至高。矮小(わいしょう)なクソビッチ風情がナメた事を抜かすな、死ね」
((解釈にエッジをかけすぎぃ! てか、『死ね』は言っちゃダメ! リア充とビッチもイコールじゃないよ! つか、アニマって何? マ・ニ・ア! 聞き間違えないで! なんか、俺までもが、とんでもない厨ニになっちゃっているから! ぃや、無茶を言っているのは分かるよ? なんせ、俺、喋ってさえいないからね?! でも、でも、だけれども――
「どうやら、わたくしは、随分と下に見られているようですわね」
((ふぇぇえ?! ぃ、いやいやいや、全然、下になんか見ていませんよ? ただ、センエースに対する愛情では負けないと言っているだけで――
「せめて、同格という認識を持っていただきたいのですが、いかがでしょう」
((ぃやいや、やめてください。同格だなんて、おこがましいです。センエースに対する愛情は負けませんけど、それ以外では全敗なんですから。あなたみたいな超天才で超美人のリア充さんと喋っているだけでも、なんというか、さしでがましいレベルっていうか、俺みたいなクソボッチは、立場をわきまえないといけないというか……
「センセーの御言葉を伝えるっす。同じ立場で会話をしようなどと、おこがましいにも程がある。立場をわきまえるべき」
((はしょりすぎぃ! 疲れたの?! しんどくなっちゃったの?! だからって、通訳、サボんないでぇ! とんでもない伝言ゲームになってるからぁあ!
取り付く島のない無崎を前に、
ロキは、内心、渋い顔で、
(――こうなる可能性を全く考慮していなかった訳ではありませんが……こうも、あからさまな態度をつき付けられると、さすがにカチンときますわね)
などと、彼女が思っている間、
無崎くんは、あわあわと、
((さっきの言い方だと、まるで、俺がこの人を侮っているみたいだから! 佐々波、ちゃんと伝えて! 俺とあなたじゃ、人間としての根本的な格やステージが違うと言いたかっただけだって。
「センセーの御言葉を伝えるっす。ボクも思っている事っすけど、あなたとセンセーじゃあ、根本的な格やステージが違いすぎる。比べれば、虫以下と言ってもいい」
((俺、虫以下なの?! た、確かに、この超天才美女と比べれば、俺なんて、飛べないゴキブリみたいなものだけれど、だからって、それをそのままを言葉にはしないで! 俺の心が死んじゃうでしょぉ!
などと、無崎が考えているなど、夢にも思っていないロキは、
(そこまで見下されているとなれば、交渉は不可能ですわね。残念ですが、予定変更です。この世には、あなたよりも美しい輝きを放つ悪が存在するという事を教えてあげましょう。その高く伸び切った鼻っ柱をヘシ折ってさしあげますわ)
こじれていく。
人間とは、決して分かり合えない、哀しい生き物。
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