第11話

ーー???

……?

あ…これ夢だ、

現実味のない、体がふわふわしたような感触、視界が少しばかり明るくなっている、明晰夢では毎回こんな感じの感覚になる。

今回は、自分視点の世界みたいだ。

自分の姿を確認しようと鏡を探す。あった。それと同時に僕は鏡を覗き込んだ。

ーーーカラン

鏡が落ちた。急に手に力が入らなくなった、

紛れもなくそれは、この夢で過去のことをきめ細やかに思い出してしまったから。

髪の長かった時代、まだ制服でスカートを履いていた時、髪を短くしたいと言ってみても親から許可さえもらえなかった時の記憶。

楽しかった思い出はひとつも覚えてないくせに、いやだった過去は全て悪魔が取り付いているかのように記憶がへばりついている。

この時点で今、僕は明晰夢に入っていることを忘れている、あの時感じていた感覚が全て、一つ残さず蘇ってくる

髪が首につく感触、スカートが擦れる音、風がスカートを捲る感触、「女の子なんだから」が口癖で毎回のように仕草をダメ出ししてきた知らない人たち、

「ひらひらのお洋服着たらかわいいのに」「長い髪が綺麗だね」「女の子らしい仕草ができたらねぇ」

トラウマ映像のように、頭の中をぐるぐるぐるぐる回り回っている。

動悸がする中、この考えが頭の中を支配していた。


女になりたくて生まれたわけじゃない。


人間誰しも、性別なんて自分で決められるわけじゃない、なのに、あたかも本人が決めたような感覚に人は陥り、その性別に合った行動をしていないとダメ人間になる。

クソ社会だよ、何もかも。この日本という国で同性婚が認められていないことも、LGBTが浸透していないことも…男はこう、女はこう。っていう暗黙の了解があることも何もかも嫌いなんだよ…!!

僕たちは生まれた時にはすでにどのようにしても変えられないものを持って生まれてきている。

決めれないのに…自分での決定権を持っていないのに一生付き合っていかないといけない…!

性別に違和感を持っているといじめの対象にあったり、距離を置かれたり…

そんな現実がある限り、人に自分のセクシュアリティをさらけ出すなんて怖くてできるものか。

人が、すごく親しかった人が、自分の前から離れていく光景を…見るのは…

もう、この人生では経験しすぎた。



…。

目が覚めた。重力に引っ張られている身体を無理やり起き上がらせる。

その時背中がぐっしょりと濡れていることがわかった。気持ち悪い…

どのくらい寝たのだろうとスマホで時刻を確認すると、午前3時、これまた変な時間に起きてしまったもんだ。

とりあえずシャワーを浴びることにする、全身汗で気持ち悪い。それほど緊張してたのか。

とりあえずお風呂場に行こう。


ーーー

なぜか、今日の夢を覚えている。毎回明晰夢だろうがなんだろうがすぐに忘れるのに。

シャワーを浴び終わり、ドライヤーで髪を乾かす。重い気持ちは持ったままだったけれど。

さて…3時半。学校に行くのは8時、つまり4時間半暇な状態ってことだ。

…勉強するか。

あんまり好きではないが、僕だって受験生だ。勉強しないわけにはいかない。

重い気持ちは持ったまま塾のテキストとルーズリーフを机に置き、勉強を始めていく。

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