魔王、女子中学生になる。
惣菜テト
第1話 魔王死す!
「...魔王、ようやくここまで追い詰めたぞ!お前の命も悪行も...すべてここまでだ!」
上質な赤いマントを羽織り、世界にある伝説の聖剣のうちの1つを手にしている”勇者フォルティオ”が私に迫る。後ろでは魔法使いヴェネ、黒魔術師ザイル、戦士ハイツ、シスタークーネ達が見下すような表情で横たわる私のことを見ている。
「おい魔王、何か言い残すことは無いか?」
「..................」
完敗だ。私の部下達、四天王も全員こいつらにやられてしまった。もう私にはこいつら5人と戦う魔力も人員も何も残っていない。出血がひどい。このまま何もしなくても私が死ぬのは時間の問題だろう。だが、私はそう易易とこの世を去るつもりはない。
「この期に及んで黙り込むなんてな。じゃあ、トドメだ。その首、王都で末代まで飾ってやるよ」
フォルティオが私の首めがけて刀を振り上げた。...チャンスは今しかない。
「...今だ!四天王ルギウス!背後に回れ!」
全員が一斉に振り返った。その隙に私は城外の森へと転移魔法を使った。この森はここへ迷い込んできた人間が確実に帰れないように設計してある。勇者達だろうがそう簡単には私の居場所がわかるまい。
「...魔物の死体は跡形もなく灰になって消える...ここ数年は、私がどこかで生きているかもしれない恐怖に怯えながら...人類は生活することになるだろう...私の勝ち...だ...バカどもめ...」
そこで私の意識は途切れた。
▽
「アンター!はよ起きへんと学校遅刻するでー!今日初日なんやから気合い入れてきやー!」
知らない天井、知らないベッド、知らない部屋、私は目覚めると全く知らない空間にいた。
「...?なんだここは?助かったのか?」
私が困惑していると誰かが階段を上がってくる足音とキシキシと階段が軋む音が聞こえた。足音は私の部屋の前で止まり、止まったと同時に私の部屋に人間が入ってきてた。
「アンタ今何時やと思ってんねん!お母さん、何度も何度もアンタのこと起こしたで!もう、さっさと着替えてはよ学校行き!遅刻したら内申点に響くで!内申点足りひんかったら高校行けへんからな!」
ヒョウ柄のエプロンというなんとも珍しいものを身に付けている人間が怒鳴る。
「何だ貴様!この大魔王様に向かって人間風情が調子に乗りやがって!不敬だぞ!」
私が反論すると、人間は大激怒し手に持っていた新聞で私をぶん殴った。ヒョウ柄のエプロンに気を取られすぎて武器の存在に気が付かなかった。
「っ!なんという速度だ!何度も光速の雷神トニトルーと手合わせし、幾度となく勝利してきた私が反応できない速度の拳だと!?」
「アンタお母さんに何言うてんねん!たかが人間風情ってアンタも人間やろ!寝ぼけてるんか知らんけど、ウダウダしてへんではよ学校行きや!あ、今日からは普通の服やなくて、制服で登校やからな。制服渡しとくわ」
光速人間は”制服”を私に手渡すと部屋を出ていこうと後ろを向いて歩き出した。
「おい!光速人間!お前は私の命の恩人だ!四天王にしてやってもいいぞ!」
「アンタもうそういう変なんはええからはよ学校行きなさいっていうてるやろ!」
光速人間は私に見向きもせず、バタンッ!とドアを勢いよく閉めて出ていってしまった。
「...とりあえずこの”制服”とやらを着て学校に行けばいいわけだな。命の恩人の命令だ。一回くらい聞いてやってもいいだろう。上流階級の私にこのようなスーツもどきを着ろだなんて。こんな安っぽい服、社交パーティーや舞踏会に着ていったら追い出されるだろう...」
光速人間に渡された制服を着て、部屋に置いてあった鏡の前に立ってみる。
「なんか足がスースーして気持ち悪いな。あっ、私の角と尻尾がなくなってる...また生えてくるからいいか」
スーツやドレスに比べるとまだ動きやすいが、この服を日常使いするのは嫌だ。私が愛用していた特製魔王スーツに比べるとクソだな。特にこの短いスカート。こんなスカートじゃ足を攻撃から守ることが出来ないだろう。そもそもスカートは戦闘時に動き回ると腰から下の視界がスカートで塞がるから嫌いなんだ。尻尾にも引っかかるし。
「まぁ、いい。ここは魔王の寛大な心で許そう」
...お腹すいた。とりあえずあの光速人間かメイドに食べ物を貰おう。階段を降りればすぐ誰か見つけられるだろう。この家狭そうだし。
「あんたお腹空いてるんー?”食パン”あるでー!」
下の階から光速人間の声が聞こえる。どうやらあいつが食べ物をもっているらしい。でも、残念だ。パンは硬くてまずいからそんなに好きじゃない。
▽▽▽
私が食べた食パンと言う四角いパンはフワフワでおいしかった。この世界には固くてボソボソのまずいパンしかないと思っていたから意外だ。スープやシチューなしでも美味しいパンがあるなんて。五分もしないうちに、この家にある全ての食パンを食べてしまった。
「朝ご飯食べたんやからはよ学校いき。今からやと走らんと間に合わへんで」
「光速人間がそういうなら学校に行ってろう」
「はいはい、いってらっしゃい」
小走りで食堂に来る途中に見つけた玄関に向かい、一番私の近くにあった靴を履き、ドアを開けるとそこには見慣れない景色が広がっていた。
魔王、女子中学生になる。 惣菜テト @kennpou
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