ep.2   丸顔

 ある日の昼休み、オレは白井さんとなんとなくおしゃべりしていた。



 いや、正確には購買で売り切れ必至の「猛高プリン」を、「オレも買うけど、ついでに買ってこよーか」的なノリで2人分買い、そのまま自然な流れで「ごいっしょプリンタイム」を勝ち取ったのだ。



 だが、この薔薇の騎士シロー、断じて白井さんを食べ物で釣ったわけではない……!

 失礼にも、ほどがある!

 プリンを幸せそうに食べる、白井さんの笑顔、ただそれだけのために……っ。



「あっ、猛高プリンじゃーん。いーなぁ~、まどか、い~なぁ~~っ」


「もぉ~。つねちゃん、ちょっとだけだよ?」



 白井さんとの、ほのぼのプリンタイムを満喫していると、となりのクラスの女子が割って入ってきた。



 ……ちぃっっ!! 姫滝め、やってくれる!!



 こいつは、姫滝きたき つね。 

 ゆるふわボブ。つり目。長身。スタイルいい。笑顔がかわいい。

 白井さんとは、小・中と同級生で、毎日のように遊びに来る。

 オレとは、学校は別だったものの、部活が同じで顔見知りだった。



「うまっ。でも、まどか、よく買えたねぇ。

プリン、毎日取り合いで速攻なくなるって聞いたけど」


「あ~、これ、熊田くんが買ってきてくれたんだぁ。

自分のも買うからついでに、って。

あ、もちろん、あたしの分は払ってるからね? お金」



 いや、もう、本当は貢がせてほしい。

 …だが、それで白井さんを困らせては本末転倒。お金は受け取っています。

 …………正直、助かってます。ありがとう白井さん。



「ふぅ~~~~ん。熊田がねぇ~~~~」



 ニヤニヤするなっ。やめろっ。ほっといてくれっ。



「熊田、今度うちの分も、買っ…」

「プリンは、1人2つまでだ。」


「……チッ」



 あ、舌打ちしたね? 今、舌打ちしたね? なんて子でしょう。



「あたしの分ちょっとあげるから。

あ、でも、スプーンの半分だけだよ?」



 独特っ。だが、そんな白井さんが好きだ。



「いや、ケチりかた独特っ。せめて、ふたくちにしてよぉー」


「えぇ~~~~…………」



 すっごいイヤそう……そんな顔も、かわいい……。



「なんで、嫌そうにしてるんだよぉ、このぉ~~」



 姫滝が白井さんの頬をプニプニつつく。



「まどかの、ほっぺ、ぷにぷにぃ~~~」



 ………………こここれは…………ッッ!!!!!!


 ……姫滝…………うらやまし過ぎる……。



「ちょっと、やめてよぉ。……むっ」



 白井さんが、プニプニできないように両頬を膨らませる。



 ……丸い……。


 ……いつにも増して……。

 ……しかも本人が、まったくそれに気づいていない…………。


 …………なんだ……?

 …父さん……母さん…………いっさいが過ぎ去っていく…………。

 ……勉強も…テストも……すべてがどうでもいい……。

 ……あるのは目の前の丸顔のみ…………。

 ……………かはっ…。

 その時、オレは、すべての生命の記憶を垣間見た。


 ……姫滝……お前は…………。





「すごかったろ? まどかのアレ。うち、アレめっちゃ好きなんだよねぇ」


「……天才だよ、お前は」


「じゃ、プリンよろしくっ」


「いいだろう」




 オレは、戦友を得た。






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