09 絶対にまた呼び出すからさ

 森を抜けて、北のピスカチオ市に帰る。

 となれば、やっぱりこの子たちを亜空間から呼び出さないわけにはいかないよね。


「――ターニャ、ソーニャ」

「はい、お呼びですか?」

「ですか?」

「うん、これから森を抜けるからね。また実戦訓練をする時間だ。それと、ここからはもう三人を訓練に追加しようと思う」


 そうして、僕は覇流鬼離乙女隊ヴァルキリーズの女の子たちを亜空間からこの場に呼び出す。


「鎧のガイラ、円盾のマドカ、爆裂のプリーヌ」


 出てきたのは十三歳の女の子が三名。今日は彼女たちの実戦デビューだ。

 どうやら三人とも、ターニャとソーニャの話を聞いて今日を楽しみにしていたらしいからね。これまで鍛え上げてきた戦闘技術を存分に試しながら、自分のスタイルを見つけていくと良いよ。


「それじゃあ、森を進んでいくよ。まずは以前と同じように僕が先頭で防御を固めるから、ターニャとソーニャはそれぞれ攻撃を担当してほしい。三人は僕の動きを見ていてくれ」


 この森の浅い部分にいるのは小鬼ゴブリン骨鬼スケルトンなどが多いだろうか。もう少し奥に行くと蛇鶏コカトリスという飛べない鳥の魔物がいたり、魔麻草という細長い魔草が足を絡め取って来たりして、もう少し厄介みたいなんだけどね。


「――魔装甲アムド


 襲ってくる魔物を正面から受け止めつつ、僕は後ろにいるガイラに話しかける。


「ガイラは鎧による物理的な防御の他に、装甲魔術を纏って身を守りながら敵の足止めをしてみてほしい。攻撃はしなくていい。敵を引き付けて耐えてさえいれば、倒す作業はターニャとソーニャがやってくれる」

「……うっす」


 そう説明しているうちに、ターニャの短剣とソーニャの短槍が小鬼を一瞬でズタボロにする。

 すると今度は骨鬼がやってきたので、僕は戦い方を変えることにした。


「――魔盾シルド


 空中に浮かび上がったのは、一枚の盾だ。


 防御系の術式には色々なものがあるけれど、それぞれ用途や利点・欠点が異なる。

 魔障壁ウォルドは場所を起点に障壁を展開する魔術で、強固だけどその場から動かせない。魔装甲アムドは体表面に鎧のように障壁を纏う魔術で、使い勝手は良いけど、守れるのは自分の身だけだ。一方で魔盾シルドは、自分を起点にして一定距離の空間を自由に動かせる盾だから、強度には少し問題はあるものの、なかなか小回りが利いて便利なの魔術だ。


「マドカは身につけた円盾の他に盾魔術を駆使して、動き回りつつ敵の攻撃を回避することに専念するんだ。ガイラ同様、攻撃についてはターニャとソーニャに任せること」

「はい、わかったです」


 同じ防御主体とは言っても、大柄なガイラと小柄なマドカでは向いているやり方が違う。それぞれの持っている魔法も違うことだし、それを活かすような戦い方を模索していくのが良いだろう。


「それじゃあ、二人は僕と交代で前に立ってもらえるかな。大丈夫、ここで出てくる魔物に君たちの防御を抜けるようなものはいないし、危ないようなら僕がすぐに割って入る」

「う、うっす」

「わかったです! うおお、燃えてきたあ!」

「まぁ、僕が割って入るよりもターニャとソーニャが敵を仕留める方が早そうだけど。落ち着いて、これまで練習してきた技術を一つずつ試す気持ちでね」


 そうして、僕はガイラとマドカにその場を任せる。


 敵の前に立ちはだかるガイラは、大柄だけれど気立ての優しい子だ。喋るのはあまり得意ではないけれど、みんなの精神的な支えとなる安定感のある子である。


「ふんっ。無駄っ。効かんっ!」


 ガイラは軟体化魔法というものを扱い、強い衝撃を受けると身体がスライムのように変化してダメージを受け流すことができるのだ。鎧を着込んでいるのは、その柔らかい身体を保護するためでもあるらしい。


 一方のマドカは小柄でちょっとお調子者。ガイラと一緒にいるのをよく見るけど、かなり仲が良いらしいんだよね。楽しい言動でみんなの空気を明るくしてくれる子だ。


「ざぁこ、ざぁこ、こっちだよお!」


 マドカは挑発魔法というものを扱うため、うっかり魔力を漏らすと周囲の人が無意識に彼女へ攻撃してしまうことがあるんだとか。今は盾の扱いを練習しながら、戦闘で扱いやすい派生魔法・合成魔術を研究中である。


 しばらく様子を見ていたけど……うん。二人ともすごく優秀だね。僕が手を出す必要がない。ガイラとマドカが守り、ターニャとソーニャが攻める。この形での戦闘はとても安定感があると思う。


「あの。クロウさん。そろそろ」

「プリーヌ。君も入ってみる?」

「はい。私も修行の成果を試したいです」


 プリーヌは生まれ持った爆裂魔法を利用した合成魔術で戦う魔術師だ。よく使用するのは魔矢ボルトという魔術で、魔弾チャカと比べて速射性には劣るものの、追加の魔力を込めたり追加効果を付与したりと、拡張のしやすい魔術である。

 これまでの彼女は、立ち止まっての魔術行使しか出来なかった。けれど今では、戦場を駆け回りながら好きな角度で魔矢を放てるようになっている。やはり並列思考スキルは偉大だ。


「――高速回転ローテート対象固定ロックオン爆裂魔矢ボム・ボルト


 哀れな小鬼は、ターニャに機動力を奪われ、ガイラによって足止めされ、プリーヌの杖から放たれた魔術によって爆発四散する。うんうん。けっこう威力過剰だと思うから、今後はもうちょっと軽い威力の魔術も練習したほうがいいかもね。


「くくく……あはははは、無様に弾けろ!」

「楽しそうだなぁ」

「見ましたか、クロウさん。小鬼の肉花火ぃ!」


 うん。魔術を放つとテンションがぐんと上がるのがプリーヌの面白いところだよね。たぶん建築してる僕もあんな感じなんだろうなぁ……なんかめちゃくちゃ楽しそうで良いと思う。


 とにかくそんな風にして、彼女たち五人は森を抜けるまでの間に、実戦の経験をどんどん積んでいった。最終的には全員戦闘狂みたいになっていって、「もっと戦いたいです」「まだまだやれるです」「全ての魔物を弾けさせてやる」とみんな目をギンギラギンに輝かせてたんだよね。どうしてこうなったんだろう。

 うん……また森を通過する時には呼び出すことにするから。それまでは、また亜空間で鍛錬しておいてよ。うん、絶対にまた呼び出すからさ。約束するよ。

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