21 良い気分転換になったかな
「え……クロウ様って魔術師連盟に加入してないんですか?」
ジュディスがそう言って目を丸くしたのは、フルーメン市の歌劇場を出たところだった。
ずっと忙しくて先延ばしになっていたけど、今日はようやく時間がとれたから、二人で出かけることになったんだよね。最近なんだか少し元気がない様子だったから、気になってたたんだよ。
それで、ジュディスは「歌劇場デートがしてしみたいです」なんて言っていたから、ちょうど公演していた芝居を楽しんできたところだ。もちろんジュディスは仮面を被ってるけどね。
歌劇団の興行はサイネリア組がサポートしているらしいから、チケットも格安で特等席のものが手に入る。かなりお得だったよ。
そんなこんなで、いくつかの演目の間にのんびりと雑談なんかもしていたんだけど。
「僕の夢は辺境スローライフだからね。魔物を退ける手段として魔術を使ってはいるけど、別に魔術師として名を馳せたいわけでもないし」
「え、師匠もなしにどうやって覚えたんですか?」
「書籍を元に独学だけど」
歩きながらそんな話をすると、ジュディスはうんうん唸りながら頭を捻った。
そう悩む話じゃないんだけどさ。別に何かの組織に所属しなくても知識を得る方法はあるし、子どもだから時間もたっぷりあって、研究も練習もし放題だったしね。
魔術師連盟というのは、魔術師たちが作っている共同体のようなものみたいだ。魔術の教師を派遣してくれたりとか、最新の魔術について情報を得られたりとか、メリットもあるらしいんだけど……その都度お金を取られたりして、けっこう面倒くさいみたいでさぁ。いずれにしろ、僕にはあまり縁のない組織かな。
雑に分類するならば、
その始まりは、個々人が本能で扱う便利な魔法を「誰でも使える術式に落とし込めないか」と研究して作っていったものである。だから、昔の研究資料はわりと大事に保管されているし、僕はそういうのを複製してけっこう読み込んでるからね。
「魔術の研究は古王国時代に盛んに行われていたんだよ。古い書籍を読み解けば、オリジナルの魔術だって作れるようになる。わざわざ魔術師連盟に加入する必要性は感じないかな」
「それはクロウ様だけでは……?」
「ジュディスだって最近は、色々な魔術を覚えていってると思うけど。僕の指導内容は連盟と無関係なわけだし」
まぁ、今後より高みを目指すために魔術師連盟に加入したいなら別に止めないけど、今はまだジュディスは正体を隠さないといけない状態だからね。少なくとも、正々堂々と素顔を晒して自分の名前を公に名乗れるようにならないと、そういう活動も難しいだろう。
「そういえば、セントポーリア侯爵騎士団が調査してる地下遺構なんだけどね。どうやら古王国時代のもので確定らしいよ」
「そうですか。調査は順調なんですか?」
「いや、ちょっと遅れてるみたいだ。何やら難しいリドルを解かないと先に進めない状況らしくてね。僕も相談を受けてるんだけど……探索用の魔道具なんかも提供した方がいいかなぁ」
僕は近頃何かと忙しいから、地下遺構の調査は騎士団に完全に丸投げしていた。気にはなってるんだけど、それに割いている時間はちょっと取れなさそうだからね。
もちろん書籍や魔道具なんかを見つけたら分析させてもらえるようゲン爺に頼んでる。ただ、おそらくはセントポーリア家に縁のある施設だろうから、調査全体の取り仕切りは騎士団にお願いする方が何かと良いだろうと思ってるんだよ。
「まぁ、騎士団も忙しいみたいだけどね。精霊神殿の絡みでも色々と動いてるみたいだから」
「そうなんですか?」
「騎士に聞いた話では、世界各地で似たような動きがあるらしいよ。自分の領地で精霊神殿の実験が行われていないか、少なくない数の貴族が捜査を進めているらしい……ジュディスの偽死は決して無駄ではなかった、ってことだね」
露天で飲み物を買った僕らは、公園をのんびりと歩きながら話を続ける。
ちなみにジュディスは仮面の隙間からストローを差し込んで飲んでいた。たしかにその姿だと、外での飲食はちょっと大変そうだ。
「クロウ様は魔術師として有名になろうとしていない……ということは、やはり錬金術師になるおつもりですか?」
「いや、錬金術師にもならないよ」
「えぇ、もったいないですよ。みんな噂してますよ、クロウ様は将来賢者に任命されるんじゃないかって。あれだけの錬金術を極めているなら、賢者になっても全然おかしくないです」
うーん、興味ないんだよねぇ。
魔術師連盟の方は緩い共同体って感じだけど、錬金術師協会はもう少ししっかりとした組織だ。各都市には錬金術師協会の支部があって、錬金術師の資格試験を行ったり、独自の素材供給網を持っている。
錬金術師協会のトップは「大賢者」と呼ばれる人で、その大賢者は優れた錬金術師の中から「賢者」を選出し、この世界での錬金術の研究や普及を進めているみたいなんだけど。
「そもそも僕は、十二歳になっても錬金術師の試験を受けようと思っていないからね。必要な知識は学んでるけど、僕はスローライフができればいいだけだし」
「実現できるんですか? スローライフ……」
「うん……まぁ、全然見通しが立たないけど、僕は諦めないよ。どこかレシーナが妥協してくれるポイントがないか考えるんだけど、なかなか難しくてね」
そんな話をしながら、僕はジュディスとのんびりとした時間を過ごした。最近は考えなきゃいけないことも多かったから、今日は良い気分転換になったかな。
さてと。やることは山積みだから、もう少しだけ頑張らないとね。
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