20 クラフトゲーム最高

 魔力って便利だなぁと考えながら、僕は穢れの森を歩いていた。


 魔力探知スキルで襲い来る魔物を把握し、魔手スキルで戦鎚を振るう。並列思考スキルで地図を見ながら、たまに亜空間移動テレポートでショートカットをして歩く。そうしていくと、目的地に辿り着くのは思ったよりスムーズだった。まぁ、魔物はひっきりなしだけどね。


「いやでも、素人の僕でもできるんだから、本職の冒険者だったらもっと上手くやるのかな。どうなんだろう。ハスターあたりに聞いてみようかな」


 さてと。そうして僕がやってきたのは、辺境伯と事前に話し合って決めていた場所だ。

 穢れの森の奥地にある、特に瘴気が濃い低地。普通の人間だったら一回呼吸しただけで体調を崩してしまいそうな濃い瘴気に満ちている。まぁ、僕は辺境スローライフに向けて鍛えてるから平気だけどね。


 本当はもっと早くに作業を始めたかったけど、辺境伯からストップをかけられてたんだよ。

 なんでも、穢れの森を下手に刺激するとスタンピードの開始が早まる可能性がある。だから、やるとしても魔物が動き始めてからにしてほしいって。まぁそれは自体は正しい判断だと思う。僕は心待ちにしてたけどさ。すごく我慢したよ。だから、もういいよね。


 作業予定エリアの周囲に障壁魔術を展開し、魔物の侵入を阻止する。


「さてと、まずは木こりからだね。よしよし」


 前世ではクラフトゲームが趣味だったけど、とりわけ木こりや整地のような無心になれる作業というのが大好きだった。いつも何かと理由をつけては、森や山を平らにしていた気がする。

 現実の問題を忘れ、時間を浪費しながら、心地よい破壊音に身を委ねる時間はとても心が凪いで、虚無になることができて……いけないいけない、これを語り始めると長くなってしまう。


 僕は亜空間からクラフトアックスを取り出す。

 さぁ、木こりタイムだぞ。


「へいへいほー、っと。クラフトゲーム最高」


 へいへいほーってどういう意味なんだろう。

 そのあたり、実はちゃん知らないんだよね。


 クラフトアックスは僕の辺境スローライフ計画を支える大事な魔道具で、クラフトゲームのように木こりを行うことができるものだ。その仕組みはとっても簡単である。

 この斧を木の幹にコーンと打ち付けると、木が亜空間に収納され、木材加工用の魔道具が自動で作動する。で、錬金術では木材の構造を崩して再構築できるので、種類ごとにキューブ状に固めて素材として保管しているのだ。


「あ、吸肉葡萄は確保。猫蜘蛛も確保。あの果実は小鬼ゴブリンが好きなんだっけ。めちゃくちゃ臭いやつ……とりあえず確保」


 鬱蒼と生い茂っているだけに見える森も、それを構成している個々の植物を見ていくとなかなか興味深い。まぁ、魔物なんかも含め、僕はそれを根こそぎ回収していくわけだけど。もちろん、決めた範囲の中で、必要に応じてだ。


 森の木々が伐採されれば、あっという間に千メートル四方の広場が現れる。よしよし。まだ地面はボコボコだけど、だいぶ見通しがよくなったぞ。


「次は整地だね。地中探査グラウンドサーチ


 広場の中央で、地面に手を当てて地中探査魔術を行使する。なるほど……粘土クレイスライムが土をまだらに粘土質に変えているから、全体的に土質がガタガタだな。やっぱり一度全部掘ってから均質に埋め直した方がいいか。あと排水も工夫しないとね。


 僕はクラフトシャベルを取り出す。やっぱり建物を作るなら、地盤をしっかり改良しないと。


「サクサクだぁ。クラフトゲーム最高」


 クラフトシャベルもまた、僕の辺境スローライフ計画を支える大事な魔道具だ。うん、そう。こうやってクラフトゲームのように土を掘りたかったんだよ。

 仕組みはとても簡単だ。サクッと土を掘ると、その周囲のキューブ状の空間にある土が亜空間に収納される。それを魔道具によって分別し、最終的にはキューブ状の素材として押し固めて保存するわけだ。


 作業エリア付近に座標の基準点となる魔道具を配置すれば、シャベルが収納するキューブの方位や高度なんかは意識しなくてもきれいに整う。つまり、何も気にせずサクサク掘れば良いだけなのである。楽しいなぁ。


「よし、こんなもんかな」


 地面がカチカチの層に辿り着いたので、ここからは少しやり方を変更する。


 クラフトピッケルを握り、狭い範囲の地面を真下に向かって、支持層となる強固な地盤まで一気に掘る。そこに、魔鋼製の柱を突き刺すように設置して、中にコンクリートを流し込む。というのを、整地範囲の地面に対して等間隔で行っていくことで、地盤をしっかりと改良するのである。けっこう大物を作るから、ここはしっかり作り込まないとね。

 まぁコンクリートと言っても、この世界の素材で作ったなんちゃってコンクリートなんだけど。前に鉄鉱石を採掘しようとして石灰石らしきもの掘り当てたことがあったから、セメントは割と大量に備蓄してある。そこに砂や砂利なんかを混ぜていくわけだ。あとは古い書籍にあった配合を自分なりに試行錯誤しながら改良し、今日の作業に向けてたくさん作成しておいたんだよね。魔力を流すと綺麗に固まるのが、このコンクリートのとても便利なところだ。


 そこからは、掘った地面を石材キューブ、魔鋼杭、コンクリートなどで頑丈に埋め戻し、周辺の状況に合わせながら頑丈な地盤を作る。ここまでやれば、あとは仕上げを残すのみだ。


「てってれー、クラフトハンマー」


 戦闘に使う戦鎚とは、また別のハンマー。

 これで叩くと、仮置きで簡易的に接着されていたキューブの内部が流動して、隣り合ったキューブと繋がって接着面が滑らかになる。コンクリートも一気に固まるからね。ゲームを現実化するのには必要な工程なんだよ。


 魔力を込めて、ゴンと地面を叩けば。


「――整地完了。さて、ここからは建築タイムだ」


 クラフトゲーム最高。

 僕は湧き上がる楽しさをそのままに、引き続き建築作業へと移っていった。

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