第二章 ヤクザな大掃除
06 途中で投げ出すことは絶対に許さない
サポジラ一家での用事を済ませた僕は、しれっと事務所を抜け出し、事前に予約しておいた商人向けの宿へと移動してから亜空間に入る。
すると亜空間内に作った一時避難所では、子どもたちがキャッキャと楽しそうに様々な遊具で遊び回っているところだった。
うんうん、みんな最初は困惑して固まっていたけど、なかなか逞しいというか、ずいぶん適応力が高いよね。
「てめえら喧嘩すんな、ちょ、仲良く――」
「こら男子! ちっちゃい子に手加減を――」
「魔法禁止っつってんだろうが――」
うんうん。楽しそうで良かった。
孤児たちも当初はかなり困惑している様子だったんだけどね。
ガーネット謹製の
すると彼らは「なんか分かんないけど、とにかく遊べるうちに遊び貯めておこう」という謎のド根性を発揮して、疲れた身体に鞭打って駆け回り始めたのだ。
あの、そんなに生き急がなくてもいいんだよ。もっとゆったり過ごしててもさぁ。ほら、絵本とか粘土とかお絵かきセットとかもあるし、お昼寝しても良いし。なぜか誰も見向きもせずにひたすら走り回ってるけど。なんで。
「……クロウ。お前やりたい放題だな」
僕の隣でそうボヤいたのはヒャダル君だった。
彼は現在、独房を出て子どもたちの世話を担当してくれている。もちろん五十人の世話を一人で回すのは無理だから、ゴルジをはじめとする年長者を部下に任命して取りまとめているらしい。
この短い間に、彼は子どもたちからはずいぶんと慕われているようだった。僕なんかは、子どもたちから怪訝な目で見られて遠巻きにされてるのにね。悲しい。
「お疲れ様。ヒャダル君になら子どもたちを任せられそうだね。ほら、教師になりたかったって前に言ってたからさ。お願いして正解だったよ」
「それにしても急すぎる。事前説明くらいしてくれ。いきなり子どもを押し付けられて、こっちは面食らったぞ」
それはごめんね。
ヒャダル君はどうも、幼少期に神殿で勉強を教えてくれたお爺ちゃん先生に感銘を受けて、教師という仕事に憧れていたらしいんだよね。それまではバンクシア家の洗脳教育のようなものにどっぷり浸かっていた彼が、自分自身を見つめ直すきっかけになった先生らしい。
とはいえ、ヤクザの子が神官になるわけにもいかなかったから、夢は夢のまま諦めるしかなかったみたいだけど。
「ねぇ、ヒャダル君。僕は一連の事件を片付けたら、サイネリア組が運営する民間孤児院の体制を大きく変えようと思っててね。案を練ってるところなんだ」
なにせ今の孤児院は問題だらけだからね。
「まず手始めに、この都市の孤児院を色々と新しくしてみようと思って。で、ヒャダル君にその運営を任せたいと思ってるんだよ。どうかな」
その提案に、ヒャダル君は目を丸くする。
「……は? 俺は処分待ちの身だぞ。サイネリア組から破門され、バンクシア家からも追放されて」
「そうだね。そして君の処遇を決めるのは僕の役目だ。だから、君の過去の罪に見合うだけの、めちゃくちゃ大変な仕事を割り当てることにしようと思ってさ。これは罪に対する罰だから、途中で投げ出すことは絶対に許さない。それなりの覚悟を持って頑張ってもらうから」
そもそも孤児院は慈善事業ではないしね。
もちろん、子どもたちを酷使することは僕が許さない。その一方で、赤字を出し続けることはサイネリア組が許さないだろう。つまり制約が色々とある中で、事業として継続していけるだけの利益を上げてもらう必要があるわけだ。僕に考えはあるけど、軌道に乗るまでかなり大変だろうから……ヒャダル君にはキリキリ頑張ってもらわないと。
「甘すぎる。これじゃ処分になっていない」
「そうかな。けっこう大変だと思うけど……とりあえず、組に所属できないなら、僕に雇われている一般人という身分で働いてもらえばいいよ。この都市の孤児院はある種の実験場になる。新しい形の孤児院事業が本当に商売として成り立つものなのか、色々と試行錯誤しながら検証していくことになるからね。ここで有用な知見が得られれば、帝国西部全域で孤児院の改革をしていくことになると思うよ」
結果が出るまでには年単位で時間がかかるだろうけどね。
このまま一般人として働き続けてもいいし、ヒャダル君が望むのであれば、大きな実績をもってサイネリア組に復帰することもできるかもしれない。あとは彼次第といったところだろうか。
「それにさ。仮にヒャダル君に対する裁定が甘いと言われたとしてもね……サイネリア組の中で、僕が甘い人間だなんて舐めた評価をされることには、たぶんならないと思う」
「は? それは」
「サポジラ一家は確実に潰す。徹底的にね。優秀な調査員が情報の裏付けを取ってくれたんだけど……奴らは予想以上にマズいことに手を染めているみたいなんだよ。下手をしたら、サイネリア組そのものが帝国から締め出されるような、かなり悪辣な所業をさ」
僕はついため息を漏らしてしまう。
これは辺境伯家にどんな形で情報提供するかも、よく考えないといけないな。というのも、この件はあまり軽率に行動すると、国同士の戦争が始まってしまうような案件なのだ。サポジラ一家がここまで悪辣なことに手を出しているのは、本当に想定外だった。
……
この世界で少数民族と呼ばれている人たちを閉じ込めて、人体実験をしているだなんて。
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