第17話 その過去に終止符を

「う、海崎君って、やっぱり覚えてるんだよね……? 私のこと……」

「……っ⁉」


 海崎君は何も言わない。

 やっぱり今じゃ無かったよね。

 こんなところで言われたって困るだけだよね……。

 き、気まずいよぉっ。やっぱり言うんじゃなかったっ……。


 でも、行ってしまったのだから、下がろうにも下がれない。

 シーンと続く静かな沈黙を肯定と受け取って、「海崎君」と言う。


「海崎君は私のこと、覚えてるんだよね……?」


 うすうす感じてたし、あの時言われた言葉はあの事故の時に行ったセリフだから、会っていた以外に考えられない。


「……っ」

「私っ、私っ……!」


 いつか会うことがあったら、いちばん最初に言いたかった言葉。

 もう一番最初じゃないかもしれないけど、それでもいい。


「あの時はごめんね……。ずっと謝りたかった……っ。ごめん、ごめん……っ」

「……お前……」

「ずっと忘れてなかった。水泳ね、あの時……嫌いになっちゃったかもしないけど、海崎君がいるからまた頑張ろうって思えたの。だから、今はすっごい感謝してる」

「……」


 海崎君は何も言わずに、私とは逆の方向へと歩き始めた。

 うん、これで満足。

 言いたいことははっきり言えた。

 私も静かに歩きだす。


「……オレも、……た」


 静かな廊下に、海崎君の小さな声が響いた。

 でもしっかり全部は聞こえなくて、「え?」と聞き返す。


「だから、オレも忘…てな……た」

「え?」


 さらに聞きなおすと海崎君はいらいらしたように床をけった。


「あーもういいから。大したことじゃないし。さっさと帰れ、で、休んで来い」

「うん。じゃあ……またね、

「っ……‼ 突然、やめろよ……」


 ――ねぇ、本当はしっかり聞こえてたよ。

   忘れてなかったって、言ったんだよね? 聞こえてたよ。

   嬉しい。



 何回か、考えたことあったの。

 私と再会したら、どんな風に言われるかなって。

 あの時のこと、怒られるかなって。

 

 ――違った。


 チラリとナギ君を見ると、照れてるのかな、耳まで赤い。

 突然顔を真っ赤にしたナギ君に向かって手を振り、私はその場を後にしたのだった。


 

 

 2年前の、不思議な懐かしさを感じながら。

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