第16話 再会は唐突に

 昨日は、とくに大きな支障はなかったけど、いろいろ不安定だからと部活は休んだ。

 今日も休めって先輩たちからは言われたけど、すこしだけ部活の様子をのぞこうと思って更衣室の前を通りかかった。


「あれ、舞ちゃん⁉ 今日は来ないって言ってなかったっけ? あっ、そう、昨日大丈夫だった⁉ いや、大丈夫じゃないと思うけど、ええと――あ、あと海崎君ともなんかいろいろあったようだし、気になるなーって……あっ、これ聞いちゃいけないかっ⁉」

「あははっ。水菜先輩、そんなに気にしなくて大丈夫です。う、海崎君に関しては、ちょっと今はなにも……言えないですけど……」

「まーそれはいつか話してくれるってことでいいかな?」

「あっ、ハイ……」


 きっといつか、話すことになる。

 私の過去も、海崎君との全ても。

 でも、きっとそのタイミングは今じゃない。


「で、結局今日の部活はどうするの?」

「あっ、今日は休みます……あかりんは委員会があったようで帰りの会で休むことを伝えられていないので言っておいてもらえますか?」

「うんうん、了解っ! じゃあしっかり休んでね!」

「はい……!」


 みんな、ホント優しいなぁ……。

 体調はいいし、本当は部活がしたかったけどああ言ってくれたのだから断れなかった。


「おい」

「ひゃあっ⁉」


 突然後ろの方で聞こえた聞き覚えのある声に、私はその場で硬直する。

 振り向かなくてもわかる。後ろにいるのがだれかなんて。


「……舞だよな」

「……海崎、君」


 今、いちばん顔を合わせたらまずかった人だ。

 海崎君こそが昔会っていたナギ君だと確信したあと、どう接すればいいのか分からない。


「体調は大丈夫か?」


 前のことなんて気にせず普通に話しかけてきた海崎君に、私はコクリと首を縦に振る。


「あっそ……」


 彼の顔が、一瞬だけ和らぐのを感じた。

 でもそれは本当に一瞬のことで、すぐに不機嫌そうな顔に戻った。


「心配してたぞ、晴琉さんたち。迷惑かけるなよ」

「うん……海崎君にも迷惑かけたよね。ごめんね」

「別に」


 私がありがとう、と頭を下げてちらりと彼の顔を見ると、ほのかに顔が赤い気がした。


「……じゃあオレ、部活行くから」


 シーンとした沈黙を破るようにして、海崎君が私の横を通っていく。


「待って……! あのさ……っ!」


 聞かないといけないことがあったのを忘れていた。

 私の声を聴いて真横で足を止めた海崎君は、ちらりと私を振り返って「なに」と聞かれる。


「う、海崎君って、やっぱり覚えてるんだよね……? 私のこと……」


「……っ⁉」

 

 シーンとした廊下に、私の声が響いた――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る