第15話 記憶の再生〈渚side〉

――『あ、私は舞です。水森舞』


 やっぱり、と思った。


 舞。近所の水森さんの子。5年生。海。2年前。夏休み。水難事故。


 舞の声を聴いた途端、全ての記憶がよみがえる。

 あの時の水難事故のことはもちろん、あの時一緒にいた子が、目の前にいるこの子だということを。


 オレはあの2年前、5年生の夏休みを最後に、転校した。

 もともと親の仕事で別のところに行くことは知っていたし、あの事故の後に決意したのだ。

 1年で戻って来れる、と聞いていたけど、実際に帰ってこれたのは中学の時だった。


 舞は前はもっと元気で、自信にあふれていて、どんな時も前を向いて、とにかく泳ぐことが好きな女子だった。

 でも、再会したときに感じたのは全く真反対ともいえるものだった。


 

 前、清原が溺れる寸前で助けたあの事件の後、舞に思わず言ってしまった。

 あんな場面を見たら、嫌でも前の事件を思い出すだろう。

 それはきっとトラウマになっているし……。


 ――『……さっきの、お前か?』


 思ったよりも小さく、かすれた声が出て、自分でも驚いた。

 そして小さくうなずいた舞は、心底不思議そうにオレを見てきていた。


 ―――


 今、目の前で起きていることが信じられない。


 入部したら、もっと話して、いつかあの時の礼をしようと思っていた。なのに……。


 なんで。


 ――なんで、舞が溺れているんだ?




 ――気が付いたら走っていた。

 周りの目なんて気にならなかった。



 ただただ夢中だった。

 こんなに夢中になって誰かを助けたいと思ったのは初めてで。


 プールサイドを走って、叫ぶ。


『舞っ! 生きろっ! 頑張るって約束したんじゃねえのかよっ!!』



 あの時した約束を破るのか?

 生きろって、頑張れって、お前が言ったんじゃねえのか?


 すぐに水菜さんが泳いで助けに入った。

 オレも飛び込もうと思ったけど、深さ的にこの場所からは無理だと判断し、足から水の中へ入れた。


 ハッとして舞を見れば、その水面には弱々しく手が上がっていて。

 それがもう一度沈まないように、オレは必死に声をかけ続けた。


 もしも沈みそうになったら、こっちから手を差し伸べると決意しながら。



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