第18話 同じ場所に立つために

「ええっ、そうなの⁉」

「うんうん、まじでよかったよーっ」


他の組の友達と話すために賑わう昼休みの廊下。


「……あかりん、前の部活、私休んじゃってごめんね」

「そんなことないよー。なに、家の用事があったんだっけ?」

「あっ……そっ、そうなの。ごめんっ……!」


そうだった、顧問の先生やあかりんには家の用事で帰ったことにしていたんだった。

本当は嘘をつきたくなかったけど、あかりんには何も心配をかけたくなかったから。

また……話すときがあれば、私がその時話せたら、しっかり話そう。


「だーかーら! それは気にしてないから大丈夫!」

「ありがとう、あかりん。……あっ、待って、あそこにナギく、海崎君いるよね?」

「あっ、本当だ!」


ふたりでそっちを見ると、そこには本を数冊抱えたナギ君が。

お昼休みだから、図書館にでも行くのかな?

それにしても危なかった。うっかりナギ君と言ってしまうところだった。

いや、呼んでもいいと思うんだけど、あかりんには夢のことも、事件のことも言ってないから……一応あかりんの前では以前通り海崎君呼びだ。


「ふふん、気になってるの?」

「ふええっ⁉ 何言ってるの、あかりんっ⁉」


にやりと笑うあかりんに、私は目の前でぶんぶん手を振る。

ちょっと話したいことがあったんだった。


最近ナギ君は部活にあんまり来ていなくて……部活で会えるかもわからないし……。

あかりんにああ言われた後だけど、今しかない。


「あっ、あの海崎君!」

「……あ?」


不機嫌そうにこっちを振り返ったナギ君は、私に気が付くと「……おまえか」と言って、プイッと横を向く。


「……で、急になんだ」

「あっ、その……」


わたわたとぎろりと鋭い目で見られて、うっと言葉に詰まる。

それでも何とか言葉を探し、おずおずと話し出す。


「あの……もしよかったらなんだけどっ……」

「……」

「土曜日一緒に水泳、練習してくれないかなっ⁉」

「………はっ!!!??」


やばい、いきおいに任せて言っちゃったけど……。

恐ろしい程に周りの廊下が静かだ。


ひやりとして周りを見ると、そこには私たちに好奇の視線を向ける人が。

やっちゃったっ⁉

さあああっ、と顔から血の気が引いていく。

何とかしなくちゃ、と急いでまくしたてる。


「そっ、その! 水菜先輩たちも誘うのっ、ええと、あかりんも、晴琉先輩も!!」

「………………じゃあ、なんでオレにそれを言った?」

「あっ、えっと、近くにいたから……?」


自分で言ってて分からなくなってきた。

するとナギ君はこらえきれなくなったのか、くっと言って笑い始めた。


「え、と、あの……」


ナギ君が笑ってるところなんて初めて見た。

こうしてみると一気に同い年なんだと感じる。

まあ、実際同い年なんだけどね。いつもはおとなしいから。


「なんで疑問形なんだよ。……まあいいよ、土曜日な」

「あっ、ありがとうっ! せ、先輩にも伝えておくね!」


冷たく振り払われそうで不安だったんだよね。


「本当にありがとうっ」


良かった、とホッとして笑顔になる。

それじゃあ、詳しく予定を立てるか、と思いナギ君に目を向けると、ピタリと固まっていた。


「ナギ君?」


私が名前を呼ぶと、我に返ったようにナギ君が瞬きする。


「……なんでもね。オレ、図書館行ってくるから」

「……??」


首をかしげながらも、彼の時間を邪魔してしまったことに深く謝罪だ。

詳しいことはまた今度でも大丈夫。


「ごめんね、また部活で会えたら。じゃあね!」

「お、おう……」


役目は終えたとばかりに、私はルンルン気分で教室にいたあかりんのところに行く。


「で、どうだったの? やけに気分よさそうだけど」

「あっ、土曜日の自主練習に付き添ってほしくて。あかりんも来るとか言っちゃったけど……来る?」

「うーん、土曜日かぁ……。アータシカ、ワタシ予定ガアッタヨウナ」


???


「……あかりん、絶対予定ないでしょ」

「エエッ。ホントデスヨー」


じとーっとした目で見ると、あかりんはその視線から逃げるように目をうろうろ。

まあいっか、たまには休みたい日もあるよね。


あとは水菜先輩にも聞いてみよう。あとは晴琉先輩にも。

あ、晴琉先輩は土曜日予定があるって言ってたような。


部活で聞こう、と思い忘れないようにメモを取る。


先輩たちに指導してもらえば……私も、行けるよね??


―――――


「あっ、水菜先輩っ!」

「センパイだ~っ! こんにちはーっ」


放課後、昇降口であかりんとしゃべっていると、2年生の下駄箱から出てくる水菜先輩を見つけた。

今日は部活がなかったため、結局聞けなかったので今会うことができてよかった。


ふたりで水菜先輩に向かって駆けつけると、「何かわたし人気者⁉」と言って笑っている。


「どうしたのー? 二人とも」


にっこり笑いながら聞いてくる先輩に、あかりんがひじをつついてきた。


「じつは、今週の土曜日に自主練をしたいんですけど……水菜先輩、来ますか……?」

「もちろん行くよ。で、急にどうしたの? なんかやる気だね?」

「水菜先輩にはバレちゃいますか」


本当はちょっと黙っておくつもりだったんだけど、登録とかもしてもらわないとだしね。


「じっ、実は、今回の記録会、私も参加したくて!」

「「おおっ!」」


あかりんにも言ってなかったから、二人でポカーンと驚いて固まっている。


なんとなく水泳に対してがあることは分かっていたと思うから、こういってきたのはビックニュースに違いない。

以前登録するときに、ちょうど『泳げないっ……』って落ちこんでいた時だったから私は登録してもらわなかった。

だけど、今回やらなかったら絶対後悔するっ。


「なのでっ、あの、登録してもらっていですか……?」


声が震えて、最後の方が小さくなってしまった。

そんな私の様子を見て、水菜先輩がぽんっ、と肩を叩く。


「もっちろん。やる気が出たのは良いことだし、何よりわたしも舞ちゃんとやりたかったよーっ」

「あ、ありがとうございます」

「まいまいも参加するなら、より一層楽しみ! 練習ももっと頑張らないと!」

「だね。ということは、土曜日練習したいっていうのは記録会に向けて?」


何もかも分かっているようだ。

私ははい、とうなずいて、よろしくお願いします、と頭を下げた。


先輩が来てくれて、ナギ君までもが教えてくれるなんて絶対にいい記録を残そう!










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