第19話 地獄のレッスン始まり⁉

 6月に入り、 部活にも慣れてみんなのんびり中。


 だけど――。


「足はもっと力強く! 手もしっかりかいて!」


 泳いだとたんに聞こえるナギサ師匠の厳しいお言葉が!


 25メートル泳ぎ切ると、向こうの方ではメガホン片手に叫ぶ水菜師匠の姿を発見。


「そのちょーし! あと25メートル!」

「はっ、はいぃっ!!」


 水中ででびしっと敬礼のポーズをとって、ふっ、と息を吸って泳ぎ出した。


「遅くなってるよー‼ もっと早く!」


 これじゃダメなんだ、もっと頑張らないと!

 今までは『どれだけやってもダメだ』って思ってたけど……。


「頑張って! あと少しぃっ!」

「最後だから頑張れよ!」


その先の未来に、希望を持つことができたから。


「ぷはぁっ」

「お疲れさまーっ。ささ、休憩しよ?」

「……! はいっ!」


 ナギ君は何も言わないけど、最近分かるようになってきた。


「ナギ君も応援、ありがとう……!」

「まーオレは何もしてないけど……」


 すぐにそっぽを向いてどこかへ行ってしまう。

 でも、あれは照れてるからって、最近分かったの。


「やっほーまいまい、どんな感じ?」

「あかりん! 来てくれたの⁉」


 うしろから声をかけられて振り向くと、そこには大きいバックを持ったあかりん!

 予定が入ってて遅れてならいけるかも……って言ってたから、もう少し後だと思っていたんだけどよかった!


「なに入ってるの?」


 私がバックを指差しながらそう言うと、あかりんは静かに笑ってテーブルへと移動する。

 水菜先輩が用意したのか、テーブルには休憩用の飴とか、すぐに食べられるようなお菓子が並んでいた。

 そこにあかりんがドン、とバックを置き、中を開けるとそこにあったのは……。


「はちみつレモン⁉」

「ふふふ、やっぱり夏の差し入れといったらはちみつレモン! 水で割っても、はちみつレモン水として飲めるし、炭酸水とかでもよさそう! 後はフツーにそのままでも食べられると思うよ!」

「朱里ちゃん、ありがとう! おーい、海くーん、早く来ないと食べちゃうよ!」


 その声を聞いたナギ君がテーブルに集まって、みんなで休憩と称したおやつパーティーの始まりだ!


「じゃあ、はちみつレモン、いただきまーす」


 そっと口に運んだ水菜先輩を、3人で見つめる。

 すると、一口かじって突然顔をしかめた。


「んっ⁉ ごほっ、ごほっ、あ、朱里ちゃん、これ何入れたっ⁉」

「えっ、おいしくないですか? アレンジしてみたんですけど……」


 水菜先輩の反応を見て、私たちも恐る恐る口に運ぶ。


「あっ、え、なんか辛い!? そしてしょっぱいし、なんか妙に甘ったるい!」

「……う、……これ、ひどすぎだろ」


 ナギ君が何かをのどに詰まらせたようにせき込み、あわてて水を手に取った。

 私もあわてて近くにあった水を飲む。


「たしか、暑い夏には辛いものが食べたくなるっていうから、唐辛子でしょ。スイカには塩をかけるっていうから、レモンにも塩を投入。でー入れすぎちゃったからはちみつと砂糖を多めに入れてつけたの」

「混ぜちゃいけなーいっ! 危険!」


 どこかで唐辛子の味のピリッとした味が……残ってる……。


「……普通のはないのか、それか別のやつか」

「あっ、もう一個作ってきたの! じゃじゃーん!」


 一同、あかりんの手元を凝視。

 そこにあったのは……。


「パイナップルとキウイの夏ゼリー!」

「「「…………」」」


 もう怪しい。


「みんなどうしたの? たしかまいまい、パイナップルとキウイが好きだったようなって思いだして」

「あはは……そう言った、かも」


 ささっと、水菜先輩、ナギ君と目線を合わせる。


『ゼリーを作るくらいで失敗はしないだろ』


 みんなの目がそう言っていた。

 それを信じて、私はそおっと紙コップに入ったゼリーを受け取る。


 そしてあかりんからスプーンを受け取り、いざ、ゼリーにスプーンを突っ込む。


 ん?

 んんんんんん??


「なんか、まだ固まって……ない、よね?」

「うん、ジュースだねぇ、これじゃあ」

「ホントだな」


 みんな、スプーンでゼリーをかき混ぜながら口々に言う。

 たしか、キウイとかパイナップルってゼリーを作る時に固まりづらいとか聞いたことあるような……??

 ありゃあ、これはジュースとして飲むかぁ……。


 食べられなくはないので、みんな飲んでいる。


「あたし、料理の才能なさすぎるぅ―っ」

「確かに、さっきのといい、かなりヤバいな」

「う、海崎君ひどいっ……」


 ナギ君の言葉にガーンとかなりのショックを受けたようだ。

 か、かわいそうっ……。


「あかりん、私はその~、ゼリーは固めれば大丈夫だと思うよっ。はちみつレモンはまた一緒に作りなおそ?」

「まいまい~っ。そーだよねぇ、また一緒に作ろ……」

「そうじゃん、朱里ちゃんと舞ちゃんで、記録会の時に差し入れとして作ってくればいいんじゃないかな?」


 記録会の差し入れか……!

 ナイスアイデアです、水菜先輩……!


「その時はお前が作れよ。あんなやつごめんだ」

「え、でもあかりんもちゃんとレシピ通りやればうまくいくと思うし……」

「それなら味見はしてこい」

「わっ、わかったよ」


 顔をしかめているナギ君に、私は苦笑いする。

 た、確かにちょっと……独特な味だったけど……ちゃんとレシピ通りやればあんなことにはならないハズ……。


「そういえば舞の今日の記録、見るか?」

「あっ、うん」


 私は結局、平泳ぎの種目で記録会に出場することにした。

 まあ、何でもよかったんだけど、いちばん泳ぎやすくて好きな泳ぎ方だから。


 私はナギ君から紙を受け取って、記録の欄に目を通す。


「遅いなー……」


 そこに書かれていたのは53秒とか、55秒、56秒、などなど。

 水泳を習っていなければ、これはかなりいい記録。


 でも、水泳を習っている人には、50秒切ることが普通なのだ。


「これは……まあ……あんまりやってなかったならしょうがねえな。でも、目標としては50秒切りたい。このままだと最下位だろうな」

「さ、最下位っ……」


 記録会まであと2週間。

 最下位だけはまぬがれたい一心で、この後もスパルタコーチによって指導されることを決意したのだった。














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