第10話 親睦会の予定
「これから水泳部第一回、ミーティングを始めます。あとは水菜頼んだ」
「オッケー。じゃ、出欠取りまーす」
1回目の重要なミーティングだったら、という不安があり、水泳はやらなくとも、参加することにした
前の机に水菜先輩と晴琉先輩。
私の隣にはあかりん。
そして隣には海崎君。
いつもは30人ほどいる賑やかな教室も、水泳部の5人だけとなるとかなり広々として見える。
ただ、それでも静まりかえらないのは水菜先輩のおかげだ。
「よし、みんないるね」
ぐるうっと教室を見渡して、名簿にチェックを入れている。
「今日は、今週の日曜日……明後日のことについてだな」
「そーそー。あ、一年生、部活動予定表配るねー」
部活動予定表……?
土曜日とかの予定も確認できるかな?
渡されたプリントを見ると、土日のどちらか一日があって、もう片方の日が休み、という感じになっていた。
今週は日曜日に部活だ。
そこまで目を通して、横の備考と書かれた欄の文字に目を丸くする。
『親睦会』
え、親睦会⁉
親睦会って、交流会みたいなヤツだよね⁉
びっくりして固まっているところに、水菜先輩が話を進める。
「で、もう気が付いてくれた人もいるようだけど、日曜日は親睦会を行いまーす!」
パチパチパチー! という水菜先輩の拍手だけが教室に響く。
「……え、みんなっ⁉ もうちょっと反応してよ!」
シーンとする教室に、あわあわとする水菜先輩。
それを見た海崎君、すかさずフォロー。
「……これ、何やるんすか」
つまらなそうに頬杖をついた海崎君が、計画表を見ながらつぶやく。
すると水菜先輩が待ってましたとばかりに説明を始めた。
「えっと、簡単に言うと市のプールを貸し切りにして、そこで遊びまーす!」
「「ええっ⁉ 市のプールを貸し切りっ⁉」」
水菜先輩、大きな権力の持ち主……っ⁉
ポカーンと口を開ける一年生に、水菜先輩の隣にいた晴琉先輩が付け足す。
「水菜の家が運営してるんだよ」
えええええええっ!!!
オドロキの事実に、頭がなかなかついていかない。
マジですか……。
「ほらさ、MIZUNAプールって行ったことない?」
MIZUNAプール……!
めっちゃ最近できたプール……!
よくよく考えたら、水菜先輩の水菜、とMIZUNA、かけてあるんだ……。
「それって、一日貸し切りですか?」
隣のあかりんが手を挙げて質問する。
確かに……。
一日っていうわけには、いかな――。
「うん! おじいちゃんに頼んだら、一日貸し切りオーケーだって! 売店とかはやってないけど、イートインスペースとかは使っていいし、みんなが楽しみにしてるだろう、ウォータースライダーも、やっていいって!」
ウキウキと楽し気に言う水菜先輩。
それにともなって、私の顔には影が差していく。
ひいいいっ、この計画、意外に本気だ……!
普通に学校のプールとかでワイワイやるんだと思ってたよ……。
甘く見てた……。
「……ということだ。基本は一日予定だが、別に途中まででも、途中からでもいい。あ、伝え忘れていたが……完全に貸し切りというわけではなく、午後からはもう一つの団体も使うそうなので、そこは分かっておくように。顧問の先生は、午後から来ることになっている」
さすがにそうだよね……。
あんな広いプールを、たったの5人で貸し切りって……。
ホッと胸をなでおろす。
「今日はこの連絡だけかな。みんな、楽しみにしていてねー! あ、お弁当は必要ね!」
この話は終わりとばかりにパンパンと手を打つ水菜先輩。
「まいまい! もちろん朝から行くよね⁉」
「えっと……」
晴琉先輩とかは朝から行くだろうし……。
きっと、あかりんも思いっきり楽しみたいよね。
「ごめん、私、ちょっと一日は無理かもしれないから――」
午後から行こうかな、と言おうとしたところで、あかりんの声が被る。
「じゃ~あたし一人で行くね! 楽しみーっ!」
「おっ、朱里ちゃん来てくれるの? やったぁ、私も朝から行こうかなあ」
キラキラと目を輝かせて身を乗り出す水菜先輩に、隣のあかりんが「一緒に行きませんか?」なんて話しかけている。
私、行かないことになってる?
教室から出て、キャッキャと楽しそうに話しだすみんなを見て、動く気にもなれずぼうっと机を見つめる。
「お前、行かねえの?」
突然上から降ってきた声に、少しだけ顔を上げる。
あれっ、まだいたんだ。
そこにいたのは、こっちを冷たく見下ろす海崎君。
そうだよね、ずる休みって思われちゃうもんね。
でも、行かないことになってるのに、当日きていたら、きっとみんな驚くし。
あかりんもせっかく先輩たちと仲良くできるチャンスなのに、私に邪魔されたくないだろうし。
「来るのか、来ないのか、はっきりさせろよ」
そう言われて、思わず海崎君の目を見つめる。
「来いよ。来る予定だったんだろ?」
まるで私の心を見透かしたみたいに言ってくる海崎君に、私は驚きながらも小さくうなずく。
すると海崎君はどこか満足そうな顔で教室を出ていこうとする。
「あの、でも、私……っ」
――今、泳げなくて。怖いの。
「なんでもないっ。……ごめんっ……!」
わざわざ私に話しかけてくれた海崎君に、とてもそんなことは言えなかった。
何に対しての謝罪かは分からないけど、口から出てきたのはその言葉で。
海崎君がこう言ってくれたんだ。泳げなくとも、私もしっかり参加しよう。
大丈夫。
あの時だけだよね。
行くからには、しっかり楽しみたい。
――大丈夫。大丈夫。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます