第11話 成長……できた!?
親睦会当日、お昼を食べた後、私はMIZUNAプールに来ていた。
「「えっ、来たのっ⁉」」
20分ほど前に到着し、着替えてプールに入ってきた。
目の前には、ウォータースライダーの、浮き輪みたいなやつにのる方を終わらせてきたらしき水菜先輩とあかりんが立っている。
晴琉先輩は泳いでいるらしく姿が見えない。
で、海崎君はイートインスペースで何かを食べている様子。
「き、来ちゃった、せっかくだし、ね……あはは」
「うわーっ、嬉しいっ! 舞ちゃん、今日は来ないのかと思ってた!」
「本当に楽しいんだから! ほらっ、はやく行こうっ‼」
ばんざーい、と腕を突き上げて喜ぶ水菜先輩と、ぐいぐいと私の引っ張っていくいくあかりんに、あわててストップをかける。
「あかりん、まだ私、準備運動してないから!」
もう少ししたら行くね、と声をかけて、イートインスペースへ向かう。
青色と白色のストライプ柄チェアに座っていた海崎君に近寄って、私も近くの椅子に座る。
近くにゴーグルと水泳帽を置いて、一人で休憩中だ。
「……来たか」
「う、うん。でも、本当によかったかな……?」
海崎君がカップに入ったアイスをすくって食べるのを見つめながら、うーん、と悩む。
これからどうしよう……。
来たのはいいけど、今からあの二人といっしょにあそぼ、とは言えないなあ……。
すっかり仲良くなった二人を思い出し、はあ、とため息をつく。
するとそんな私を見て、海崎君がぼそりと言った。
「じゃあ、オレと練習するか?」
「ええっ⁉」
にやりと、海崎君にしてはかなりレア度の高い笑みを浮かべる顔に、思いっきり首を横に振る。
め、珍しいっ。ジョーダンを言うところなんてレアだよ……。
たとえジョーダンでも、首を縦に振ったら地獄のレッスンが始まることは間違いナシ……!!
叫ぶ海崎君とそれに震える私を想像して、ぶるる、と寒くもないのに鳥肌が立った。
「わ、私は一人で練習するから!」
「ふーん」
面白くなさそうにスプーンを口に突っ込んだ海崎君。
絶対、スパルタだもん……っ!
水泳を習っていたとはいえ、今は調子が悪いのだ。
無理無理無理っ‼
結局、準備運動を終えた後も一人でぶらぶらと周りを歩いていたのだった。
私が来てすぐに、違う団体の人も来た。
ざっと見て10人以上入ると思う。
クラブかなんかかな?
その人たちも一緒に遊び始めて、今は水菜先輩たちと鬼ごっこをして遊んでいる。
「キャーっっ‼」
突然聞こえた悲鳴に思わず振り返るが、悲鳴の種類を悟り、ほっと息をつく。
よかったあ……。
念のために見てみるけど、そこにはクラブの男女に囲まれた晴琉先輩がいた。
他のクラブの子からも人気があるなんて、さすが晴琉先輩。
かっこいいもんね。
本人はすごく困っているようだけど、周りにいる水菜先輩は笑っている。
でも、あかりんは面白くないよね?
私の心を読んだのか、あかりんがダーッと走ってこっちにやってくる。
「あーあ。晴琉先輩がほかのクラブに取られちゃった……」
「かっこいいから仕方ないよ。あ、ウォータースライダー、楽しかった?」
「うん! まいまいもいきなよ! あ、じゃあ、あたしと一緒に行こ!」
手をつないで階段を上り始めるあかりんに、内心汗だくだ。
ええっ、今からっ⁉
これはヤバい、ちょっと落ち着かなければ。
今日は水を見たりすることで胸騒ぎがしないため、調子がいいのだろうか。
分からないけど、最近の調子がおかしい今、水に入るのはためらわれた。
「はいっ、準備はいーい?」
いつの間にかスライダーの乗り場についていたっぽい。
あかりんはにっこにこの笑顔で私を見ている。
「だ、だめっ、待って、あかりん! あと10秒!」
「えー。わかったよー。じゅー、きゅー」
ブウッとすねたようにカウントダウンを始めたあかりんを横目に、スーハ―スーハ―と深呼吸を繰り返す。
大丈夫だ。
今日は大丈夫。
「よーん、さーん、にー、いち!」
「やっぱストップっ――っ⁉」
全力の静止の声もむなしく、視界がぐるぐるぐるっと高速回転だっ⁉
久しぶりのウォータースライダーに心臓が痛いくらいに高鳴って、やがて――。
バッシャン!
勢いよくプールの中に投げ出されて、すぐに浮き上がる。
「ぷはあっ」
久しぶりだったけど、大丈夫、みたい……?
横によけて、ずれたゴーグルを閉めなおす。
すると、私に続いて滑ってきたあかりんが自ら顔を出し、私としばしの間、見つめ合う。
「ぷっ、あはははっ」
「あかりん、ゴーグルすごいことになってるよっ、あはははっ」
勢いよくゴーグルがずれた間抜けな顔を見て、二人でもう一度笑った。
◇◆◇
「はー楽しかったぁ。ね」
「ほんとだよっ。でも、今日は疲れたあ……」
「ちゃんと寝よう、今日こそは」
「え、今日はゲームやりたかったのに!」
「あーかーりん。ちゃんと寝るんだよ?」
「はあい」
完全に疲れ切った顔で、施設外のベンチに座る。
みんなとここで待ち合わせして帰る予定だったんだけど……。
「はい、これ」
「ひっ!?」
首に当たるひんやりとした感触に驚いて振り返ると、そこにはいたずら成功って顔の水菜先輩がいた。
手に持っているのは……。
「アイスっ⁉」
「あはは、二人とも目が輝いてる」
面白そうに指摘され、かあっと顔が熱くなる。
でも、アイスおいしいもん……!
「これは私のおごりねー。ブドウ味だけど、いい?」
「「ありがとうございますっ!!!」」
バッと立ち上がって二人で気をつけの姿勢。
そしてそのアイスを受け取って、口に入れる。
「「おいしい!」
「そりゃあそーでしょ」
「私のおすすめなんだから」と胸を張る水菜先輩に私たちは「さすがです!」と言い返す。
「お前たち、何やってるんだ?」
じ~っとこのやり取りを変な目で見てくるのは、私たちよりもはるかに疲れた顔をしている晴琉先輩。
で、やっぱり手にはオレンジのアイス。
やっぱり練習後のアイスは欠かせないみたい。
「ふふっ、私の自慢のアイスを食べてるところ。おいしーよね?」
「「はいっ!」」
2人で声をそろえて言うと、晴琉先輩はそんな私たちに向かって呆れたようなため息をついた。
やがて、海崎君と顧問の先生も集合して、先生からのお話になった。
「今日はみんなよかったと思います。また今後もこういう機会を設けましょう」
……。
え、終わり⁉
隣のあかりんも、えって顔してるし!
小1レベル……いや、小2レベルかな。
言葉の表現的に小学校高学年⁉
とにかく、短いし、言っちゃいけないかもしれないけど、小学生の作文になってるから!
驚いているのは私とあかりんだけのようで、ほかの3人はいつものことだと言わんばかりの顔をしている。
「みんな、今日は楽しかった? ほかの団体とも交流できたし、こういうのもいいかもね。1年生のみんなも……というか舞ちゃんと朱里ちゃんの2人も水に触れる機会が増えてよかったと思います。またいろいろなレク、考えていきたいです」
水菜先輩がぐるっとあたりを見渡す。
「よし、今日は解散! 月曜日はオフにするけど、来たい人は来てください‼」
こうして、水菜先輩の先生より先生らしい言葉でこの親睦会は終わりを告げた。
自転車置き場に向かいながら、ふうっと息をつく。
久しぶりに心が軽くて、とても楽しい時間になった。
あれ?
今私、楽しいって思えてる?
そっか、楽しかったのか。
不思議とペダルをこぐのが速くなる。
楽しいって思えた。
――これって、成長したってことなのかな?
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