第9話 ミーティング⁉

「えー、今日は数学のテストを行う。10分後に始めるから、それまでは復習! はじめ―!」


 テ、テストっ⁉

 今週中にやるとは聞いていたが、まさかの事実にクラスのみんなは驚きまくりだ。


 ヤバい。

 私は数学が嫌いなのに、あと10分でテスト、とな……。

 今までの成績を思い出すと、本当に数学だけができないことがわかる。

 国語、社会、英語は90点台。

 理科が毎回85点。

 数学が……60点台。


 考えるよりも早く、私はバラバラバラっと教科書をめくる。

『練習問題』、『もっと練習!』『テストの前の最終確認』『入試問題にチャレンジ』……。

 本当はやらなければいけないはずのページが、真っ白である。


 ひいいいっ!


 どうすることもできず、私はノートに問題を書き写し始めた。

 その時にはもう、「残り5分!」という先生の声が耳に届いた。


 ◇◆◇


「あかりん……」

「な、なんか大丈夫そ?」


 呆れを含んだ声であはは、と笑うあかりんに私は力なく首を横に振る。

 計算問題はできたけど、応用問題が全然解けなかった。

 数学には強いあかりん。

 余裕の笑みを浮かべていらっしゃる……っ!


「もーちゃんと数学もやらなきゃ!」

「えーあるって知らなかったもん……」

「いつあるかわからないと思ってやらなくちゃダメ! そのうち部活……水泳もできなくなるよ⁉」


 あかりんにそう言われ、苦笑いを返しながらそっか、と思う。

 そう、この学校には勉学制度があり、赤点を取ると補習があり、補習が終わるまでは部活ができなくなるのだ。


 だから、もし私が数学で赤点を取った場合は、その間私は部活ができなくなる。


 水泳。


 さっきあかりんの口から出たその単語に、さっと顔をうつ向ける。


 水泳、私にはできないんだよ、あかりん。

 みんなすごいと言ってくれたけど、できなかった。

 昨日もそうだったでしょ?

 頑張り屋のあかりんなら、きっとすぐに私を超しちゃうね。

 そうしたら私は観客席で競技を見る側になるのかな。


 確かに感じたはずの自由と楽しさは、もう今の私には無かった。


「まあ、元気出しなよ、まいまい! 赤点は回避できるって!」

「あ、うん……」


 数学のテストで落ち込んでいると思ったのか。

 大丈夫!っと、満面の笑みを浮かべているあかりん。


 私とは違う光を放っていて、とても……まぶしかった。


 ◇◆◇


「水泳部の朱里ちゃんと舞ちゃんいますかー?」


 お昼休み。

 数学のテストの復習をしながらぼーっとしたときに水菜先輩の声が耳に届いた。

 聞き間違いじゃないよね?

 そおっと、前のドアを見ると、制服姿の水菜先輩が立って、私たちを探していた。


「あ、舞ちゃん!」


 目ざとく私を見つけた先輩は、こっち!と手を振っている。

 何かの連絡かな……?


「ごめんねー。なんかやってた?」

「今日テストがあったので、テストの復習を……」

「えらいっ! すごい! 尊敬!」


 興奮したようにキラキラと目を輝かせる水菜先輩に向かって、先輩相手なのを忘れて思わずしいっと指を立てる。

 その大きな声に、周りの人も何事かと私たちをふりかえっている。


「し、静かにしてください……!」

「あ、ごめんっ……つい……」


 えへへ、と笑う水菜先輩を見て、思わず笑顔になってしまう。


「そうそう、忘れちゃうところだったっ‼ 今日の部活ではミーティングをやるから着替えず制服のまま2の2に集合!」

「ミーティング……?」


 会議みたいなものかな?


「ちょっとね、話したいことがあるんだ!」


 ウキウキと話す先輩に、ますます謎が深まる。

 何だろう……?


 んん?と首をかしげる私ににっこりと微笑んで、「じゃあまたね!」と言い、いなくなってしまった。

 私も行った方がいいよね……。

 ミーティングって大事だし……。

 とりあえず、あかりんにこれを伝えて、そこからだよね。



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