第3話 勇者は絵の良さはわからないけど推しCPの尊さはわかる
今回、めずらしくコティリア姫の方から城に来るよう言われた。普段は様子を見に行くか、王が呼ぶかだったので姫本人に呼ばれたことに少し緊張してる。大方、先日の花の件だろう。魔王であるザムザからの贈り物を俺が届けに行ったからどういう関係なのか根掘り葉掘り聞かれるだろうなぁ、相談役になっているというのは出来れば伏せたいので、どうにかして上手い言い訳をしないと。
色々考えている内にもう姫の部屋の目の前についてしまった。深呼吸をし、部屋をノックすると返事は返ってこなかった。メイドの方から部屋にこもってしますと聞いたんだが、すれ違ったか?もう一度ノックしようとした時、部屋の扉が開いた。
「あ、コティリア姫おはようございます。今回は…ってどうしたんですか!?」
部屋から出てきたコティリア姫は見るからにボロボロでいつも輝いてる目の下に隈ができていた。
「勇者様、どうぞ…中に」
とりあえず姫についていく形で部屋の中に入っていくといつもきれいに整頓されていた部屋は大量の紙と絵の具でごちゃごちゃになっていた。
「あの、姫にこれは?」
「…………、です」
「え?」
「描けないのです!魔王様の絵が!!」
叫ぶ姫は朝ご飯を食べていないということだったので、とりあえずお土産に持ってきたアップルパイを食べさせて俺は話を聞いた。
「この間のお礼に魔王に絵を送りたい?」
「はい、お花とその、て、てが、ゴニョゴニョ」
姫は顔を赤くさせて話した。この顔も魔王に送りたいが姫の部屋にいたことがばれるとけっこうめんどくさいので今回はやめよう。
「それはいいと思います、それで絵の方は」
コティリア姫は一瞬戸惑った様な素振りをしたが、何か諦めたようにため息を吐き俺に絵を見せてくれた。
「へぇーー、これは…ウニ?いや、黒いイカですか?」
どうしてまたそんな絵を?ザムザは海の生きものが好きなのか?
「魔王様です」
「このウニとイカが魔王様……」
「………グスッ」
「アァーーーーーーーーーーーー!!??ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
俺としたことが!このウニとイカが魔王様と言われフリーズしてしまい姫を泣かすなんて!!!
「いや見えますよ!!見えます!魔王様に!めっちゃ魔王です!!あの、俺ちょっと今日目の中にカブトムシ入って目が見えなくなって、」
苦しすぎる言い訳をしたがそれで姫が泣き止むわけもなく、とりあえず2弾目のお土産のストロベリータルトを渡し、なんとか落ち着かせた。
「…ごめんなさい。急に泣いてしまって昨日から描き続けたものですから寝てなくて」
「え、昨日から!?」
「こんな絵、魔王様がもらっても嬉しくないですよね?」
「………、ソンナコトハ………」
俺は言葉に詰まった。あいつがコティリア姫からもらったものなら、例え石ころでも泣いて飾る。問題はその反応だ。
予測①もらったものをそのまま渡した時
「え、これ姫が描いたのか?」
「うむ、あまり俺に似てる気がしないが…これはこれでギャップがあってかわいい!結婚したい!」
「よし!今日からこれは城の一番高い額縁に飾るぞ!!」
予測②少し手を加えて渡す
「これ姫が描いたのか!?」
「なんて素敵な絵なんだ、姫は美術の才能もあったなんて!かわいい!!大好き!!」
「よし!!これを印刷して日めくりカレンダーにするぞ!!」
悩む、、、ギャップ萌えルートかべた褒めルートにするか…できれば予測①を見てみたいが万が一、億が一、それが姫の魅力に下げることに繋がったりでもしたら俺は首を切るしかない!!
「あの、勇者様?」
「あ!!すみません考え事を、きっと魔王様なら姫からもらったものなら喜びますよ!」
「そうでしょうか?」
「はい!俺が届けるのでその絵をください!」
ここは安パイの予測②で行くか…前のように俺がこっそり手直しをしよう。
「どうぞ、こちらを…」
「ありが…………………」
「勇者様?」
「……姫様もう一度描いてもらってもよろしいですか?」
「!」
「姫様からもらったものなら喜ぶのは確かです。でも姫様の顔を見たらもしかしたら納得してないのかと思いまして、ですので気がすむまで描いてみてください!俺はいくらでも待ち続けるんで!」
紙をもらった時、コティリア姫は笑顔じゃなかった。俺は目先の利益ばかりに囚われすぎて大事なことを忘れていた。大事なのは姫様が魔王に渡したいという気持ち。その気持ちを俺は蔑ろにしようとする所だった。勇者なのに!!推しCPなのに!!!
「勇者様!?突然泣いてどうしましたか!?」
「いえ、己の未熟さに悔やんでるだけなので気にせず」
「わ、わかりました。では勇者様の好意に甘えてもう少し頑張ろうと思います!」
姫がそう言ってから次に声を聞いたのは、日が沈み月が真上に来た頃だった。
「勇者様できました!!」
「おぉ、良かったです。姫けっこうこだわりやすいタイプなんですね」
「自信作です!」と言われ見せられたのは真っ黒のたこのように見えたがそれは言わなかった。
「では今から届けてきますね」
「ありがとうございます!あの聞いてもいいですか?」
「なんですか?」
「勇者様は魔王様とどういった関係で?」
「あぁ相談役です、魔王の」
「そ、相談役!?」
「はい、ではもう遅いので俺は行きますね」
「え、待ってください!相談役って!」
この時、日頃の疲れがきたのかもう信じられないくらいの眠気が襲っていて姫になんて答えたかあまり良く覚えていなかった。ただただ、魔王が姫の絵を見た反応のため足を全力で動かし、魔王城へ向かった。
「おーこんな夜にどうしたディルク?」
「ハァハァ…これをお前に」
切れた息を整え俺は姫の絵を手渡した。ザムザは絵をじっと見つめるとこう言った。
「これはもしかしてコティリア姫が描いたのか!?」
「これは姫がお前の為に…ってなんで姫が描いたってわかるんだよ!」
「筆圧と紙に残ってる匂いからだな」
「きもいなあいかわらず」
「しかしこの絵…」
「あり得ないくらいうますぎじゃないか?」
「え?」
ザムザに渡した絵は純度100パーコティリア姫作だ。俺ももう一度見たがさっきの黒いたこのままだ。
「これ、俺なんだろう!そっくりじゃないか!!はぁ〜〜姫は美術にも優れているなんて…もう好き、しかもこの荒々しい書き方!あの可愛い見た目とのギャップがあってほんと結婚したい!」
「なぁ勇者!この絵を印刷して城の全部の額縁に入れて飾ろうと思うんだが手伝ってくれ…勇者?」
俺はザムザが言うよりも先に床に倒れ込んでしまった。眠気が限界突破したのだろう。人間と違うのか魔族の絵の感性は俺にはわからないがべた褒めとギャップ萌え、どちらの反応も見れたので今日は…いい夢をみ、れ……
「寝てしまった……まぁこの絵を飾ってから起こすか」
そうして俺が起こされたのは次の日の夕方だった。
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