27
「アトラス」
椅子に座り、お茶を飲んでいるアトラスの前に座ると、直ぐに私の分のお茶が用意された。
「気にいってくれた?」
不安そうな眼差しで問いながら、私の瞳を見つめてくる。
そんなに心配しなくても良いのに。
いつも自信満々なのに珍しい。
私は優しく微笑みかけた。
考えてみれば、いつも私の事になると、少しだけ自信無さげになる。
でも、そういうところも可愛いのかもしれない。
アトラスが私の事を大切に思ってくれてるってわかるもの。
「気に入ったけど、やり過ぎじゃない?」
「そう?まだまだだよ。ルミナの魅力をもっと引き出したいのだけれど、まだ足りないよ」
「私だけじゃなくて、アトラスも、でしょ。毎年仕立てているドレスも同じように私達に関する色を基調にしてるでしょ」
「どうして、それを?」
ドレスを仕立てているのを私には秘密にしたかったのだろう。
濁した言葉と、不穏な瞳で、店主を見た。
ピリピリした空気が流れる。
「私がカマをかけたら、答えてくれたのよ。だってね、あまりにもドレスのサイズがピッタリすぎるし、お兄様にも言われたのよ。アトラスなら毎年絶対に誂えている、とね」
「なるほどね。アコード様とジャン様は私を理解してくれているものね」
「何?その含みのある言い方。お兄様達と何かあるの?」
「いや、何もないよ。ただ私の事を心配してルミナの事を色々教えてくれたんだ」
「ふーん。つまり私の事が筒抜け、と言う事ね。まあ、いいよ。それよりも、私の為に仕立てたドレスだけど、サイズ的にまだ着れそうなのは直して、小さくて着れないドレスはリメイクして普段着にしたらどうかしら、と提案かあったの」
「別にわざわざ着れないドレスを使う事はないよ。また、新調すればいい」
「ううん、ダメよ。毎回アトラスが私の事を考えてデザインしてくれたのでしょ。その時の気持ちを無駄にしたくないの。アトラスだって、思い出みたいな感じに見えてきっといいと思うよ」
「ルミナは優しいね」
アトラスは嬉しそうに微笑んだ。
その顔を見ると、私まで幸せになる。
「後はハンカチとか傘とか他の小物にも出来るんだって」
「つまり、常にルミナの身体の1部として身に付けられるという事だね」
「身体の1部?まあ、そうかな?」
「令息」
店主がそっとアトラスに耳打ちした。するとアトラスはハッとした表情になり、頬を赤らめ満足そうに何か答えていた。
「何?」
「今は秘密。普段着や小物類以外にもリメイクしてくれるようだから、届いてからのお楽しみだよ」
「ふうん。わかったわ」
「ねえ、ルミナ他に何が欲しい?」
「他?別に何も要らないわよ」
「少し見てみようよ、ほら、あの服似合いそうだよ」
マネキンが来ている桃色の普段着を指差す。
確かに可愛くて、スカートの裾がフワリと広がって、とても素敵だ。
「可愛いね」
「試着してみてよ」
「いいよ。あんな高そうな服着ていく時なんてないし、ドレスだけでも十分だよ」
「そんな事ないよ。私と出かける時に着て欲しいんだ。それとも、この店は気に入らない?」
だから、そんな悲しげな瞳で見つめられると私が悪いみたいじゃない。
「そういう事じゃないよ。このお店は私の好みの物ばかりだよ。アトラス私の趣味を知っててこの仕立屋を選んだでしょ?」
私は辺りを見渡して言った。
派手さのない落ち着いた色合いを基調とした衣服と装飾品ばかりで、私好みの物が沢山あった。
男性であるアトラスがこういう店に詳しい筈がない。ランレイは華美な色を好むから、選ばない。
私の嗜好を考え、またお兄様達に聞いてわざわざ探したのだろう。
アトラスは私を見て、蕩けるような甘い笑みを浮かべた。
「そうだよ。良かった。ルミナが気に入らなかったらどうしようかと不安だったんだ」
「気に入ったよ。でも、」
「じゃあ店にある品物を全て戴こう」
一瞬何を言っているのか理解出来なかった。
「ありがとうございます」
店主の答えに私は慌ててアトラスを止めに入った。
「ま、待ってよ!買わなくていいよ!」
「いいんだよ。ルミナに着てもらいたいのだから。全てオルファ家へ送ってくれ」
「待ってってば!こんな沢山貰っても着れないよ」
「毎日着たら365着いるよね。全部買ってもまだまだ足りないくらいだよ」
「何言ってるのよ。毎日違う服を着るなんて有り得ないわ。第一どこ置くのよ」
「それなら、私達専用の別宅を買おう。そこにルミナの服やドレスを並べて、私が毎日選んでルミナに持っていくよ」
凄いいい事思いついた、と言わんばかりの笑顔で言わないでよ。
呆れるを通り越して怖いよ。
「ね、それならオルファ家で場所も取らないし、きちんと手入れをしてくれる召使いを雇うよ。そうだ。そうしよう。それで週末はその別宅で一緒に過ごすのもいいよね。楽しいよね。一緒にいれる時間が長くなる」
いや、話しが変わってきてるよ。
私の顔を見てやっときづいたようだ。
「ルミナは私の選んだ服やドレスを着てくれないの?」
「そんな事は言ってない。量の問題よ」
「じゃあ、半分にしようか」
「そういう問題じゃない。ここで私がいいよ、と言ったら毎回この仕立屋に来る度に凄い量の服を買うでしょ」
「だってルミナに似合う品物は全て欲しいからね」
「ほらね。だから、絶対に言わない。今日は他にはいらない」
「ダメだよ。恋人としてそれじゃあ顔がたたないじゃないか」
「そんなプライドいらないよ。私はそれ相応のプレゼントで十分なの」
「プライドじゃないよ。私の気持ちだよ。ルミナに喜んでもらいたいんだ」
「それ、重たいから」
「何を言っているの?この程度まだ私の気持ちは足りないよ」
「それが重たいの」
お互い一歩も譲らず言い合いをして、結局私が折れてしまった。
全部とも、半分とも、流石に購入しなかったが、十着仕立てた上に宝石も買わされた。
馬車の中、にこにこと満足そうに微笑むアトラスに絶賛ムカついてます。
私が必要以上のプレゼントとか好きじゃないのを知ってて、自分のしたいようにするなんて、本当にタチが悪い。
それを本人は全く悪びれてないし、むしろ喜んでいる節がある。
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