26
「あの・・・・カレン様をどうして選ばなかったのですか?」
夕食を食べ終え、ブライアン様の部屋に移動し今日は珍しく勉強ではなくお茶を飲み寛いでいた。何故かと言うと、馬車の中では意地悪な言い方をされたが、今日テストの結果が戻ってきたのが、それは私が生きている限り初めての好成績だった。そのご褒美として暫くは勉強の時間を減らし寛ぐ時間を増やしてくれた。
だったら、意地悪な言い方されずに馬車の中で言ってくださったら良かったのに、と正直ムッとしたが、王宮に帰ると、よく頑張ったね、と自分の事のように喜ぶ姿に、単純に許してしまった。
あまりに違う王宮の中と外の態度に、自分の感情がついて行かない。
外でのブライアン様をといると、私は傀儡でしかない、そんな寂しさをに襲われるのに、王宮ではとても感情豊かに私に接してくれる。
その距離感の無さに気持ちは揺らぎ、色々な事が浮かび、とうとう前々か聞きたかった疑問を口にしてしまった。
別にカレンと私を比べて、優越感に浸りたい訳では無い。
カレンは公爵令嬢で最もブライアン様の婚約者に近い令嬢なのは周知の事実だ。容姿も悪くない。私達には辛辣な態度をとるが、社交の場では、相応の振る舞いしをし気品を醸し出している。
そのカレンも、私はブライアン様と婚約する女性よ、と憚りなく豪語していた。
性格はともかくとして、ブライアン様の一緒に立って見劣りする存在でない。
「近くにいすぎたから、そういう対象には思えなかったのですか?」
「・・・いや、そういう訳じゃない。カレンには悪いが、マクロの妹と言うだけで、特に感情を持った事がない」
前に座るブライアン様が、お茶にミルクを入れながら小さく首を振った。
「でも、誰もがカレン様が選ばれると思っていました」
手に持ったカップに揺らぐ自分が映った。
何故自分がここにいるのか、今も分からない。
「恐らく、王宮にマクロと一緒に出入りしていたからだろうな、公爵の息女だから、自分が1番近い存在だと思っているのだろうが、あの気性では、選べない」
「そう、ですか」
ほっとする自分を誤魔化すように、お茶を飲んだ。
「今回の謹慎でカレンは反省してくれればいいと思っている。公爵令嬢としての立場を考え、振る舞うべきだ。本来己が選ばれると口にするべきでは無いのだ。浅はか過ぎる。また、公爵も娘の行動を把握出来きず、その咎を認めることも無く悪態ばかりを口にするのは、国を支えるには相応しくない」
足を組みながら、冷たく言い放った言葉には毒があった。綺麗な顔が無表情になり、その眼差しから侮蔑が見えた。
貴族であるなら王宮とは何らかの繋がりがり、ましてや公爵となれば、多大は公務に関わっているだろう。
些細な一言が、大きく民を苦しめる事なる。
今の話しでは、公爵も反省を見せていないのだろう。
実際私だって、このまま王太子妃になればトッリュー家は繁栄しお父様の立場も仕事も変わってくるだろう。
勿論婚約を破棄してもらうのは不可能でないのも理解している。
その重責を理解しなければいけない。
「もうやめよう。フランと2人でいるのに、他の女性の話はしたくないな」
寂しげに言うブライアン様が、真っ直ぐに私を見つめる。
また、そんな気のある言葉を口にする。
その言葉を聞く度に、その眼差しを見る度に、私の体を貫くように、胸が高鳴り、どれだけ私を戸惑わせ、乾きを与えるかこの方は分かっていない。
抗うように、無意識に顔を背けてしまった。
甘く鋭い瞳が私を縛り、子宮が疼きを覚え、側に行きたくなる。
無理やり純潔を奪われた、恐ろしかった初夜の記憶はいつしか薄れ、ブライアン様から舐められた舌の感触が生々しく思い出される。
「何故私、選んだのですか?」
永遠に蓋を閉め聞くまい、と幾度も心に封印したのに、人の感情は容易く破ってしまう。
カレンの存在よりも、私の存在意味を教えて欲しい。
そんな想いが、とうとう蓋を壊してしまい、口にしてしまった。
「私の答えが、君が望んでいる答えだとは思えない」
声は震わせ、まるで己さえも辛いかのうな表情で言うが、私の全てを凍らす返答、だった。
分かっていたはずなのに、それでも己に対する優しさを、正当化したかった。
たとえ、嘘だと分かっていても、好意の言葉を聞きたかった。
「そ、うですね。申し訳ありません。つまらない質問をしました」
笑う事がこれほど難しいと思えるのは、今、泣いているからだ。
私がブライアン様を好きなのではない。
ただ、王太子妃、と言う重責に少しでも優しさ言葉が欲しかったからだ。
「フラン!?」
私に、近づくのはやめて欲しい、と切に願った。
私に、期待持たせないで、と切に願った。
そんな風に大切そうに私を抱きしめるのは、やめて欲しい、と切に願った。
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