18

何時ものように食堂に行くと、何故かクリスとアムルが待ち伏せてたかのように、私の顔を見ると近づいてきた。

ほらぁ、とアムルがクリスを急かすように背中を押した。

その勢いに押されるようにして、私の前に来たクリスはひとつも私を見ること無く俯いていた。

「ごめん、ルミナ。私今日から、お昼を一緒に食べるのはやめる。他の時も声かけないで欲しいの」

小さく呟くその姿は、何年も一緒に側にいて、初め見る沈痛な面持ちで、見ているだけで無性に腹がたった。

「クリスは前々から私とご一緒したかったのだけれど、あなたにお友達がいないから可哀想だと思って側にいてくれたの。言い出せなかったのよ。本当は迷惑、だとね」

この状況が明らかに常軌を逸していることぐらいわかった。

私を貶める為に、権力を使いクリスを、いやクリスの家族を巻き込んだのだ。

許せない、と怒りで喉元まで言葉が出かかったが、グッと飲み込み、冷静になろうと必死に言い聞かせた。

ここで怒鳴り散らしても何も解決しないし、寧ろ逆効果だ。

それではアムルを喜ばせ、クリスの立場が悪くなるだけだ。

「そう、わかったわ。これまでありがとう」

笑顔を作り、なるだけ平静さを装った。

「聞き分けが良くて良かったわ。クリスがいなくなったらルミナ、これから1人になってしまうでしょう?1人になるなんて、考えられなくて、可哀想だわ、と思ってこれまで私が口出すのをやめてたのよ」

「よく言うわ。誰のせいよ!」

目が笑っている。

「なぁにその言い方。まるで私が2人の仲を引き裂いたみたいじゃない?違うわよ。クリスがあなたの為に無理に頑張っていたの。でもね、もう辛くなった、と心の内を私に明かしてくれたから、助けてあげたのよ。私、前々からクリスとはいい友達になれると思っていたの。だから、助けてあげたのよ。さあ、クリス行きましょう。ルミナといたら、あなたまで変な目で見られるわ」

「・・・うん」

泣きそうな顔で、クリスはアムルの後をついて行った。

「ルミナ」

背後から声がし、振り返るとナッジャが愕然とした表情で立っていた。

「クリスはどうしたんだ!?」

何故ナッジャが苛立っているのか理由は分からなかったが、今の私には迷惑だった。

「静かにして。ほら、周りから見られているわ。私と一緒に居ない方がいいわよ。あなたにも迷惑がかかるわ」

私はナッジャに、背中を向け食事を頼むカウンターに向かった。

「クリスは何故アムルといるんだ?」

「だから、私と一緒に居ない方がいいってば。ほら、アムルが睨んでいるわよ」

「関係ない!!」

「ちょっと、静かにしてよ」

急に大声を出すナッジャに驚き、腕を慌てて掴んだ。

何故ナッジャが余裕のない表情になっているのか理解出来なかったが、適当な事を言って

引き下がる様子ではなかった。

食堂にいる生徒達のあからさまに面白がっている眼差しに居心地が悪いし、掴んだ腕が苛立ちで筋肉が硬くなりピクピク動いている。

藍色の真っ直ぐな瞳があまりに真剣だったので、諦めた。

「外で食べましょう。ここでは落ち着かないわ」

アムルが虎視眈々こちらを見ている。

私はサンドイッチを頼み、目立たないように食堂を出た。

学園の隅のベンチに座った。

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