16【ランレイ目線1】
「お前の言う通りだったな。ルミナは少し甘く考えてる」
お兄様は屋敷に帰宅するなり私の部屋に断りもなく入り、ソファに座り脚を組んだ。
時刻は夜10時。
そろそろ寝台に、と思っていた矢先にやってきた。
常なら追い出すのだが、その表情と仕草から、機嫌が悪いわね、と空気を読み前に座ると、矢継ぎ早に言葉を紡いだ。
オルファ家から帰ってきたお兄様から話を聞くと、それは仕方ないわね、と納得した。
婚約解消したのは勿論聞いている。
本来貴族同士の婚約解消には幾つもの面倒な書類と手続きを踏まなければならないが、お父様が率先して素早く動いてくれたお陰で、早々にルミナ御義姉様が自由となった。
いや、公爵としての立場を無駄なく発揮して下さったお陰だ。
そうして安堵している中で、ルミナ御義姉様に令息が声を掛けてきたものだから、醜い嫉妬心を剥き出しに愚痴を言いに来たのだ。
だいたいお兄様の機嫌が悪くなるのは、ルミナ御義姉様の事しかないのは、百も承知だ。
「純粋なルミナ御義姉様だもの、当然の行動よ。相手に不純な気持ちが存在するなど考えてないでしょうからね。それに、汚く濁った上級貴族世界をご存知ないのだから仕方ないわ。人を蹴落とす事しかしない社交界の事を丁寧にゆっくりと教えてさし上げれば、見違えるわ。大体お兄様が、ルミナ御義姉様の現状ばかりに気を取られて、上級貴族としての立ち回りを説明しなかった結果がこれなのよ。だから、ルミナ御義姉様は婚約解消して直ぐに令息に声をかけられ、応えることがどれだけ女性の立場を悪くするかご存知ないのよ。もともとお兄様の説明不足ですのに、それを、あたかもルミナ御義姉様が悪いように叱咤する事自体どうかと思うわ。底の見える浅瀬の男ですね。ありがとう。ごめんなさいね。あなた方にとって夜の時間は貴重な寛ぎの時間なのに、自己中心的な次期当主に振り回されてしまって申し訳ないわね」
「いいえランレイ様いつもの事でございますし、何よりも、ルミナ様のお話しを少しでも手に入れられるのなら、苛つく気持ちも綺麗に流れて参ります。気難しく、面倒なアトラス様の舵が取れるのはルミナ様だけでございますから、そのルミナ様の一部でも知り得ることができるのなら何の苦にもなりません。アトラス様の随分と身勝手な行動を薄ら笑いでお相手するなど、大したことありません」
「まあ、嬉しいわ。ねえ、お兄様」
「・・・お前の周りは何故お前と同じ臭いのする者ばかりがいるのだ?」
「あら、知りませんの?類は友を呼ぶ、と言うでしょう。当然私の周りには私の事を理解できるもの達が集まりますわ」
お兄様に満面の笑みを見せると、一瞬快の顔見せたが、直ぐに不機嫌になった。
カップをとりお茶を1口飲みお兄様を見ると、お兄様も憮然とした顔でカップを取った。
「大体殿方はね、自分の側に置くだけで、自分に相応しい女性になる、と単純に考えるのよね。浅はかな思考だわ。女性はね、殿方の人形でもないし、傀儡ではないのよ。殿方の言わなくてもわかるだろう、的な身勝手で傲慢な考えなど、分かるわけがないのに、少しでも的が外れると不機嫌になる。心の声など聞こえる筈もないのだから、はっきりと説明してあげるべきなのよ。あら、お兄様の事を言っているのではないのよ。殿方の一般論よ」
にっこり微笑むと、変わらず不機嫌だった。
「・・・ともかく、ランレイの勧めてくれた教育係を頼んで貰って助かった」
お兄様は良かった、と褒めているのに何故か不愉快気に言葉を紡いでくる。
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