第15【アムル目線⠀】

「アムル、お前の言う通りレイラ男爵殿に仕事を流してやったぞ」

頼み事がどうなったのか気になり、夕食後お父様の書斎に急いで来た。

私が部屋に入ると、お父様は、見ていた書類を置くと、優しく微笑み答えてくれた。

「ありがとう、お父様、嬉しいわ。クリスは親友だもの。いろいろ助けてあげたいのよ」

うふふ。これでルミナは1人になるわ。

座るお父様の後ろに立ち、両肩に手を置くと満足そうに微笑み返してくれた。

「そんなにオルファ家の娘から虐められているのか?」

「そうなの。見ていて可哀想だわ。オルファ家なんて大したことない子爵位なのに、クリスが男爵家と言うだけで見下し、小間使いのように扱ってるの。私が気づいた時は助けてあげてるけれど・・・裏ではかなり酷い事をしているの。いつもクリスから相談されて、とても不憫に思っていたの」

「お前は優しいな。友人の事まで配慮するとは、流石、我が娘だ」

「うふふ。当たり前よ」

そうよ。私は優しい。

あんな女の側にいるよりも、私の方がずっと立場が上。だから、私の事を理解してくれる人達に手を差し伸べるのは当然よ。

「そう言えばまた、幾つか婚約の申し込みが届いていたぞ」

「見たわ。でも私が望んでいる方からはまだ来てないの。だから、全部お断りか、捨てるように頼んでおいたわ」

「そうだな。下手に期待を持たせては後々面倒だからな。上手くいっているのか?」

「勿論よ。また、遊びに行く約束もしているわ」

「それは良かった。では、もう少しだな」

「ええ、お父様。もうお部屋に帰るわね。お仕事の邪魔してしまってごめんなさいね」

肩から手を離し、お父様の横に立った。

「いや構わないよ。もうすぐテストだろ?期待しているからな」

期待に満ちた顔と、その言葉に苛立ちを覚えるが、微笑み頷いた。

「勿論よ、お父様。いつものようにルミナには勝ち、1番になるわ」

イライラする。

1度も勝てていないのに、そう答えなければいけないなんて腹立たしい!

「そうか、期待している」

「期待では無くて、当然そうなるわ。それよりも、お父様。オルファ家は、どうにかならないの?」

昔から没落するように頼んでいるのに、全く進展しない。

「あそこは、私とは違う事業で接点が無いんだ。それに、どうも後ろ楯があるようで、みんないい顔をしない。どうせなら仲良くしてはどうだ?長い付き合いなんだろ?お前なら適当にあしらえるだろ?」

本当に腹が立つわ!

「勿論よ。でもそれならお父様、こちらが優位な位置にたちたいわ。たかが子爵位なのに、私と同等と思われたくなもの。きっとあの子の性格なら我が物顔をするわ。ねえ、お父様もう少し動いてみてよ」

「そうだな。近々商団の長が変わる。次期長は私の友人だから、少し頼んでみようか。お前の言うようにたかだか子爵だ。後ろ楯が多少あったとしても長よりも上には立てないだろう。その辺りも踏まえて、少し手を打っておく事にしよう」

「ありがとう、お父様。オルファ家が、いいえ、ルミナが学園を去る事が出来たら、誰もが喜ぶわ。最近は、令息達を次から次へと騙して遊んでいるのよ。お陰で学園内が乱れているの」

「そんなに、酷いのか?」

愕然としながらも、侮蔑の表情を浮かべるお父様に、得たり、と思った。

でも、私は努めて悲痛な顔をし、訴えた。

「そうよ。今日はグルー家のナッジャに声をかけて2人きりになる為にわざわざ勉強を教えてあげる、と言っていたわ。ナッジャは正直、成績が良くないから、それを口実に呼び出すなんて卑怯よ」

「それは許せんな。人の弱みに漬け込んで、自分の欲望を叶えようとするなど言語道断だ!」

お父様の怒りに満ちた言葉を聞きながら、心でほくそ笑み、涙声で訴えた。

「お願い、お父様。あの女を止めて欲しいの。これ以上被害が増えないようにして欲しいの」

これは演技ではなく本当の事よ。

私の大好きだったグロッサムを奪い、あまつさえグルー家の令息をたらしこんだ。

グルー家は私の家よりも格式が高く、本来なら王立学園に通える筈なのに、わざわざ断った。

私の取り巻きに引き入れようと声を掛けたのに全くなびかなかった。

「婚約者がいるにも関わらず見境なく令息に声をかけ、夜も遊び回っていたのよ。そして、とうとう婚約者からは婚約破棄を言い渡されたわ。でも、逆に喜んでいる、本当に悪女だわ。その白羽の矢が刺さったのがナッジャよ。彼も助けて欲しいの」

「そう言う事は早く言いなさい!早速動く事にしよう。商団の方に上手く言って、オルファ家との取引を断るように言ってやる」

お父様はいきり立つように言ってくれた。

「ありがとうお父様。凄く心配で夜も寝れなかったけれどこれで安心して寝れるわ」

あえて涙を含ませた声音をすると、お父様は私の手を握り目を見つめてきた。

「大丈夫だ。あとは任せなさい」

「ありがとう。では、おやすみなさい」

それから直ぐに部屋を出た。これ以上あの女の話をしたくなかった。

昔から見ていてイライラする女だった。

たかが子爵位のくせに、たかが少し可愛いくらいなのに、誰とでも仲良くなっていた。

少し考えれば、庶民と同じ子爵なんだから、話しやすいに決まってるじゃない。

それに、グロッサムと婚約までした。

中等部に入ってからお父様に頼もうと思っていたのに、あの女、たかが幼なじみと言うだけなのに、あっさりと婚約し、我が物顔でいつも側にいた。

その上、1度も成績で勝てたことが無い。

聞くと、それもたった1人の家庭教師しか雇っていないにも関わらず、私は負けている。

私は家庭教師が5人もいるのだ。

本当に気に入らないわ!!

だから、少しづつあの女の周りから、友人を減らしてやった。お父様の力を借りれば大したことないわ。せめて1人くらい残してやろうと、クリスを残してやったけど、もう必要ないわ。

グロッサムも手に入れた。あの時の涙を我慢した表情たまらなかったわ。あの女には、悲しみと悔しさに沈む姿が1番似合うわ。

そうよ、私は何もかも手に入れられる、プリライ伯爵令嬢なのよ。あんな底辺の子爵家とは格が違うわ。

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