第12話

「お嬢様!」

正門を出た所で聞いた事のある声が聞こえ振り向くと、メイドのアンが慌てた顔で近づいてきた。

「どうしたの?」

私は登下校とも、歩いて学園まで来ている。

もちろん馬車での登下校も出来るが、アムルのような貴族だけだ。

ようは、たかが登下校のために馬車を出す余裕ある台数がないのだ。

それが、わざわざ私を迎えに来るとうい事は、誰か何かあったとしか考えられない。

「何があったの!?」

「カーヴァン様がお待ちです!」

「・・・」

必至の形相での返答に、呆れた。

そっちですか。

「早く、此方へ!」

アンが私のカバンを取り上げ、馬車乗り場まで腕を引っ張り、急かせてくる。

歩きながら、あれ?お待ち?どこで?、と疑問に思い口にした。

「アン、アトラスはどこで待ってるの?」

「こちらです!!」

馬車乗り場てオルフェ家の紋が刻まれた馬車の前にくると、はいどうぞ、と扉を開けた。

そして、はいどうぞ、と言わんばかりに私の背中を押し中に押し込み、扉を閉めた。

「あまりにも遅いから迎えに来たよ」

優しく微笑むアトラスに、はあ、とため息しかでない。

すぐさま私の側にくると私の手を握り、座らされた。勿論隣にアトラスは座った。

少しして馬車は動き出した。

「あのさぁ、アトラスの屋敷は私の屋敷から逆方向でしょ?学園終わってから、わざわざ私の屋敷に来て、待ってたの?」

「そうだよ。でも、遅いから心配になって迎えに来たんだよ」

「あ、そう」

「流石にカーヴァン家の馬車で迎えにきたら、ルミナが困ると思ってオルファ家の馬車にしといたよ」

「その気遣いはとてもありがたいけど、わざわざ迎えに来なくてもいいよ」

「どうして遅かったの?」

にこやかな表情で有無を言わさない質問に、何を言っても無駄だとわかりこれ以上言うのは諦めた。

「クラスの人に勉強教えてと言われて教えていたの」

「それは、男性?女性?」

アトラスの眉がひくりと上がり、優しく聞いてくるが、目が笑っていない。

「男性」

答えると、途端に嫌な顔をし、いいかい、と咎める口調になった。

「ルミナのいい所は子爵家で生まれ育ったから、どちらかと言うと庶民的で、誰とでも分け隔てなく話をし、親近感が持てる女性だ。その上優しいから、勉強を教えて欲しい、と言われれば断らない」

「そうよ。だって困ってたもの」

「いいかい、私は言ったよね。たとえ子爵だろうと、貴族令嬢。そのルミナが婚約破棄され、それも原因が他の女性に寝盗られた、なんて格好の噂話だ。その噂を消す為に私と恋人なったのだろう?」

苛立ちを隠さずハッキリ言うアトラスに、軽はずみな自分の行動に弁解の余地がなかった。

「ごめん。その通りだわ」

「少し軽率だよ。婚約解消してすぐに他の男性といると、ルミナがまるで男性を好んでいるかのようだ」

「うっ・・・、それ・・・今日アムルに言われた」

「何を!?」

がっ、と私の手を強く握り問い詰めてくる。

「グロッサム以外の幼なじみがいる、アムルに聞かれてしまったの。そうしたら、男性の幼なじみが何人いるのかしら、節操のない人ね、と言われたの」

「そんな事言われたのか!?それなのに、2人りきりで会ったりしたのか!?」

険しい顔で畳み掛けるように言った。

ごめんなさい、言い返せません。そんなに深く考えてなかった。

「全く!いいかい!?これからは私以外の男性と2人きりにならないようにするんだ」

「分かったわ」

「ともかく、自覚が足りないのがよくわかった。やはり、頼んでおいてよかった」

「何を?」

「ルミナの教育係」

「いるよ」

屋敷にちゃんといる。

「違う。私に釣り合うように、だ」

「どういう事?」

「文句は言わせないからね。前にも言ったけど恋人としてこれからは、カーヴァン家の祝い事に参加してもらう。つまり、それ相応の礼儀作法を身につけ無ければいけないんだ」

「そこまでは、いらないんじゃないの?」

「自覚が足りないからいるんだよ!」

「うっ」

「上級貴族の事を知れば、どれほど愚かだったかわかるよ!」

「うっ」

「それとも、何!?男好きだと噂が流れても平気なの!?

険しい顔で顔を近づけてきた。

「それは、ヤダ」

「宜しい。教育係の方の準備が整い次第、直ぐにオルファ家に来てもらうようにする。それと、私はオルファ家に毎日寄るからね」

「え!?アトラスは必要無いでしょ?」

「私は、恋人だからね」

真面目な声と瞳に、本当に来る気だ、と悟る。

「何か問題でも?」

「・・・何でもない。なんかいつもの優しいアトラスじゃないよ」

「何言っているんだ。ルミナが可愛いからこうなったんだよ。分かってる!?」

なんで、そこで怒りながら聞くの?

それに私が可愛いからこうなったなんて、何を言っているのか、さっぱりわかんないよ。

「わかったね!?」

「・・・分かったわ」

分からないが、そう答えるしか無かった。元はと言えば、自分が婚約解消した上に、軽率な行動をとったからだし、アトラスが心配しているのは分かった。

「宜しい。では、帰って夕食を一緒に食べようか」

「一緒・・・に、ね」

とても嬉しそうに微笑むアトラスにげんなりした。


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