第7話
「ルミナ、もう少し考えて答えてあげなよ」
「何をよ」
「ルミナ、分かるだろう!?お前の一挙一動でアトラスが変わるんだ。だが、良くやった!」
「だから、何をよ」
「ああ、これでこの家も安泰だね。婚約解消してよかったね!」
「あんな下のゆるい男と婚約解消して、せいせいしたな!」
私がどれだけグロッサムを好きだったか知っていた筈なのに、お兄様達はとても失礼な事を言ってくれる。
あれだけ部屋に籠っている私を心配していたのに、酷い言い草だ。
さすがにむくれた顔でお兄様達を睨んだ。
「だから、何?何をお兄様達は喜んでるの?」
「本気で聞いてる!?」
「バカか!」
2人が目を釣り上げながら声を荒げた。
「いいか、カーヴァン公爵家なんだぞ!アトラス、いや、アトラス様は嫡男だ!」
初めて、様、とつけたね、アコード兄様。
「だから何?今更でしょ、そんな事。昔から知ってるじゃない」
「いいかい、あの頃の幼い時と違うよ。これからアトラス、兄上の言う通り、アトラス様だな」
いや、ジャンお兄様も今さら、様、おかしいから。
「この先カーヴァン家に大きくアトラス、いやアトラス様は関わってくる。それも四大公爵家なんだ!そのカーヴァン家の祝い事に招待されるという事は、それ相応の貴族がわんさかいるという事だ!!アトラス、いや、アトラス様は、嫡男なんだ!!」
やっとわかった。
というか、いちいち、様、と言い直さないでよ。
「その人達と仲良くなれば、この家が安泰と言いたかったのね」
「そうだ!それも、明らかにルミナの返事次第だった!!」
「そう?どこが?」
「落ち着きなさい、2人とも」
熱くなってくるお兄様達にお父様が静かに声をかけた。
「座りなさい、2人とも。ともかく、アトラスはルミナだけには優しいのは事実だ」
「私だけ?幼なじみだから、楽だからでしょ?」
「そうかもしれないが、私はナリッサの誕生日に招待して貰って毎年行くが、あんな優しそうな感じでは全くない。いつも冷ややかで冷徹な言い方で、誰も近づけない雰囲気を醸し出してる。だから、正直この屋敷で見るアトラスにいつも驚いているよ」
「誰が、冷ややか?アトラスが?まさか、あんなに優しいし、心配性なのに。もし、そうだとしても、幼なじみだから、話しやすいだけだよ」
「お前がどう見ようが、お前を心配して来てくれたのは事実なんだ」
「まあ、そうね」
それは、否定は出来ない。
幼い頃から私を理解し、私を甘やかし、優しく接してくれた。
私の我儘を嫌な顔ひとつせず、いつも嬉しそうに叶えてくれた。大袈裟だと分かっていても、己の事よりも私を優先的に考えてくれ動いてくれた。
心許せる、人、だ。
「グロッサムの事は皆、忘れなさい。サシャ、悪いが暫くはお茶に誘われても断りなさい」
「勿論よ。ルミナの魅力が足りなかったとしても、このような結果は許せません」
お母様の冷淡な言葉に怒りを感じ、不謹慎ながらも嬉しかった。
「それならいい。あと、アトラスから申し出てくれたドレスだが、元々用意していたのだろう。無駄にしては申し訳ない」
「そうだろうな。あいつの事だから毎回準備してたんじゃないか?」
「僕もそう思うよ」
お父様とお兄様達の言葉に、首を振った。
「何言ってるの?元々用意なんてしてる訳ないでしょ。アトラスが言ってたよ。私が婚約してたから遠慮してた、とね。だから、急遽頼んだんだよ。もしかしたら、ランレイのドレスをリメイクしてるかもしれないよ」
私の言葉に一気に皆の表情が呆れた顔になった。
「なによ。どうしたの?」
「母上に1票」
「僕も」
「私も、だ」
お父様とお兄様達が、肩を竦めどうしようもない、といった顔で呟いた。
「はぁぁ。こんなに、バカ、だとは思っていませんでした」
大きな溜息をつくお母様に流石に声を荒げた。
「お母様、何でそんな言い方するの!?皆もお母様に1票、というのは何?私バカじゃないもん!!」
「さて、私としてはサシャにそれなりのドレスを用意しなければいけないな、と少し頭が痛いところだ」
まるで空気を変えるようにお父様が、私から目を背けお母様を見た。
な、何よ!!
私の話しは!?
「当然でしょ。ルミナが豪華なドレスを着ているのに親である私が、質素なんて恥ずかしでしょ」
私を全く無視し、話を進めようとし、お母様がとても嬉しそうにお父様を見た。
むううううううう!!!!
「分かってるよ。仕立て屋を呼んでおくよ。幾つか候補をあげておきなさい」
「ええ、そうするわ」
いつも冷静なお母様が、頬の筋肉がいつもよりも上がるのがわかった。
最近大きな夜会やパーティーの招待がなかった為、ドレスを新調する必要がなかったから嬉しいのだろう。
お母様は質素で堅実な方だ。
それでも女性だ。
お母様の姿を見て、苛立ちが緩んだ。
「なあ、ルミナ。始めからアトラスを選んで良けば良かったんじゃないか?」
「もう、様、は終わり?アコードお兄様」
チクリ、と嫌味を言ってやった。
「あ、忘れてた!」
はいはい、言う気もないくせに。
「あのねえ、あの激甘をずっとされたら疲れると思わない?重たいと思わない?」
私の答えに、アコードお兄様だけでななく皆が固まった。
そして、誰も否定しなかった。
「ま、まあ、人それぞれ優しさや気づいかいは違うだろうから、アトラスはルミナに対しては、あれが普通なんだろう」
「そうだな」
「そうだろうな」
「そうね」
なによ、その取ってつけたような返事は!
「そういう所は理解しているのに、肝心な所は分からないのですね」
「肝心なところ?どこの場所ですか、お母様。もしかして、私行ったことのある場所ですか?」
私の素直な答えに、皆が固まった。
そして、バカ、という顔で皆が溜息ついた。
どうして?さっぱり分からないんだから!
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