第8話【グロッサム目線⠀】
「もう婚約解消が受理された?役所は休みだろ」
アムルとの楽しいデートから帰ってくると、すぐに父さんの部屋に来るように、と召使いに言われ父さんの執務室に来た。
ソファに座る父さんの前に座った。
今日は日曜日。
ルミナと婚約解消しようと告げたのは昨日の事で、その夕食時に父さんに相談をした。
当然、あの修羅場の詳細な説明は省いた。
説明によっては、俺の分が悪くなる可能性があり、いらない誤解を招く恐れがあるからだ。
ルミナとの婚約については、家柄等の政略的なものでは無く、お互い納得の上だっただけに、余計な波風を立てたく無かった。
こう言っては何だが、ルミナの性格上余計な事を言う性格では無いから、思っていた通りオルファ家からの抗議はなかった。
だが、思いの外受理が早急だったのには正直驚いた。
ルミナが自分に好意を抱いていたのは幼い頃から知っていたから、復縁を迫りに来るものだと思っていたのに、拍子抜けだ。
つまり、その程度の気持ちだった、という事だ。
あれだけ俺に尽くしたい、と愛情溢れる態度をしていたが所詮その程度だったのだ。アムルの言うように上辺だけを上手く取り繕い、表面だけの感情しか持ち合わせていない人間だったわけだ。
アムルに教えてもらわなければ、永遠に知る事無く上手く騙されていただろう。
「お互い低い立場ならともかく、我が家は伯爵家だ。手際よく処理して当然だ。昨日オルファ家から申請されたのだろう。それで急いで書類を作成したのだろう。今日の昼に持ってきた」
至極当然だ、と言わんばかりに父さんは言う。
「成程な。これで晴れて俺は自由の身だな」
「ルミナとの話し合いに問題なかったからだろう」
父さんの満足気な声に、後ろめたさを感じた。
昨日の修羅場のような場面で、話し合いなど出来るわけがない。
だが、父さんには、お互にとってよりよい伴侶を探すために婚約解消した、と円満解決での内容を伝えた。
本当ならルミナは、屋敷に訪問する予定はなかった。
俺は訪問を断っていた。
それを自分勝手に訪れ、あの嫌な修羅場となった。
結果的に婚約解消できたから良かったが、本当なら会わずに婚約解消の通知を送るはずだった。
だが、あそこでルミナが喚き散らすこもなく、暴れず、それも、オルファ家の方から婚約解消をしてきたという事は、アムルの言葉と、噂通りという事なんだろう。
「それよりも父さん、噂が本当だったと言う事だろう。俺も、アムルから聞いて驚いたよ。裏で色んな男と遊んでいるなんて、気付きもしなかった」
「大人しい顔して恐ろしい女だ。お前、手を出していないのか?」
鋭い言い方で、確認してきたか。
「ないよ」
全くと言っていい程何も無い。
「それならいい。子供でも出来て、お前の子供だと言われたら困るからな。ルミナにとってお前はただの幼なじみ、というだけだったんだろう。それか、都合よく、いい隠れ蓑に使われていたんじゃないか?」
「かもな。婚約者がいるのに他の男と遊ぶなんて、恥知らずな事を、普通はしない。それをルミナはやっていたなんて、誰も思いつかない」
ルミナはおとなしく、可愛らしい顔をしている。いつも控えめで、文句1つ言うことも無く、俺の側で微笑んでいた。
俺の事が好きなのだろうな、と思い、それが特に嫌な気分にならなかったから、このままいけば結婚するかもしれない。
そう思っていたのに、まさか全部演技だったとは驚きだ。
アムルが、泣きながら教えてくれた。
あなたが好きなの。だから、本当はいけないことだと分かっているけど、忠告したいの。
そう言って、ルミナが色々な男と遊んでいると、裏ではかなり噂になっている、と教えてくれた。
信じられなかったが、他の女性からも同じ事を言われ、それが嘘ではない、と愕然とした。
「もう関わるのはやめておけ」
「分かってるよ。それに、俺にはアムルがいる」
アムルはルミナとは、正反対だ。
とても綺麗で女性らしい肢体を持ち、頭がいい上に、甘え上手だ。
ルミナは全く甘える事をせず、何も求める事もしなかった。
それが楽だと思っていたが、そうでは無い。
男は、女に頼られてこそ意味も、意義もある。
アムルはそれを理解し、可愛らしく上目遣いでお願いしてくる姿が何とも心地よく男心を擽り、望みを叶えて上げたくなる。
だがその素振りのせいで、他の男が勘違いし、かなり人気がある。
そのアムルが俺を好きだった、と言ってくれたんだ。それも、プリライ伯爵家という、贅沢過ぎる立場を持っている。
明らかに、ルミナとは雲泥の差だ。
「プリライ伯爵家だろ。いい家だあそこは。噂ではそろそろ王宮の役職に就くらしいぞ」
顔をほころばせ嬉しそうに、父さんが体を乗り出してきた。
「本当に?それは凄いな。アムルから婚約の申し込みをプリライ伯爵家に送っておいて、と言われたよ。俺が婚約解消したばかりだから、すぐに婚約するのは体裁が悪いだろうから、時期を見て承諾すると言っていた」
「そうか!そこまで話は進んでいるのか!」
「父親にも話はつけているから大丈夫だと言われたから、問題ない」
「だったらすぐに申し込みをしよう!」
「頼むよ父さん」
「婚約解消して良かったな。ガイルも期待出来そうにない。お前だけが頼りだ」
ガイル、とは2つ上の兄だが、穏和な性格を持ち、ここぞと言う所で押しが弱くいつも父さんから怒鳴られていた。
今は領地の視察に行っているが、いつも領民のつまらない愚痴ばかりを聞き帰り、些細な事に力を入ていた。
愚かだ。
領民の意見など聞く必要は無い。
領地を豊かにする為には、上級貴族と繋がりを持てばいいのだ。
「任せとけよ、父さん。ガイル兄さんよりも俺が跡取りになるつもりで動いてやるよ」
俺の言葉に父さんは豪快に大笑いし、幾度も、その通りだ、と言ってくれた。
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