第23話 彼女の棲む、家

 おおよそ真面目な女子大生であるカヌキさんこと香貫かぬき深弥みやは、無類の映画好きであり、特にホラー映画を好んで観ている。そんなカヌキさんは、大人っぽいけれどちょっとばかしワガママなミヤコダさんこと都田みやこだ架乃かのとお付き合いをしていて、古い一軒家で同棲生活を送っている。

 そんな二人のなり初めなどは、さておいて。



 ______


 その日もいつものように、ホラー映画を見せられていた。彼女の好きなホラー映画をわたしも好きでありたい、その一念で怖かったりキモチ悪かったりするホラー映画を鑑賞しているわたしって健気だと思う。


 今日は、殺人事件の起きた家に両親と子供たちが引っ越してきて怪奇現象に襲われるというやつだ。お父さんがどんどん家の呪いでどんどんおかしくなっていく。怖いけど、まあ、マシな方かな。

 これもリメイクらしくて、彼女は昔の方がいいとボヤいている。それなら見なければいいのに。


「ねえ、こういう家系ホラーってさぁ」

 と、わたしが話し掛けると

「ラーメンみたいに言わないでくださいよ」

 彼女がほっぺたを膨らませたが、とりあえず、その不満は無視した。

「なんで登場人物は、ちゃんとじっくり内見しないのかしら?」


「ははは、それは家系ホラーの根幹を覆す質問ですねえ」

 あ、自分だって家系って言った!


「本当に怖いのは家じゃなくて。家に巣くった悪魔や怨霊が、引き込みたい人間を誘って怖がらせて、怯える魂を喰らうのが目的だから、内見では分からないんじゃないんですか」

 彼女はわたしのどうでもいい質問に真面目に回答してくれた。

「つまり家系ホラーは、ターゲットを待ち伏せして捕食する先住者を象徴するものと解釈できる」

「そんなことまで考えて観てませんけど」

 そりゃそうだ。



「そう言えば、この家の内見はあなたがしたんでしたね」

 わたしたちが同棲くらしているこの家は、わたしが彼女のために見付けた家だ。大音量でホラー映画を見ることができる家に住みたいという彼女の理想を叶えるため、わたしが何件も内見して選んだ掘り出し物で、事故物件ではないこともしっかり確認した。

「そ、愛しい人を呼び寄せるためにね」

 わたしがニヤリと笑うと、彼女も頬を染めて笑い返す。

「そして、私は、ろくに内見もしないで引越して食べられるんですか?」




 いただきます




 ★☆

 ネタにした映画「悪魔の棲む家」(2005)




______



 こんちは、うびぞおです。

 今回は、既に公開した短編の再録とネタにした映画の似非エッセイとなります。KAC2024、カクヨムアニバーサリーチャンピォンシップというイベントの、お題に沿って888字以上の短編を書くという課題をクリアしようというものです。

 2024年第2回のお題は、『住宅の内見』でした。

 全く毎回毎回、「書けるなら書いてみな」と言わんばかりのお題が来ますが、住宅=家、家とくれば、結構あります「家系ホラー」。割とすぐに思い付きました。今回ネタにした『悪魔の棲む家』(2005)はリメイクで、元々の『悪魔の棲む家』(1979)のシリーズだけでも13本あるんだって!びっくりですね、そして、ドン引きです。どんだけひどい映画があるんだかと思うと。リメイクではないけれど、スマッシュヒットしている『死霊館』シリーズの第1作『死霊館』もこの『悪魔の棲む家』のリメイクみたいなもんです。他にも『ポルターガイスト』シリーズとか、『ホーンテッドマンション』とか、『パラノーマル・アクティビティ』とか、最近の邦画だと『スウィート・マイホーム』とか。

 まあ、大抵は、呪われた家に家族が引っ越してきちゃって大騒ぎ、っていう話です。おおよその人々にとって、家は最も安心できる場所のはずなのに、そこで変な夢を見たり、なにかしら痛い目に遭ったり、ペットが酷いことされたり、いきなり謎空間に飛ばされたり、と割といろんな恐怖現象が起きます。大抵は、カヌキさんが言うように、引っ越して来た新参者を脅かして残酷に死なせるためであることが多くて、あとは、新参者の生き残りが、いかに家から脱出するか(たまに新しい家にも追いかけてきますが)という展開になります。


 さて、この『悪魔の棲む家』こと有名なアミティビルの館は本当に存在していて(それを知った時は驚いた)、本当に一家四人惨殺事件は起きているそうです。

 で、うびぞおがなぜ2005年版リメイクを選んだかっていうと、1979年版を観たのが前すぎて、どんなんだか忘れちゃったからです。と言っても2005年版もそんなに覚えている訳ではなくて、正直、どっちだって良かったんですが、まあ、カヌキさんが続編の文句を言ってるところからスタートさせるためでしかありませんでした。

 覚えてるのは、かつて殺されちゃった幽霊の女の子が可愛かったっていうことくらい、だったので、改めてWikiさまでお勉強してみたら、あら、お父さんが「デッドプール」のライアン・レイノルズ(多分、当時はその頃人気が出始めた頃)で、幽霊の女の子と仲良くなっちゃう末娘が、『キックアス』のクロエ・グレース・モレッツ(当時子役)で、ちょっと面白いキャスティングだと思いました。役者ついでに勉強した結果をメモしておくと、元の1979年版のお父さん役が、アベンジャーズの悪役サノスのジョシュ・ブローリンのお父さんのジェームス・ブローリンで、奥さん役が、「スーパーマン」のロイド役だったマーゴット・キダーで、と。この辺りは、俳優とかアメコミヒーロー映画好きな人が「へええ」となるネタかもしれません。うびぞおは、へええって言ったぞ。残り少ない脳細胞をまた無駄に使ったな、とも思いましたが。


 で、今回の短編は、最後の会話が我ながらヨロシイか、と。

 ミヤコダさん「いただきます」というシメのセリフに満足してます。

 

 次回は、本編に出てきた映画「マシニスト」(2004)についての似非エッセイの予定です。今回も無事ニチアサ更新でした。よろしければ、また来週もお目にかかりましょう。

 まもなくカクヨムコン10なので、もしかして何か書くなら、この『とまれ…』は3ヶ月くらいお休みするかもしれません。もし、お休みしても、復活後にまた読んでいただけたら、ありがたいです。

 なんにせよ、今回も読んでくださってありがとうございました。



うびぞお

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