第15話 彼女が、3分間でしてくれたこと。
おおよそ真面目な女子大生であるカヌキさんこと
そんな二人のなり初めなどは、さておいて。
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主人公には3分以内にやらなければならないことがあった。
8時57分
「アクションなら、時限爆弾の赤か青のコードを切って、囚われの恋人の前で敵を撃ち殺して、恋人にキスです」
映画のクライマックス3分間に主人公がどうすべきか尋ねた途端に彼女はスラスラと答えた。
「ホラーなら、死にかけたところで逆転の手段を見つけて生き残ります。ラストにどんでん返しがありますけど」
彼女の視線はテレビに向けられたまま。
8時58分
週末の夜、彼女はテレビの映画放送の開始を待っている。
映画よりわたしの方を見てほしい。
「恋愛ものなら?」
「余り観ないジャンルだから分かりません」
「いい雰囲気のクライマックス」
「さあ?そのままエッチするとか」
他人事みたいに言うな!
「一体さっきから何ですか?その質問」
ようやく横目でわたしを見た。
8時59分
「映画よりわたしを構って」
そのおねだりに彼女は呆れた顔になる。
「2時間位待てないんですか」
嗜められた。
「だって金曜の夜だよ。それにどうせ、この映画も何度も見てるんでしょ」
「そうですけど。それじゃ」
そう言うと彼女は立ち上がった。
「この映画が始まって3分以内にあなたが泣かなければ観るのをやめます」
彼女がこういう言い方をする時は大抵わたしが負ける。
9時
いや、今日こそは勝つ!
気合いを入れて画面を見た。
「私には3分以内にやらなければならないことができました」
彼女はキッチンに行ってしまった。
それはアニメ。
そして、夫が一人残された。
物語はそこから始まる。彼の家が多くの風船で舞い上がっていく。
孤独な主人公に同情して号泣していると、彼女が微笑みながら温めたタオルとココアを渡してくれた。どうやら3分で準備してくれたらしい。
ああ、もう。
結局、わたしも最後まで映画を観てしまったけど、彼女が優しくしてくれたからヨシ。
★☆
ネタにした映画 「カールじいさんの空飛ぶ家」(2009)
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こんちは、うびぞおです。
今回は、既に公開した短編の再録とネタにした映画の似非エッセイとなります。KAC、カクヨムアニバーサリーチャンピォンシップというイベントがあって、お題に沿って888字以上の短編を書くという課題をクリアしようというもの。
第1回のお題は、「書き出しが『○○には3分以内にやらなければならないことがあった』」でした。
このイベントにはカヌキミヤコダで参加するつもりだったので、映画ネタで短編やってやるわ、と思っていたのですが、最初から
何、このお題……
と早速泣きが入りました。去年KAC2023の課題は単語で、それも大変だったけど、2024はいきなり文章の課題が入ってきて非常に戸惑いました。で、一生懸命考えていた名残が、アクション映画の主人公とホラー映画の主人公が残り3分でやるべきことです。でも、なんかうまくハマらなくて、捻って捻って、何がどうなったか忘れたけど、『カールじいさんの空飛ぶ家』に落ち着きました。既に高く評価されている作品ですね。
実は、うびぞお、この作品の冒頭だけで泣いてしまいました。冒頭だけで泣いたのは、後にも先にもこの1本です(今のとこ)。その後の本編は普通に楽しく観ましたけれど、その冒頭のことがもっとも印象に強く残ってます。
カールじいさんが妻に先立たれて、妻と二人で暮らしていた家に取り残されてしまっているという状況説明が実に見事です。
一人だけが残される
一人だけをおいていく
どっちも嫌です。すごく嫌。
一人になることへの恐怖を自分が抱えていることを実感させられたのだと思います。
それをミヤコダさんに投影させたのが、この短編でした。
もし、いつか、『カールじいさんの空飛ぶ家』を見ることがありましたら、冒頭部分に注目してみてください。なんだ、うびぞお、こんなんで泣いちゃうんだーと笑ってやってください。
ホラー映画は動じずに楽しく観れるのに、時々、予想外のところで刺さってやられてしまう映画があります。
でも、そういう体験が、今の映画好きのうびぞおを作っているのです。はい。
次回は、本編に出てきた映画「キャリー」についての似非エッセイの予定です。もちろん、いつものごとく、一文字を書いてません。
あと、よろしければ、この映画でミヤコダさんとカヌキさんの話を書いてみろ、みたいな映画リクエストください。ホラーじゃなくてもいいけれど、肝心なのは、うびぞおが見たことのある映画かどうか(汗)です。
今回も読んでくださってありがとうございました。
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