第13話 彼女たちは、恋を語りたがる。
おおよそ真面目な女子大生であるカヌキさんこと
そんな二人のなり初めなどは、さておいて。
……Country Roads Take me Home……
1 カントリー・ロード
洗濯物を干しながら、ミヤコダさんが小さな声で歌を歌っていた。
それを聴いたカヌキさんは、ミヤコダさんの歌の上手さに感心し、目を細める。
「カントリーロード?」
取り入れた方の洗濯物をたたみながらカヌキさんがそう言うと、ミヤコダさんはカヌキさんを振り返って、知らず歌っていたこと、それを聴かれていたことに気付き、少し照れた。
「『耳をすませば』ですね」「ジョン・デンバーの古いカントリー」
二人は、全く違う言葉を重ねた。
「「え?」」「「それ何?」」
2 集合
『何だか賑やかね。誰か来てるの?』
カヌキさんのお友達であるヨシワラさんが電話で尋ねた。ちょっと明日の講義のことでカヌキさんに電話を架けてきたのだ。
「ははは、ミヤコダさんのいつものお仲間が集まってます」
『飲み?』
「いやあ、違うんですよ」
映画とほとんど無縁に生きてきたミヤコダさんは、こともあろうに名作アニメーション映画『耳をすませば』を知らなかった。それをカヌキさんに珍しい人がいると揶揄われたミヤコダさんが、大学の友人たちに愚痴をこぼすと、いつものごとく散々いじめられ、挙句、珍しいどころか『珍獣物知らず』とまで命名されてしまった。さらには、カヌキさんの視聴覚室で一緒に『耳をすませば』を見ようという話にまでなってしまったのだった。
『何それ、楽しそう。私も仲間に入れて』
かくして、視聴覚室には、カヌキさん、ミヤコダさんに加えて、アライさん、ニトウさん、モリさん、そして駆け付けたヨシワラさんといういつものメンバー6人が勢揃いした。
3 恋バナ
「大好きだああ」
エンドロールが流れる中、ニトウさんが『耳をすませば』の主人公たちよろしく、カヌキさんを抱きしめて、ミヤコダさんに頭を引っ叩かれて引き離された。
「いたあい、ミヤ、ひどおぉい」
「でも、いいねえ、こういう少女マンガな話って」
「へえ、アライでもそんなこと思うんだ」
「思うよー。人を何だと思ってるんだよ」
アライさんの呟きをモリさんが茶化す。
「少女マンガって言ったら、我らがニトウさんも少女マンガ顔負けだよね」
「幼なじみと付き合っとうだけだもーん」
モリさんがニトウさんも茶化す。ニトウさんにはお隣に生まれた同じ歳の幼なじみがおり、中学校時代からは恋人としてもお付き合いを続けている。近すぎた距離を見直そうと離れた大学に入り、遠距離恋愛を始めてみたところ、二人は却って親密になったというのだから、確かに少女マンガのような恋を長く続けている。
「でも、私には、出会いがないんよぉ。あたっ」
照れながらニトウさんが言い、また、懲りもせずカヌキさんを抱き寄せて、ミヤコダさんにはたかれた。
「出会いがあっても、そこに別れが必ず、必ず、必ず付いてくんのよ、こっちは!」
恋と失恋とをリピートしているモリさんが吠え、みんなが笑う。
「ヨシワラさんは、彼氏と順調?」
アライさんがヨシワラさんに話を振ると「おかげさまで」とヨシワラさんが答える。
「ヨシワラさんの彼氏って、同じ学科の人だっけ」
モリさん、既にリサーチ済みである。ヨシワラさんははにかむように頷く。
「いいなああああぁぁぁぁ。どうやったら、長続きするのかご教授してくださいよー、あたし、こんなに尽くす女なのに」
そして、モリさんは全力で羨ましがる。そういうところだぞ、っとみんな思ったが黙っている。
「モリは、よく『恋は大学生の必須単位』とかいうけど、受講するばかりで単位全然取得できないよねえ」
アライさんがモリさんに酷い言葉を突き刺して黙らせた。
「そう言うアライはどうなの?」
ミヤコダさんがアライさんにツッコミを入れてみる。
「あ、それ聴いちゃう? 私の流血の恋の話聴く? 私の恋人、私が噛んだ傷跡が残って…」
「いいから、それいいから。アライの恋バナ怖すぎ」
ミヤコダさんはアライさんの話を止めたが、流血と聞いてカヌキさんが興味津々になっていたことには誰も気付いていない。
「ミヤは、そろそろ彼氏作らんのぉ?」
ニトウさんがミヤコダさんに尋ねる。
「わたしは、高校時代に爛れた恋愛ばかりだったので、現在、浄化中」
…………
…………
「ちょ、ちょっと誰か、突っ込んでよ!」
「だってねえ」「洒落にならなさそう」「爛れてるって…」「エロ」
ミヤコダさんとしては冗談のつもりだったのだが、みんな本気にしている。みんな酷すぎると愕然とするミヤコダさんだった。
「カヌキさんは? 新しい恋はないの?」
最後に、モリさんがカヌキさんに話を振った。カヌキさんが高校時代の彼氏に1年間無視され続けた結果、目出たく失恋を迎えたことをみんなもう知っている。でも、カヌキさんの今の恋人が誰かを全員が知るのは、まだまだ先の話だ。
「私ですか? 私は、映画と相思相愛で満たされています」
しらっと答えたカヌキさんの言葉を疑わず、「あらあら、この映画バカには付ける薬はない」とみんな生温かい目を向けた。
ただ一人ミヤコダさんだけがひっそり絶望的な表情をした。
ミヤコダさん、やっぱり映画には勝てそうにない。
4 そして、カントリーロード
「さて、みなさん、わたしの特技を覚えてる?」
ミヤコダさんが立ち上がって、ニヤリと笑った。「エロいやつ?」と突っ込んだアライさんが殴られた。書いてる人も忘れてたけど、ミヤコダさんはヴァイオリンが弾けるのである。1年生の時の大学祭でミヤコダさんは弾き語りを演じてキャンパスクィーンに輝いていたりする。
そして、『耳をすませば』と言えば、ヴァイオリンだ。
「さぁ、者ども、歌うがいい!」
ミヤコダさんが、ボゥを高く掲げた。
カントリーロー、このみーち…
かくして、賑やかな女子たちは、カントリーロードを合唱する。
それから、ガールズトークは夜更けまで続くのだった。
★☆★☆★☆★☆★☆
ネタにした映画
耳をすませば(1995)
リクエストをくれたのは、日笠しょうさんです。ありがとうございます。
こんちは、うびぞおです。
前回、短編のネタになる映画のリクエストをお願いしたところ、早速、リクエストしていただいたので、頑張って書きました。ぴゅあぴゅあなお話とのことでしたが、書き始めたら、なぜか大騒ぎのガールズトークになりました。最初は、中学校時代の恋の話にしようかと思ったのですが、頭の中の女子たちが『耳すま』大好きーって騒ぎ出し、カヌキさん、ミヤコダさんのお友達勢揃いの賑やかな話になりました。
こういう会話劇みたいの書くのは楽しくて好きですが、どのセリフを誰が言っているのか、作者だけにしか分からない、という状況になりそうで難しいとも感じております。
なお、アライさんの恋人については、本編ではなく、全く別の短編の方で公開しております(プロの方からくそみそな批評を受けた
さて、『耳をすませば』です。どちらかと言えば地味な少女マンガが、こんなアニメーション映画になるのかと驚かされ、やっぱり空を飛ぶんだ、と思ったのを思い出しました。ジブリ作品の中ではおとなしめの作品で、ファンタジー部分がとても素敵ですが、日常部分の堅実な表現があってのことで、そこは近藤喜文監督の緻密な演出がとてもとても素晴らしいからだと思っています。
それ以上は特に言うことはありません。言葉が出ないのです。
が、言うぞ、言っちゃうぞ!
「 続 編 に う ま い も の な し !!」
アニメ『耳をすませば』には、2022年に、10年後の実写版というのが公開されてます。
これは、もう、なんていうか。正直、なぜ作った?! 企画の段階で誰か止めなかったのか? と思ってしまいました(この後に、500文字くらい悪口を書いてしまったので消しました)。
子供の頃のリアルではあり得ないくらいのピュアな恋愛の物語。
それを中途半端なリアルに落とし込もうとするのは無謀です。いや、脚本と演出によっては成功することもあるんでしょうけれど、きっとすごく難しい。うびぞおはそんな続編を観たことがありません。
まあ、興業収入が良ければそれでいいんでしょうけど。
ところで、『耳すま』では、同時上映が『On Your Mark』という短編でした。
これ、すごく大好き。ディズニーでもピクサーでも出来の良い短編が同時上映されますが、同時上映の短編アニメーションは『On Your Mark』がサイコーだとうびぞおは信じて疑っておりません。
次回は、本編に出てきた映画についての似非エッセイの予定です。「ひっちん」の予定です。「ひっちん」て何?と思いましたら、次回も読んでください。
あと、よろしければ、この映画でミヤコダさんとカヌキさんの話を書いてみろ、みたいな映画リクエストください。ホラーじゃなくてもいいけれど、肝心なのは、うびぞおが見たことのある映画かどうか(汗)です。
今回ニチアサ更新に間に合わず、ニチヒル更新となりました。よろしければ、また来週もお目にかかりましょう。
今回も読んでくださってありがとうございました。
うびぞお
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