剣と血の祝祭⑫
「やっぱりこのパターンだね」
マルティナが諦めにも似た声を出す。まったくだ。俺もマルティナに同意する。
「これしか見たことないけどな」
術者を拘束した後、大人しくオートマタを停止させる者など見たことがなかった。アーティファクトに手を出す程切羽詰まった違法術師は敗北後、術者とオートマタの結びつきを解除し自由に動ける状態に移行させる。つまり、オートマタを暴走状態にするのだ。何としてもこちらに損害を出そうとする違法術師の意志が伝わってくる。
今度はオートマタからこちらに突進してきた。疾駆から跳躍へ変化、腕を振り被る。受けられないと判断し横へ退避する。オートマタの腕は空振りし大地へ激突した。振動が伝わり地面が揺れる。衝撃の中心地は大きく陥没し、周囲の土がひび割れる。避けるという判断は正解だった。
しかしオートマタは即座に足を縮める動作。この姿勢では回避が間に合わない。剣でオートマタの中断蹴りを防御するが大きく飛ばされる。魔具こそ壊れなかったが凄まじい衝撃が骨に響く。
オートマタが追撃のため俺へ距離を詰めていく。体勢が安定しないままそれはまずい。追撃を止めるためマルティナが狙撃術式、エドガーが『
オートマタは穴の空いた胴を直しつつゆっくりと立ち上がった。柄を握りしめ次の攻撃とへ備える。しかしオートマタは止まったまま微動だにしない。一瞬、全ての音が止まったかのような静寂に包まれる。途轍もなく嫌な予感がした。
オートマタが静かに両腕を掲げた。途方もない魔力が練られ、マナが渦巻くのを感じる。それと同時に空に巨大な七重の術式が浮かび上がった。
気が付くのと同時に全力で退避する。この術式は洒落にならない!
ヴィオラが高位マナ遮断魔法『
頭上の術式から巨大な火の玉が現れる。超高位魔法『
火球が地面とぶつかり凄まじい爆発音を轟かせた。衝撃に大地が揺れ、森の木々が一瞬で灰となっていく。さらなる熱波が俺達を迫った。高位術式の連発にヴィオラが顔を歪ませながらさらに術式の出力を上げていく。死ぬほど熱い。しかし耐えるしかない。障壁を解いた瞬間、俺達は即死する。
熱気が少しずつ弱まっていく。ヴィオラは一枚ずつ慎重に『
炎が落ちてきた地面は溶岩のように煮だっている。礼拝堂は高温によって蒸発し跡形もない。周囲の木々は一瞬で消え、焦土と化していた。
俺達の生存を確認したオートマタは再び腕を掲げる。頭上には再びあの術式が浮かび始めた。二回目となると構築はかなり遅いようだ。しかしこんな魔法二度は食らえない。
「無理矢理止める!」
俺はそう告げ術式の展開を開始。俺の術式を見たマルティナは無言で頷き走り出す。煮え滾る大地を疾駆、オートマタの直前で横に飛ぶ。彼女の走ってきた軌道からエドガーとヴィオラによる槍の群れが殺到、オートマタは片腕で弾いていく。槍を陽動に、後ろに回ったマルティナが至近距離でオートマタの頭を撃つ。体は揺らぐが知覚のないオートマタは衝撃で術式の展開が止まることはない。
俺の足元に六つ目の術式の円が浮かぶ。久々の高位魔法の使用に頭痛がする。
オートマタがマルティナへの攻撃を開始。斬撃を受け流していくが、枷が外れた剛力に押され始めていた。ついに短剣が弾かれマルティナの体勢が大きく崩れる。追撃の刃がマルティナの肘から下を切断。腕は止まらずそのまま腹部に達する。刃が沈み切る前にマルティナは撤退を開始。頭上の術式は六重に達する。俺の方へと走る彼女を追いかけオートマタも向かってきた。
ようやく俺の術式の展開が終了、魔法を発動する!
足元の術式が浮かび上がり頭上まで到達し、そして弾けるように消える。全身に魔法が作動したことを確認。オートマタが飛び上がり両腕を上げる。マルティナは疾駆からスライディングへと変え俺の横を抜けていった。俺はオートマタの両刃を片腕で止めた。
体のリミッターを外す身体強化系最上位魔法『
そのまま押し返し、後退するオートマタへ距離を詰める。この魔法ならあの剛腕に対等に、いや、優位に動くことができる。空に浮かぶ術式は七重に到達。
両腕の刺突を剣を立て受け流していく。オートマタが大きく前に出た瞬間体を横に向け回避し、そのまま切り上げ腕を切断。そしてそのまま手首を返しオートマタの頭をこめかみから口角へ斜めに両断する。
頭上の術式の展開が停止、その直後霧散し粒子となって降り注いだ。オートマタを動かしているのは胸の魔石だが、指示を出しているのは人間と同じ頭の部分。今まで戦ってきたオートマタと同じ型で良かった。
切断した箇所が泡立ち急速に回復していく。だが、頭を潰されため動きは先程よりだいぶ鈍い。
ヴィオラが畳み掛けるように『
「もう一発!」
エドガーが魔具を掲げた。魔法の連発で顔が苦痛に歪むも構わず『
オートマタの破片が飛び散り、露出した回路の間から煌めく赤い石が現れた。核となる魔石だ。
重要機関であるためか、頭の回復を放置し即座に銀の装甲で埋まり始める。俺が動くよりも先に、部品の合間を縫って銃弾が魔石へと到達。マルティナの狙撃により核に亀裂が入った。
魔石の不全により回復が明らかに遅くなる。
俺は一気に間合いを詰めていく。右腕の斬撃を受け弾くとそのまま切断。刃を返しさらに胴を両断した。上下に分かれたオートマタの体が崩れる。
未だ再生しようとする胴体を踏みつけ、剣を上げる。そして心臓部に突き刺した。
人間と違って血も出ないし叫び声も上げない。静かにオートマタの眼の光が消え、完全に停止した。
俺も限界に達し、『
身体強化魔法は低位のものでも体に負担がかかる。その最上位にあたるこの魔法は術式制御を誤れば自らの体を破壊する危険があった。アーティファクトも圧倒する必殺の術式だが、使用した後は途轍もない疲労感に襲われる。
吐き気を堪え立ち上がる。
「相変わらずオートマタは常識外れだな」
残骸を見ながら俺は言葉をこぼす。オートマタの光のない瞳が虚空を仰いでいた。再生が途中で止まった体は額から上が消失したまま。両腕はなく、胴と下半身も分断されている。自立人形でありここまで破壊することに罪悪感はないが、こうしてまじまじ見ると少し気味が悪い。視線を外し振り返る。皆血まみれだが、ヴィオラがそれぞれの治療を終わらせていたため傷は見られない。
「アーティファクトが大したことなかったらつまらないでしょ?」
マルティナが腕を確認しながら笑う。切断された腕は綺麗に接合されており傷一つ見当たらない。いつもながら完璧な治療だった。
「腕取れてたくせによく言うよ」
エドガーが鼻で笑う。彼も戦闘中オートマタの刺突を受け、刃が腹部を貫通する重症を負っている。怪我は治っても服まで元通りにはならない。彼のコートの下の白のシャツは鮮血に染まり、皆の傷が治った今一番痛々しく見える。マルティナはエドガーを見て目を細めた。
「エドガーは死にかけてたじゃん」
「うるせーな」
尤もな指摘にエドガーは言い返せず眉を顰める。
死闘のあとでも軽口が叩けるのは良いことだ。それが強がりだとしても口にすることに意味がある。
「それじゃ、そろそろ行くぞ」
俺は皆に声を掛け歩き出した。ヴィオラは無言で頷き、エドガーはため息をつき、マルティナは鼻歌を歌いながらそれぞれ俺の後に続く。
もう少し休憩したいところだが、俺達にはまだ仕事が残っている。足は警備隊からの信号弾が上がってきた方角に向かっていた。
オートマタとの戦いに決着をつけに行こう。
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