剣と血の祝祭④
「きゃははっお兄ちゃんすごーい!」
「ちからもちー!」
左右脇に抱えられた二人の子供が笑い声を上げた。
「そろそろいいか……?」
「えー!」
俺が根を上げると右に抱えた子供が不満気な声を出す。抗議なのか両足をばたつかせた。動かれると疲労の溜まった腕に響く。限界に近付き二人を降ろした。
「もういっかい!」
降ろした途端、二人が足元に駆け寄り俺に手を伸ばした。思わず乾いた笑いが出る。
もう一回もう一回と、それを何度繰り返したか。二人の子供を抱え走ったり飛んだり、時に回ったり。体力には自信があると思っていたが、子供の元気を舐めていた。
右側には長い黒髪を耳の横で二つにまとめた少女。肌は褐色を帯びており、おそらくエレフ共和国の出身なのだろう。左側は金髪の少年。肌は白く、彫りの深い顔の作りをしている。こちらはイスベルク王国の生まれだろうか。二人とも歳は同じくらい。様々な国の子供を見るとここが孤児院であると痛感する。
なぜこのようなことになっているのだろうか。まず好奇心から孤児院の戸を叩いてしまったのが間違いだったのだ。
俺は用が済んだためそのまま帰ろうとした。しかし来客が珍しいのか、子供に遊んでとせがまれてしまう。自分は断るのが苦手な性格だと思っているが、子供の純粋から期待の目で見られたら猶更。助けを求めジョエルに視線を送ったが、彼はあろうことか「良いんじゃないか?」と言う。帰れと言われると思ったのに。そしてこのざまだ。
「楽しいのか? これ」
疲れからか、思わず声に出してしまった。
「たのしいよ!」
そう答え二人はそれぞれ俺の手を握る。それなら良かった。喜んでいるのなら悪い気はしない。もう一回やるかは別の話だが。
「ジョエル兄ちゃんはすぐつかれちゃうもんね」
「ねー」
こんなの誰だって疲れるだろ。しかし子供相手にそれを言うのは大人げないので飲み込み、別の話題に変える。
「ジョエルはよく来るのか?」
「くるよ! 今はあんまこないけど」
左側の子供は少し寂しそうな表情となり、俺の手を持つ手に少し力が入った。
「でもたくさん遊んでくれるから」
そう言い子供の顔に笑顔が戻る。ころころと変わる表情が微笑ましく、口が綻んだ。
「みんなジョエルが好きなんだな」
「うん!」
「やさしいしだいすき!」
俺の言葉に二人とも屈託のない笑顔を向ける。本当にジョエルが好きなのだろう。子供たちの様子から彼がここを大切にしていることが伝わってきた。同時に彼がなぜ自分を偽ってまで教会に属するのか、その理由も察してしまう。少し、胸が苦しくなった。
「でもお兄ちゃんもすきだよ!」
「ジョエル兄ちゃんこんなことできないもんね」
子供達は足にしがみつく。そう言われたらやるしかない。「仕方ないな」と呟くと足元から歓声があがった。
「好き勝手言ってんな」
前からジョエルが歩いてくる。
「でたー!」
「にげろー!」
ジョエルのことを話していた二人は笑いながら逃げてく。その様子にジョエルはため息をつくも、その顔は穏やかだった。
俺とジョエルは取り残され、途端にこの場が静かになる。ジョエルは疲弊した顔で俺を見た。
「疲れただろ?」
「分かってて遊んでやれって言っただろ」
正解と言わんばかりにジョエルは笑う。
「レオとエレナは特に元気だからな」
確かにジョエル一人であの二人を相手にしたら身が持たないだろう。自分の子供の頃もだいぶ活発だった記憶があるので文句は言えない。子供が元気なのは良いことだ。うん。
「ジョエルは何しに来たんだ?」
見たところ、俺と変わるためにきたのではないようだ。
「それだけど、せっかくだからエリノアが茶でも飲んでけって」
ジョエルは俺を見たまま、親指で後ろを刺した。
「あいつらと遊んでくれた礼だってよ」
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