第5話 違法術師取締課⑤ 任務完了

 仕事の受注、説明、移動、戦闘。そしてまた本部に戻り技術部へ押収物の提出。最後に報告書を提出して俺達の仕事はようやく終わる。


「技術部へ押収物の提出、報告書の確認もできました」


 お疲れ様です、と通信士のカティーナは報告書から目を離し、黒い大きな瞳を俺達へ向ける。彼女が深々と頭を下げると左右耳の横で縛った亜麻色の長い髪も一緒に揺れた。無邪気で表裏のないその笑顔は、彼女には申し訳ないが幼い印象を受ける。俺もよく童顔だと言われるがカティーナの方がより幼く見えた。聞いた話では俺より年上らしい。


「今回も特に問題はなさそうですね」

「たいした護衛もいないただのブローカーだったからね」


 マルティナは不満をこぼす。任務の後も退屈だったと言っていたから本当に不服なのだろう。少し申し訳ない。


「皆さんが強いんですよ。なんといったって世界中から集められた選りすぐりの人材ですからね」


 カティーナは順番に俺達に目を向けた。


「エドガーさんは最年少術師資格取得者、マルティナさんは世界最恐都市でも名の知れた賞金稼ぎ、ヴィオラさんはあの術師協会直属の医術師、そして班長のアイクさんはその若さでフォリシアで騎士団の部隊長を務めていましたし」


 彼女はそう心から褒めてくれているのだがどうしても胸が重くなる。自分は皆の経歴に肩を並べられるような人物ではないのだから。


「そんなのここじゃ関係ないだろ」


 嫌そうに口を開いたのは俺ではなくエドガーだった。


「いくら実力があろうが魔具改造の実験体にされるし小間使いみたいな仕事ばっかだろ」

「改造の件はまあ良しとして、その他の仕事も重要なものに変わりはないですから」

 カティーナは続ける。

「違法魔石の流通は市場に悪影響を及ぼします。最近は規模の小さいグループでも社名を偽り販売する事もあって企業へのダメージも深刻なんですよ。それらを一つ一つ取り除くに越した事はありません」


 俺は彼女の言葉に数多の苦難を思い出してしまう


「登録されてない魔石を犯罪に使われたら捜査も面倒になるしな」


 通常の魔石なら登録された番号で誰が魔法を使ったのか分かるのだが違法魔石ではそうはいかない。裏社会で違法魔石が好まれる理由でもある。


「そういう事ですね。小さな仕事でも新たな犯罪の抑止になってるんですから」

「分かってるって。俺はどっかの誰かと違って別に進んで戦いたいわけでもねーし」


 エドガーはそう言うとマルティナを見た。視線に気が付いた彼女は笑みを返す。


「どこの誰の話だろうね」


 カティーナは二人の様子に苦笑いをした後、火花を散らす彼らを放っておき俺を見た。


「ご存知かと思いますが明日二班は休日となります。また明後日よろしくお願いしますね」

「こちらこそ」


 いくぞ、と二人に声をかけ部屋を出る。ヴィオラも静かに後ろから付いてきた。

 こうして、長いようで短い一日の仕事が終わりを迎える。そして、一日置いてまた同じ日々が始まる。違法術師を追い、戦い、時に死にかける。

 これが俺達の日常。

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