しあわせ
『ねぇ…その石で、本当に私の声聞こえてるの?』
もうしばらくは聞いていなかった彼女の声が聞こえる。おいおいまじか…やっぱり本当だったんだ。
「あぁ聞こえる。その…久しぶりだな。」
『あっあのね!本当に今までごめんね…死んだことに気づかないで、ずっとあなたのそばにいて傷つけてきたなんて…』
彼女の姿は見えないが、声は本当に反省してそうだった。俺は忘れかけていた彼女との思い出が蘇るのを感じた。そうか…忘れかけていたけど付き合っていた日々は本当に幸せだったよな。なのに…あんな別れ方…彼女も辛かったはずだ。喧嘩して事故にあって…挙句の果てに自分が気づいたら幽霊になってて急に死んだことを知らされて…
「いや…いいんだ。それよりあの日助けてあげられなくて本当にごめんな…俺はもっとお前といたかったよ。」
『ううん…ごめんね。怖かったよね…最後にあんなこと言って。私ね、あなたに死んでも覚えてて欲しくて必死だったの…それだけあなたのことが大好きで、あなたが他の女のところにいくことが怖くて…』
鼻をすする音が聞こえる。きっと泣いているんだろう。家のすぐ近くの交差点で信号を待つ。ここは彼女が事故にあった場所…胸が痛くなる。帰ったらいっぱいお話して、成仏する時に後悔のないようにしてあげよう。それがきっと最後に俺…いや彼氏ができることだ。
信号が青になる。念の為左右をしっかり確認して…よし。大丈夫そうだ。俺は少しだけ足早に歩く。だが…道路の真ん中で急に体が動かなくなってしまった。
「は?」
『だからね…?一緒に死んでもらうことにしたの。』
体が動かない。どうして?霊媒師が言うにはこんな力残ってないはずだろ。
『油断しちゃったね。あなたも霊媒師も。すこーし反省した感じ出したらこれだもん。ダメよ?もっと疑わないと。私は"悪霊"なんだから♡』
「やめ…」
青信号が点滅し始める。いや、待て。周りに車はいないし、道路のど真ん中で突っ立ってる人を轢く人なんていないはずだ。
『あなたが悪いのよ?私がこんなにもずーっと一途に思い続けてきたのに、どうして私を祓おうとなんかするのよ。幽霊になっても、ずっと一緒だからね♡大好きよ、あなた♡』
信号が完全に赤になる。誰か…誰か助けてくれ。車の音が近づいてくる。大丈夫だ…きっとクラクションを鳴らして止まってくれる。危ないだろって叱られたら、他の人が来てくれたらさすがにこの金縛りも取れるはずだ。
車の方を見る。大きなトラックだった。俺の事見えているのか…?そのまま直進してくる。運転手の方を見ると居眠りをしていた。あぁ…終わりだ。あの時祓ってもらっとけばよかった。同情なんてしなければ…
彼女の笑い声がする。
『だぁいじょうぶ!ちゃんと殺してあげるから…運転手さんも眠らせたからね、そのまま轢き殺して貰えるよ!すごいよね!あなたのためなら私、なんだってできるみたい!』
甲高い笑い声が響く。車はもう目の前まで来ていた。
ドンッと鈍い音が響く。俺はトラックに衝突し、地面に叩きつけられた。体中が、痛くて熱くて…体から生暖かいものが流れ出てるのを感じる。遠のく意識の中、最後に彼女の"幸せ"そうな声が聞こえた。
『ふふふ…あははっ♡ちょっと遅くなっちゃったけど、"死合わせ"出来たね!!これからはずーーっと一緒だよ♡』
しあわせ みる=みさいくる @mill-mi
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