彼女

俺には付き合ってた彼女がいた。でも、とある日に喧嘩して彼女が家を出て行ってしまいそのまま夜遅くになっても帰って来なかった。12時を回った頃だった。家のインターホンが鳴り、俺は安堵してドアを開けた。

そこに立っていたのは血まみれの彼女だった。

「え…あ…なんで…?」

彼女はゆっくりと口を開ける。

「ごめんね…こんな最後で。でも、最後にこれだけ言いたくて…」

俺は急いで彼女の近くに行き、彼女を抱き抱える。

「なぁ待って喋るな!無理するな!今救急車呼ぶから!なんで無理して、ここまで歩いてきたんだよ…!最後なんて言うなよ!」

「ごめんね…でも何となくこれが最後になるって…思ったんだぁ。私が死んでも私だけ愛してて…ほかの女によそ見しちゃダメだよ?」

「死なせない…!だから頼むからもう少し頑張ってくれ…」

「でもさぁ、やっぱり言葉で言うだけじゃダメだと思うの。1番記憶に残る感情って知ってる?私は恐怖だと思うの…」

血まみれなのに何故こんなに喋れるのか。今思えば不思議な話だ。まるで神様が彼女が言いたいことを全て言い終わるまで待ってあげてるかのような気がした。

「な…何の話だよ。」

「私ね?あなたが私以外の人と恋人関係になるのは許せないの…だから今の私の姿を目に焼き付けて…この言葉をあなたに贈るわ。」

彼女は震えながらゆっくりと俺の耳元に口を近づける。そして、はっきりとした声で言った。

「私がこんな姿になったのは『お前のせいだ』」

血の気が引くのを感じた。彼女の体温はもう完全に冷たくなっていて、息もしていない。

後日警察が来て、事件の詳細について説明をされた。彼女は家からすぐ近くの交差点で信号無視の車に轢かれたらしい。運転手が車から降りて彼女に駆け寄ると彼女は自力で起き上がり笑顔で「この程度の傷なら、すぐ近くの病院に自分で行けるので大丈夫です。それに家の人に心配かけたくないので、自分で行きます。」と言ったらしい。

警察が苦笑いをしながら言った。

「いやぁ…歩いているうちに傷が開いちゃったみたいでねぇ。運転手は救急車を呼ぼうとしたらしいんだけど、彼女さんが阻止したらしいよ。」

「そうですか…」

「こう言っちゃ不謹慎かもしれないけど、愛だねぇ。事故にあって痛い体に鞭を打ってもあんたに会いに行きたかったんだねぇ…本当に気の毒だったね。」

愛…?いや違う。俺は彼女に『呪い』をかけられたのだ。とんでもない呪い。非現実的なことは信じていないが、どうにもあの日から彼女が俺に取り憑いて監視されているような気がしてならないのだ。

警察が帰ってから、沢山連絡が来てたことに気づいた。親からだったり、友達からだったり。俺が付き合っていたことを知っていた奴らからだった。俺は怖くて何も見れなかった。俺はただひたすらにベットの上で震えることしか出来なかった。

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