第二章
第14話 惚れました(ガチ告白)
翌日、俺はウッキウッキで出社していた。
勿論ゴブリンキングを討伐したからってのもある。
あ、あの魔物は調べたらどうやら討伐令が出ていたらしいけど、まだこちらの姿での冒険者証は持っていないので、討伐賞金は渋々諦めた。
まあ、それでも憧れの上位スキルを手に入れたのだ。
冒険者をやっていて憧れない事はない、って物を手に入れたのだ。
気分が良くなるのも仕方がないだろう。
いつもの様にデスクに着くと、フリーサービスのコーヒーを一杯すする。
すると、隣のデスクの森山もとても嬉しそうな顔をしてコーヒーを啜っていることに気づいた。
「ん、どうした。森山も良いことがあったのか?」
気になったので訊いてみる。
「ええ、良いことがあったんっすよ」
「へえ、どんなことが?」
「ほら、最近討伐クエストが出ていた魔物がいましたよね?」
「討伐クエスト?そんなのが居たのか?」
「先輩は知らないんですか?まあ、担当が違いますからね。
えっと、討伐令が出ると地獄になるじゃないですか?」
「そうだな。確かに討伐令が出ると事務処理が大変になるな」
コーヒーを啜る。
「で、最近ゴブリンキングっていう魔物に討伐令が出てたんですよ。そして誰かがゴブリンキングを昨日、討伐したんです。お陰で地獄から早めに解放されました」
「へえ、それは良かったな。ん?ゴブリンキング……?ってゴブリンキング!?」
ゴブリンキング、
それは俺が先日討伐した魔物だ。
突然聞き覚えしかない言葉にコーヒーを吹き出しそうになる。
「ん?先輩知ってるんですか?」
「い、いや?知らないぞ?ところでゴブリンキングを討伐したのってダレナンダロナー」
ピューピューと口笛を吹いて誤魔化す。
流石に、バレると不味い。
葉上には打ち上げたのだが、よくよく考えてみたら誰かに解析先生のことを知られるのは不味い事に気づいた。
だからこれ以上、誰かに知られないようにしなければ……。
というか、そもそもどこか別のゴブリンキングさんかもしれない。
ほら、ゴブリンキングってどこにでも居そうな名前じゃない?
それに世の中10人くらいはそっくりさんが居るもんだしさ。
だから、きっと森山が言ってるのは別のゴブリンキングさんなのかもしれない。
「ゴブリンキングを討伐した人ですか……?えっと、聞くところによるとどこかの配信者が討伐したらしいですよ。気になったので、配信を見てみたら、可愛らしい女の子でした。凄いですよね、こんな若い子がこんな巨大な魔物を討伐してるの。ギャップ萌えってやつですねー、思わず推してしまいそうになりましたもん。
いや……なんなら推してしまおうか……?」
えっと、はい、俺が討伐したゴブリンキングさんでした。
いや、ね、うん。
それ俺ですよー、って言いたくなってしまうな。
「ん?先輩、何か知ってそうな顔ですね」
「い、いや、何もシラナイゾー」
「まあ、先輩が知ってるわけないですしね。俺たちみたいな一般ピーポーがこんな可愛い女の子の知り合いなんて事ありえませんしね……」
ああ、すんごい、言いたい!
その女の子の正体、実は俺です!って言いたい!
凄く言いたい!
知り合いじゃなくて、本人ですって!
でも、ダメだ!
我慢しろ、自重しろ!
バレたら不味い事になる。
解析先生なんて存在、聞いたことがないのだ。
バレたら最後……人体実験の被検体になったりして……。
おお、こわ。
……流石に黙っておくか。
とても残念だけどな。
「まあ、その人は推さない方が良いと思うなー」
「ん?どうして?」
「いや、これは先輩の勘だ。でも、間違いなく言える。推さない方が良い」
中身は俺だ。
おっさんなのだ。
そんな事実を知ったら絶望することになるだろう。
「そ、そうですか?先輩がそう言うのなら……」
不思議そうな顔をする森山と暫く雑談した後、俺は自身の仕事を始めた。
▽
「ふう、今日も一日疲れた」
定時になり、家に帰宅した俺は部屋の椅子に座りビールを飲んでいた。
シュワシュワとした発泡がのどを程よく刺激する。
「かぁー、うめー」
酒とともに夕飯をかき込む。
今日は金曜日。
明日から休みだ。
それに、今週は配信を頑張った。
そんな一週間頑張った自分へのご褒美として今日は奮発した。
「寿司うま」
ウー〇ーで注文した、近所の有名な高級寿司屋から取り寄せた。
あ、ちなみに回らない寿司屋だぞ。
流石は回らない店なだけあって、ネタが旨い。
なんだろうな、こういう店のネタって脂がのっていて普通のスーパーとかのとは全然違うんだよな。
やっぱり職人さんの目利きが凄いのかな……。
なんてぼんやり考えつつ、寿司を頬張っていく。
最後のネタを食う頃には満腹になっていた。
「満腹だぁ」
少女の姿がデフォルトであるため、基本的に家などの寛げる空間ではこちらの姿だ。
俺は膨らんだ腹をさすりつつふとスマホを確認した。
通知が来ていた。
配信アカウントの管理画面を見てみると、一件通知が来ていた。
DMだ。
なんだろうか?
そう思った俺はメッセージを開いた。
『結論から言います。
あなたの筋肉に惚れました。
初めてあなたを見たとき、衝撃を受けました。
美しく、しなやかで強靭なその筋肉に。
私は生まれてこの方数十年。
あなたの様な筋肉を見たことがありません。
瞼を閉じると、いつもあなたの筋肉が目に映るのです。
心がときめくのです。
コラボ、しませんか?
あなたの美しい筋肉をこの目で確かめたいです。
返事、待ってます』
そこにはそんなメッセージが。
「ん、コラボ?てか、筋肉に惚れたって……告白かよ!」
なんか芳ばしいにおいがプンプンするぞ?
怪しい、とても怪しい。
怪文書じゃないか。
大丈夫じゃない雰囲気がこれでもかと感じる。
こんな怪文書送ってくるヤツ、一体どんな配信者なんだろうかとメッセージを送ってきた主のアカウントを見てみたのだが……。
「と、登録者50万人!?」
なんと大物だった。
配信者名は”筋肉大好きマン”。
いや、なんだよその名前、って感じだ。
しかし、この世界では登録者数=正義。
そんな正義マンがコラボをお願いしてきてるんだ。
コラボする以外の手はないだろう。
……ちょっと大丈夫じゃなさそうな雰囲気もあるのだが……まあ大丈夫だろ。
『よろしくお願いします!』
即答する。
「これでよし、と」
そして、暫くすると腹が満たされたせいか眠くなってきた。
なんやかんやしていたらいつの間にか時計は10時を回っていた。
欠伸をし、その日は寝ることにした。
────────────────────────────
【あとがき】
本日より二章開始です。
一章は物語の始まり、ってことで登場人物が少なかったのですが、二章では増やしていきたい……。
って事で、少しでも面白いと思っていただけましたら、レビューとフォローをお願いします。
作者の大きなモチーベーションになりますので、していただけますととても嬉しいです!
────────────────────────────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます