第13話 戦いの報酬

「あ、同接数5000超えてる」


 配信を行っているスマホの管理者画面を見ると、いつの間にか同接者数が5000を超えていた。

 戦闘に集中していてあまり見られなかったのだが、コメントがすごい勢いで流れて行っている。


:おめでと!

:めっちゃ早くね?

:もう5000人?

:まあ、人気になる訳は分かるわ

:早すぎワロスw


 んー、そんな褒められても何も出ないぞ? 

 いや、まあ、素直に嬉しいのだが。

 でも現実感がない事には変わりない。

 だってあれだぞ?

 数日前で俺の最大同接数は多くても500人だったのだ。

 なのにたった数日でここまで多くの人に見てもらえるようになった。

 そりゃ非現実的に感じてしまうのも仕方がないな。


 しかし、それでもこれは現実なのだ。

 確かに今、5000人の人間が俺を見ているのだ。

 って思うとやっぱり非現実的なんだけどね。

 

 あー、てか素直に感謝するのすんごい嫌だ。

 なんかね、思春期特有の反骨精神ってやつはもうとっくに過ぎ去っているのに、なぜか素直に感謝するのが恥ずかしい。

 これはあれか? 

 あれなのか?

 俺、ツンツンモードなのか!?

 あの秘境の奥に潜む伝説のツンツンモードなのか!?

 よし、その正体を掴むべくアマゾンの奥地に足を踏み入れるとしよう……。

 

 ……馬鹿な事考えてないで普通に感謝しよ。


「え、えっと、その、なんかありがとうございますね。たった一日しか配信をしてないぽっと出の俺を、皆期待してくれて」


:お?

:可愛い

:デレたw

:こりゃ……不味いですよ

:……ヤバい、可愛いぞ!!!???

:これは新しい推し確定だなw


 ん?

 推す?

 推すってあの推すか?

 巷に訊く、大好きな配信者を推すっていうあの推す?

 マジかよ……。

 俺なんかを推しても何も出ないぞ?

 いや、ホントにさ。

 だって中身男だぜ、それもあと数年でおっさんになるような人間だ。

 そんな俺が、”可愛い”が何なのか理解できる訳ないし、言われてもこそばゆくてなんか痒い。

 それにそんな事言われると、実は中身男でしたーって言いずらくなる。

 ここは一つ忠告しておくか……。


「べ、別に推しなんかにしなくてもいいんですからね!なんならしない方がいいんですからね!忠告しましたからね!」


:ツンツンw

:あー、可愛い

:どうした急にw

:照れちゃったかwww

:あ り が と う ご ざ い ま す


 あれ?

 どうして喜んでるの?

 ちょっと、ワカラナイナ。

 こちとら本気でやめといた方が良いと忠告しているのに……。

 

 まあ、いいや。

 リスナーが誤った道に進みそうになっても、俺が正す義理はなし。

 正体を明かす気はないが、いつか男だって事がバレたときは……まあ、うん、可哀想にって感じだ。


 


 さてさて、そんな哀れなリスナーたちは置いておいて……早速ゴブリンキングの肉を喰らおう。

 さっきからずっと気になっていたのだ。

 ゴブリンキングは強敵だった。

 だから、きっと得られるスキルも相当強力な物に違いない。


 早速ゴブリンキングの死体から肉を少しばかり拝借。

 それを口の中に押し込み、咀嚼する。


 グチャグチャ

 グニュグニュ

 

 えっと、マジで不味い……。

 口の中に入れた瞬間、臭さがブワッと広がった。

 男子校の、部室のあの匂いみたいなのが一気に口の中に広がる感じ。

 あまりもの臭さと、吐気のする味に思わずえずいた。


「うぷっ」


 しかしながら、ここで喰わないという選択肢もないため、何とか気合で胃の中に押し込む。


 なんとか胃の中にそれを押し込んだ俺は、目を瞑り、解析先生からの報告を待った。


『スキル【捕食】による解析……成功

 解析結果……以下のスキルを獲得


 【大食漢】……胃を拡張する

 【毒消化】……毒物の消化を可能にする

 【消化液】……消化液を生成し、扱えるようにする

 【筋硬質】……筋肉の硬化』


 お、今回は三つもスキルを手に入れたのか。

 今までは多くても2つとかだったのに、今回は4つも手に入れたのか。

 ゴブリンキングは強かったからな、納得である。 

 と、手に入れたスキルを確認しようとしたがもう一度脳内に声が響く。


『以上の三つのスキルを獲得

 既存のスキルと同一系統の効果を確認……統合を提案します。

 管理者へ判断を委任……応答待ち


 マスター、どうしますか?』


 うん?

 初めて聞く言葉だな。

 同一の効果を確認?

 それでスキルどうしを統合するのか?

 ううむ?

 つまりは、効果が重複していた、あるいは同じ感じの効果だったから一つに纏めてしまおうとという事か?


『はい、その認識で合ってます』


 でもなあ、統合してしまったら元のスキルが消えてしまって、かえって使いずらくなるっていうゲームあるあるが怖いんだよな。

 まあ、流石に解析先生を信頼しないって訳じゃないけどさ、現状、別にスキルを統合しなくて困っている事なんてないし、わざわざ統合する必要はないと思うんだけどな。

 だからスキルを統合する必要性が感じないのだ。


『スキルの統合は、スキルへ相加的効果ではなく、相乗効果をもたらします。

 進化という表現が一番伝わると思います』 


 むむ!?

 マジかよ!

 相加効果じゃなくて相乗効果なのか。

 つまりは、スキルを統合すると足し算ではなく掛け算で強くなるって事だ。


 それはやるしかないでしょ!

 

『了解しました……スキルの統合を開始……成功

 

 【筋肉質】と【筋硬化】を統合

 ……上位スキル【筋肉の調律】を獲得

 

 【捕食】と【大食漢】、【毒消化】、【消化液】を統合

 ……上位スキル【捕食の意思】を獲得』


 再び声が響いたとき、俺は開けた口が閉じなくなってしまっていた。


 上位スキル?

 え、上位スキル!?

 あのA級冒険者とかが持ってる上位スキルなのか!?

 普通のスキルとは格が違うあの上位スキルを手に入れたのか!?


『はい』


 ちょいちょい!

 そんな簡単に上位スキルって手に入れられるものなの!?

 普通、才能があってようやく2つ3つ備わっているような物が、こんな簡単に手に入れちゃっていいの?

 巷の噂によると、上位スキルがあれば”波〇拳”とか”それは残像だ”とかカッコいい技がスキルによって再現可能になると聞く。


 最近、俺には悩みがあった。

 それは、スキルがカッコよくないという事。

 まあね、確かに”流体化”とか”筋肉質”とか上手く使えば強いのかもしれない。

 でも、絵面的に微妙なのだ。

 カッコいいとは程遠い絵面なのだ!

 グニョングニョンしているだけなのだ!

 だからこそ今回俺は上位スキルを得たのだが……期待していいんだな?マジなんだよな?

 

『マジです』


 マジかよ!

 ええ?

 俺もついにカッコいいデビューか?

 ついに”それは残像だ”が出来るようになるのか!?


 いいや、まだだ。

 まだ獲得したスキルがゴミスキルの可能性もある!

 まだ喜ぶには早い。


 俺は解析先生に現在俺が持つスキルを説明するように念じた。


『マスターのスキルを表示


 上位スキル

 【捕食の意思】……捕食に関する能力を操る

 

 【筋肉の調律】……筋肉を自在に操作する


 普通スキル

 【流体化】……体組織を流体化、自在に操る


 【擬態】……対象へ擬態


 以上です』


 えっと?

 捕食に関する能力を操るって事は、つまりはあれじゃな?

 打撃した相手に消化液を巻き散らして腐食させたりみたいな攻撃ができるようになるのでは?

 普通に強そうだ。

 【筋肉の調律】も同じくだ。

 

 ん?

 ……でもさ、カッコ、いい?

 え、それってカッコいいのか?

 もっと、こう、炎の球を飛ばしたり、斬撃を飛ばしたり、みたいな漫画の主人公っぽいスキルを期待してたんだけど……。

 まあ、うん、分かってたさ。

 スキル名からなんとなく予想は出来た。


 でもさ、期待しちゃうじゃんかよぉ……。


『大丈夫です、戦うマスターはカッコいいですよ(ボソリ)』


 いや、違うんだよ。

 そういう問題じゃないんだ!

 もっと、こう、中二心をくすぐられるスキルというのが欲しかった。

 


 ……まあ、文句を言うのはここら辺にしておこう。

 上位スキルを手に入れられただけ幸運と思おう。

 俺みたいな、何も持たない人間が、こんな普通願っても手に入れられないような代物を手に入れられただけ、幸運なのだ。

 これ以上文句を言えば、罰が当たるだろう。

 それに、俺は弱いのだ。

 例えスキルが強かろうとも、本人が弱ければなんの意味もない。

 調子に乗らず、少しずつ、少しずつ強くなっていこう。

 そうすればいつかは”それは残像だ”が出来るようになるだろう。


 心にそう決めた俺は、リスナーたちに今の一連の事を伝え、しばらくの談話の後にすでに深夜0時を切っている事に気づいた。

 眠くなってきたし、明日は会社があるので、俺は配信を切ることにした。

 くあっ、とあくびをしながら別れの挨拶をする。


「……そろそろ配信終わりますね。次の配信も見てくれると嬉しいでーす。では、さよならー」


:おもしろかった

:また見に来るわ

:今日はゆっくり休め《5000JPY》

:ばーい

:さいならー

:次の配信、楽しみにしてます


 そして、配信を切った俺はダンジョンを出て、家へ帰ったのだった。



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【作者からの頼み】


 はい、皆さん、現在この作品は週間総合99位です。

 なんと、なんと99位です!


 マジかよ!って感じです!

 これもひとえに読者の皆様の皆様のお陰です、ありがとうございました!


 ですが、作者としてはどうしてもまだまだ上を目指したくなってしまう……。

 この作品は毎日5人のレビューワーが☆を付けることによって現在のランキングを維持できます。

 皆様一人一人のお力は絶大です。


 ですので、どうか、どうか今一度、まだレビューを入れてないよって人がいらっしゃいましたら、作者の執筆のモチベーションに大きくつながりますので、是非ぜひ入れてくださるとうれしいです!(土下座)

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