第11話 逃げる?
「例のゴブリンキング、まだ討伐されていないらしいですね……」
自身のオフォスにて葉上は呟いた。
「ん?あのゴブリンキングって謎の死に方をしてたやつっすか?」
それに対して答えるは葉上の同期である
やや女性の様な名前なのだが、男である。
日常的にジムに通っているらしく、筋肉がついていてがっちりしている。
「いいえ、別個体です。すいません、言い方を間違えましたね」
「ああ、そうっすか。第一階層で発見されたあの凄惨な死に方をした個体がインパクトが強すぎてゴブリンキングって聞くとあっちを思い浮かべちゃいますね」
「まあ、確かにそうですね。一体どんな殺し方をしたらあんな死に方をするのやら……って感じです。本当に謎が深まるばかりですね」
「……謎は深まるばかりっすね。で、最初に言ってた例のゴブリンキングって?」
ああ、すいません、と葉上は説明する。
「新しい個体が第一階層に沸いたんですよ。第一階層の平均ランクはD級、ゴブリンキングの等級は推測されるだけでB級と聞くんですが……明らかに目立つ筈なのに、まだ討伐報告が上がってないんです」
葉上や國頭が勤める企業は、ダンジョン系企業だ。
その業務内容は、クエストを発令して冒険者たちに討伐してもらうという物。
先日國頭を殺したゴブリンキングは、当然階層平均ランクを大幅にオーバーした等級であり、討伐クエストが発令されていた。
「……どうせ既に討伐されているとかいうパターンじゃないっすかね」
「いいや、それはありません」
「ん、どうして?」
「目撃情報があるんですよ。ほら、目撃地点の地図」
ぽいっ、と葉上は森山に地図を投げた。
「ふむふむ?確かに目撃情報があるっすね……でも……目撃地点がバラバラですね」
「そうなんですよ、普通、魔物の徘徊ルートは一定なんですけどね、このゴブリンキングは徘徊ルートがランダムなんです」
「なるほど?」
「要は、多分発見から討伐までかなり時間がかかるだろうって事」
「あー、なるほど」
両者は死んだ目をした。
つまりは、ゴブリンキングに関する事務処理が討伐まで一生続くという事。
討伐クエストが発動されると往々にして業務量は地獄になる。
受注手続きやら情報収集、様々な業務が降りかかることで、一時的にブラックになるのである。
「はあ、まあ、祈るしかないっすね」
「ですね……ゴブリンキングはとても強いらしいですし、もう祈るしかないですね」
そして二人は溜息をついた。
▼
「ギギギギャ……」
目の前に、巨体の魔物が立っていた。
圧倒的な魔力を纏っており、ピリピリとした空気が肌を撫でる。
「……どうしてここに」
スキルを色々試していると、ヌッと奴は表れた。
本当に、静かに奴は現れた。
「相変わらずだな」
:知ってるの?
:え
:ゴブリンキング!?
相変わらず、威圧感がすごい。
数メートルほど離れているのだが、この距離でも死を間近に感じるほどのオーラだ。
「知ってます……ちょっとした因縁がありましてね」
そいつは、俺を一度殺したゴブリンキングだった。
とは言っても見た目は完全に同じではなく、別個体の様に見える。
しかし、強さは確かだ。
巨体に、巨大な棍棒。
屈強に盛り上がった筋肉と、思わず絶望してしまうほどの魔力量。
一目でわかる、強い、と。
:逃げろ
:やばくね
:確か討伐クエスト出てなかった?
:こっわ
:オーラが違う
:主、勝てるの?
「……多分、俺じゃ勝てないと思います」
まだ、今の俺じゃ勝てない相手だ。
恐らく一方的な戦いになるだろう。
それだけの差が彼我にはあった。
格が違う。
俺じゃ勝てない。
技量も、魔力も、すべてが足りない。
あちらとこちらの実力は酷く隔絶している。
・逃げる?
・逃げるのか?
今の俺ならば、逃げられる。
解析先生に全力でアシストしてもらい、身体強化を施せば逃げ切る事ならば出来るだろう。
そう、俺ならば逃げられるのだ。
・また逃げる?
・逃げる?
・逃げるの?
しかし……逃げるのか?
また逃げるのか?
「…………死にたくない」
俺は死にたくない。
また、あんな姿を皆に無様に晒すのか?
いやだ、あんな思いはもうしたくない。
あんな惨めな思いはしたくない。
皆を悲しませたくない。
ダンジョンで、独りぼっちで死にたくない。
死にたくない、そう死にたくないのだ。
体が震える。
それは恐怖によるもの?
違う、と否定したいところだが、その通りだ。
誰だって一度殺された相手に立ち向かうのは怖い。
でも、ここで逃げるのはもっとダメだ。
せっかくこの【解析】というチートスキルが居てくれているのに、俺自身が弱ければなんの意味もない。
チートスキルは、使う事が出来なければただの宝の持ち腐れに留まる。
チートは使って初めてチート足りえるのだ。
応援はないだろう。
今、応援を呼んでも間に合わない。
ならば、俺独りで立ち向かう!
『私が居ます』
強く、確かに脳内に声が響いた。
妙に落ち着く、彼女の声は、静かに精神を落ち着かせてくれる。
「……ああ、そうだよな。俺は独りじゃない」
:頑張れ
:行ける!
:主なら出来るって信じてからw
そうだな。
俺は独りじゃない。
見てくれている人がいる。
先生がいる。
俺には彼らだけで十分だ。
「よし、行くか」
パン、と頬を叩き、ニヤリと不敵に笑った。
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【あとがき】
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