第9話 試してみる

 ダンジョン第一階層にて、俺は昨日と同じくスマホを覗き込んでいた。

 そう、配信をしている。

 どうしてこうなったんだろうか……いや、本当に。

 だってさ、まさか一日でフォロワーが一万人超えるとは思わないじゃん。

 俺としては、そのまま話題に上がらず騒動が沈下して人々から忘れ去られる事を期待していたというのに……蓋を開けてみれば一日で達成したではないか。

 全く、どうなってるんだ、ネットの人たちは。

 怖すぎだろ。


 とまあ、溜息もつきたくなるような気分なのだが、約束は約束だ。

 俺はこうして会社から帰宅したのちに、こうしてスマホを抱えてダンジョンに潜っている訳だ。 


 しかし、こういう配信ってどんな感じで挨拶すればいいものなのだろうか。

 前のアカウントだと、こんばっちゃです、みたいな感じでやってたけど同じのやったら前世バレするよな。

 本当の俺の正体はバレたくないんよな。

 じゃあ、どうしようか……

 まー、適当でいいだろう。 

 別に気にするところでもないし。 


「うっす、どうもー、昨日ぶりですね。今日は約束通りダンジョン配信していこうと思います」


:知ってた

:いや、クソワロタwwww

:早すぎるw

:まだ一日しか経ってないの笑う

:可愛い


 そんな訳でスマホのカメラを自分に向け、挨拶する。

 カメラの眼に自分の姿が映る。

 本来の俺の姿ではなく、少女の方の姿だ。

 ……自分で言うのもなんだが、容姿は極めて恵まれている。

 みんな、こういうのが好きなんだろうな。

 だって前のアカウントだと、二年運営して1万人だったんだぞ?

 こっちじゃ半日だ。

 やっぱりみんな、美少女が好きなんだろうな。まあ、俺も同じだけど。

 でも、なんだか複雑な気分になるな。

 

 それに、今の同時接続数なんて3000人だぞ?

 初めて見る数字だ、正直緊張している。

 しかし、裏を返せば視聴者の皆は俺に期待してくれているという事。

 せっかく得たチャンスだ、俺が視聴者の皆の期待に答えられるかどうかは分からないが、それでも頑張れるだけ頑張ろう。

 

 パン、と頬を叩き、笑った。

 

「えっと、上手く配信できるか分かりませんが、よろしくお願いします」


:おお?

:どした急に改まって

:ああ、そうか、よろしく

:楽しみ


 画面の向こうで誰かが笑った気がした。

 まあ……悪い気はしないな。


『頑張ってください、マスター(ボソリ)』


 んー、解析先生も小声で応援してきたぞ。

 これは気合入れなきゃな。

 


「さて、早速俺のスキルについてちょっと喋っていきたいと思うんですけど……」


:ワクワクテカテカ

:本題に入るか

:スキルね

:どんな感じなん?


 早速俺は本題に入った。

 たぶん、一番みんなが気にしてるのは【解析】このスキルのことだと思う。

 なにせ、俺自身、このスキルのことが一番気になっているからだ。

 だってあれだぞ?

 元々ゴミスキルに過ぎなかった【捕食】を魔物のスキルを得るスキルにまで格上げしたスキルだぞ?

 前代未聞の意味不明スキルだ。

 正直、俺自身このスキルの事がよく分かっていない。


 現時点で分かっている【解析】の情報をみんなに伝えると、


:え、じゃ、魔物を喰ってスキルを得るってのは最初は出来なかったこと?

:つまりは、【捕食】で魔物を喰って、【解析】でスキルを得てる?

:【解析】は後付けのスキルなのか


 あ、ちなみに流石に先生の事を言うのは不味いと思ったから、ある日突然スキルを獲得してたって誤魔化しておいたぞ。


「はい、おおむねその通りですね」


:そうか

:じゃあ、【解析】自体にはもっと役割があるって事なのか?

:凄いスキルだな

:前代未聞どころじゃない

:スキルをスキルで得れるとかマジでヤバくねえか?


 やはり、視聴者の皆はダンジョン配信を日常的に見ている人らしく、理解が早い。

 

「でも、俺自身このスキルの使い方が良く分かってないんですよね。魔物を喰ってスキルを得るって以外、使い方が分かってないんですよ」


 スキルの詳しい解説というのは、基本的にない。

 解析先生に詳しく聞いてみたりもしたのだが、


『私は、解析鑑定、計算処理等、魔法補助等を行うスキルです。それ以上の言葉で表すことはできませんね』


 みたいな事を言われた。

 まあ、そりゃそうだ。

 俺自身、この【捕食】というスキルが胃を丈夫にして本来食べることができない強毒性の魔物の肉を喰らうことが出来るようにすることができる、って効果を持つこと以外知らない。 

 使用方法はまだまだあるのかもしれない。

 しかし、自身のスキルを理解できていない故に、上手く使用することができない。

 スキル理解とは、簡単に言えるものなのだが、実際にやってみると極めて難しい。

 そして、それは【解析】にも言えることだ。

 計算処理の類が出来るとは言っても、具体的に何が出来るかどうかは分からないのだ。 


:ほうほう

:【解析】は計算処理を代行するスキルなのか

:それで、スキルを獲得してるって感じか

:明らかにぶっ壊れじゃねえか

:あれじゃね、魔物の動きを計算処理して、未来視とかできる説w

:おお、それいいな

:え、マジでよさそうやね、それ

:ちょっとやってみてよ主


 なにか、視聴者の皆が良いことを思いついたらしい。

 んー、なになに?

 【解析】を魔物の動きに適用して、未来視する?

 おお!?

 なんだそれ、凄そうじゃん!

 早速やってみようか。


 俺はコメント欄で提案された使用方法を試すべく、ダンジョンの中を練り歩いた。

 しばらく歩いていると、ゴブリンに出くわす。

 

「グギャ!」


:ゴブリン発見

:どうなるどうなる?

:ワクワクしてきたな


「【解析】、発動」


『ゴブリンの動作を解析……成功

 思考領域へ反映します』


 ゴブリンが棍棒を振りかざし、右に薙ぐ景色が脳内に映る。

 それは、【解析】が導き出した未来だった。

 

「ギャギャ!」


:来るぞ!

:避けろ


 そして、その未来を正しくなぞり、ゴブリンは棍棒を右に薙いだ。

 未来が見えていた俺は、当然ながら跳ぶ事で攻撃の回避に成功する。

 そのまま懐に潜り込み、拳を顔面にめり込ませる。


 身体強化の乗った拳により、盛大に顔面を吹っ飛ばしながら、ゴブリンを壁に叩きつけた。

 ゴブリンは、血の筋を描きながら、絶命した。


「──え、マジで出来るじゃん!」


 俺は、本当に出来たことに驚いた。


:おおおおおおお!!!???

:マジで出来るん!?

:凄いスキルやな

:すげえええええええええ!!!

:本当に出来るとは思わなかった!


 凄いな。

 いや、マジでその言葉に尽きる。

 もしかして、【解析】って俺が思ってた以上にヤバいスキルなのかもしれないな。

 年甲斐もなくワクワクしてしまうじゃないか。

 まさか、この年になってこんなに興奮するのなんて久々だ。

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