第6話 お嫁に行けない

 モッモッ、と口の中に流体のスライムの破片を詰め込む。

 味は岩をそのまま舐めたみたいな感じ。

 あ、岩塩はノーカンね。

 どちらかというと……花崗岩みたいな?

 知らんけど。

 まあ、要はクソ不味いってコト。 


『スキル【捕食】による解析開始……成功』


 そんなこんなで先ほどぶん殴って粉々にしたスライムの破片を頬張っていると、脳内にピロン、という音が響き、解析が成功したことを告げた。


『解析結果……以下のスキルの獲得

 【流体化】……体組織を流体化、自在に操る

 【擬態】……対象へ擬態』


 おお?

 マジでスライム喰ったらスライムのスキルが手に入ったやんけ。

 いや、楽勝で草。

 こんな簡単にスキルが手に入るとか、人生ヌルゲーか?

 このままいけばS級も余裕で行けるんじゃ?

 ……はい、調子乗りましたスンマセン。

 俺如きがそうそう簡単にS級冒険者になれる訳がないのだ。

 そもそも、スキルを得たところで本人が扱いきれなければ意味がない。

 解析さんがどれだけ頑張って俺の戦闘補助をしてくれたところで、俺が直ぐに死んでしまえば終わりなのである。

 まあ、うん、悲しいがそれが現実だ。

 だから調子に乗るなんてことは止めておこう。

 だって俺は弱いのだから。

 

 さて、気持ちも落ち着いたところで早速スライムを解析して得たスキルを試してみよう。

 えーっと、どうやら俺が獲得したスキルは【流体化】と【擬態】らしい。

 【擬態】の方は何を言っているのかなんとなく分かる。

 要はなりたいものに擬態できるという事だろ。

 でも、流体化というのはどういう事だろうか。

 スライムみたいにビヨンビヨン出来るという事か?


『はい、その認識で合っています』


 なるほど。

 じゃ、早速使ってみようか。

 こういうのは考えるよりも動けって言うしな。


(【流体化】って使えるか?)


『はい、勿論です』


(よし、じゃあ早速使ってくれ)


『スキル【流体化】を発動』


 ベチャリ


 突如、そんな音とともに床に体が崩れる。

 あばばばばばばばbbb。

 あ、これ、ヤバい!

 動けない!

 これどうやって動くの!?

 てか、息出来な、ぼぼぼぼぼbbbbb。

 当たり前だ、流体になるという事は呼吸を行う横隔膜も存在しなくなるという事。

 すなわち呼吸が出来なくなるのだ。

 

 ちょ、タンマ!

 死ぬ!

 今すぐ止めて!


『了解しました』


 そして、次の瞬間全身が再び形を取り戻す。

 スワ〇プマンみたいな感じでドロドロの流体の中から体が出来上がっていく感じだ。あ、ちなみに服は着てないぞ。

 流体化発動の際にはだけたので、今はすっぽんぽんだ。

 えーっと、しばらくはこのスキルは使わないようにしよう。

 使ったら死ぬ。

 スキル発動したら死にました、とかシャレにならん。

 まあ、上手く使ったら強いスキルかもしれないし、要研究だな。


 あと、きっと傍から見たらヤバい光景だろうな。

 だって完全にホラーだろう?

 液体から人間が起き上がってくるなんて。

 普通にホラー映画にありそうだ。

 ほら、あそこにいる冒険者もこっちを見て口をあんぐり……。

 ってあれ?

 その表情はまさか俺のことを魔物と勘違いしてる感じ?

 いやいや、流石にそれはないでしょ。

 だって見てよ、自分で言うのもなんだが、俺こんなに可愛いんだよ?

 だからきっと、メイビー、プロバブリー、パーハップス、俺のことは魔物と勘違いしてないとおも──

 

「──ま、魔物だ!」


 まあ、うん、分かってたよ。

 それに俺、流体化したせいで服着てないもんね。

 青少年には少し刺激が強かったのかもしれないな。

 あれ?なんかこっちを殺そう見たいな目じゃない、あれ。

 え、不味くないか?


 てか、カメラ向けるのやめて!

 きっと俺と同じくダンジョン配信者なのだろう。

 その手にはカメラが握られていた。

 ものすごい恥ずかしい。

 俺の素っ裸を撮るのは出来れば辞めていただきたい。

 お嫁に行けなくなっちゃうからな。

 ……バカなこと言ってないでさっさと逃げよ。


 とにかく、ここに居て俺自身が討伐されたんじゃ意味がない。

 話も通じなさそうなので俺はクルリと背を向けて逃げた。



「はあ、はあ、ふぅ、ここまで逃げれば大丈夫だろう」


 額の汗を拭う。

 あの冒険者、追っかけてこなかったな。

 まあ、仮にしつこく追跡してきたとしても何とか撒けたと思うけど。


 さて、流石にそろそろ元の姿に戻ろう。

 これ以上この姿のまま居るのはトラブルのもとになりそうだからな。


『スキル【擬態】を発動』


 俺が言うまでもなく、解析先生はスキルを発動した。


 ドロリ……


 何か、流体の様な物がどこかから現れ、全身を包んだ。

 目玉までドロドロに包まれ、暗闇に落ちたかと思えばすぐさま視界は開かれる。

 どうやら、元通りになったようだ。

 手をグッグッ、と握ると、いつも通りの俺の手だった。


 よし、これで一件落着だ。

 明日から普通に会社に出社できる。

 総てが元通りだ。

 まあ、解析先生が居る以外は元通りってだけなのだが。

 それでも、明日からは日常に戻れそうだ。

 良かった、良かった……。


 


 ……この時から歯車は狂っていてしまったのかもしれない。

 この時の俺は、まだ普通に生きられると信じていた。

 しかし、この時を始まりとして人生が変わってしまったのだった。



 467:名無しの匿名

 なあ、配信に映ってたあれ、めっちゃ可愛くなかった?



 インターネットのとあるスレッドはそのコメントから急激に動き出した。




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【あとがき】

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