第5話 踏み出す

 えっと?

 で、結局お前は誰なんだ?

 

『はい、マスターもご存じの通り魔物には寄生型が存在します。私はそれに似た物です』


 ってことは、つまりは俺は魔物に寄生されたという事か?

 

『いいえ、確かに私そのものは寄生型の魔物に近似していますが、それらとは違い宿主に害は与えません』


 ?

 つまりはお前は俺に害を与えるという訳ではないのか?

 ……まあ、確かにこうして俺は生きているわけだし。


『その通りです。私は魔力がなければ存在できません。ですので、私はマスターからの魔力供給により存在しています。一方でマスターの戦闘補助を行うことでマスターの魔力確保を向上します』


 ……なるほど?

 つまりは、お前は魔力を求めて俺に寄生している訳なのか?

 いや、この場合は寄生という言葉は正確ではないな。

 どちらかというと共生という言葉の方が正しい気がする。

 そして、その見返りとして俺の戦闘補助を行うという感じなのか?

 

『その認識で合っています』


 そうかそうか。

 良く分からんが悪い奴じゃないのだろう。

 口ぶりもどことなくS〇RIに似てるし、良い奴に違いない。

 ……知らんけど。

 悪い奴だったら、まあ、うん……責任取って自害?

 いやいや、怖いって。

 その時には体乗っ取られてそうだからどうせ自害するのも無理そうだし。

 

 まー、うん、こういうのはなるようになれって感じだ。

 どうせ俺に死ぬ覚悟なんてないんだし、このまま放置で良いと思う。


 とまあいろいろ考えたりしたが、とにかくよろしくな。

 俺みたいな半端物なんかで良ければって感じだが。


『ええ、もちろんです。こちらこそよろしくお願いします!』


 心なしかどこか嬉しそうな声が脳内に響いた。



 で、あともう一つ疑問があるんだけど、この体は何なのだ?

 言葉を脳内に投げかけるとすぐさま返答が返ってくる。


『マスターの体は、私とマスターが適合した際に進化しました』


 ファッ!?

 進化してこの体になったのか?

 確かに可愛いくはなったかもな。しかし筋肉量的には退化してないか?

 しかし、お見通しとばかりに脳内に再び声が響く。


『試しに胸に掛けているボールペンを握ってみてください』


 ん?

 ボールペンを握ればいいのか?

 俺は言われたとおりに胸元に掛けてあった金属製のボールペンを手に握った。

 

 グッと力を入れてみる

 すると何という事か、バギャリという音ともに粉微塵になったではないか。

 ボールペンを握りつぶすって、とんでもない握力だな。

 流石に前の俺のナイスバディでもこんな力は出ないぞ。


「せ、先輩!?」


 俺が急にボールペンを握りつぶしたのか、葉上は驚愕に目を見開いた。

 奇妙な俺の行動に驚いたというのもあるだろうが、この小さな体からは想像も出来ないような力が発揮されたという事にも驚いているだろう。


「あ、驚かせてスマンな」


「……いや、スマンとかじゃなくてですね……なんなんですかその力」


「分からん。なんか握ったらこうなってた」


「なんかこうなってた、って流石におかしいじゃないですか……」


 しかし、確かにそうだ。

 こんな力、人間の体では普通無理だぞ?

 それに見たところこの体、筋肉量も多くなさそうに見えるし。


『はい、この体は筋肉量自体はあまり多くありません。しかし、魔力伝導率は極めて高いです。ですので身体強化も自在に付与する事が出来るのです』


 ああー、要はバフをゴリッゴリに掛けて筋肉モリモリにしているって感じ?


『YESです』


 ほほう。

 え、それヤバくない?

 つまりは魔力が許す限り好きなだけ筋力を増加させられるって事でしょ?


『流石に限界はありますが、おおむねその通りです』


 マジかよ。

 限界はあるとして、ニュアンス的にかなりの力が発揮できるという事なのだろう。

 ってことはさ、自分で言うのもなんだけど、チートスキルじゃね、【解析】は。

 本気で振るったらどうなってしまうんだろう。


『ふふん、その通りです。私はチートスキルなんですよ』


 凄い!

 先生!

 師匠!

 神ゴッドゼウス!




 ……さて、あれから数十秒後、俺は重要なことに行き着いた。

 結局俺は一生このままって事じゃん、という事に。


 確かに、この体は美少女みたいな感じで可愛いかもしれないよ?

 若干鏡を見たときは興奮してしまったかもしれないぞ?

 しかしだな、実用性を分けて考えるとそうなのかもしれないが、一生このままというのは非常に困る。

 今もまだこの体のせいで出社自体は出来ていないのだ。

 このままいくと出社できなくてクビなんてことになるだろう。

 そしてさらに、この体だ、住民、登録もされていないんで新しい仕事を探そうにも就職する事自体が出来ないのである。

 で、野たれ死んでGAMEOVERってなるだろう。

 要は、詰むという事だ。


 嫌だ!俺はまだ死にたくない!

 まだ今季分のボーナス受け取ってない!

 なんて騒ぐと、これも見通していたとばかりに、S〇RIは『体組織は変更する事が出来ます。ただし、スライムの素体が必要です』なんて言ってきた。

 衝撃の事実だ。

 なんとこの体から元の体に戻れるというではないか。

 しかし、条件もあるらしくスライムの素体が必要らしい。

 ん?

 どうして元の体に戻るのにスライムの素体が必要なんだ?

 と質問すると。


『マスターのスキル【捕食】でスライムを捕食し、私が解析を行うことでスライムの能力を得ることが出来るのです』


 ファッ!?

 朗報:遂に俺のゴミスキルにも役割が与えられた件。

 いや、草。

 マジかよ。

 他の魔物を喰えばそのスキルも得られるという事じゃないか。


『その通りです』


 勝ったな、風呂食ってくるぜガハハ。

 さて、善は急げだ。

 

「葉上、俺は少しダンジョンに行ってくるとするぞ」


「はい!?どうしてこれまたどうして急にダンジョンに!?」


「それは後で説明する。とにかく、俺は今日は仕事を休むと課長に伝えといてくれないか?」


「え、はい?ま、まあ了解しましたけど……」


「サンキューな!」


 という訳で俺は会社を出てダンジョンを目指した。



 電車に乗り、数駅ほど電車に揺られた後、俺はダンジョンに辿り着いた。

 潜る階層は第一階層。

 ここには確かスライムが生息していた筈だ。


 小さくなってしまった片手にいつものバールを握る。

 あ、ちなみにダンジョンセンターに備え付けられている俺のロッカーから取ったぞ。


 どうしようもない好奇心と高揚感に胸を躍らせつつ、ダンジョン内を進んだ。

 

 暫く歩いていると、スライムを発見した。

 ゲームとかで有名な水色のあのビジュアルではなく、岩色に似た濁った色の液体だ。

 ぷよぷよと不定形のそれは、俺同様に互いの存在に気付いたのか、戦闘態勢に入った。


『スライムを発見……攻撃を感知。回避を推奨します』


 そう脳内に響くと同時に、スライムはブヨンと伸縮するとこちら側へすさまじい勢いで飛んできた。


「ッ!」

  

 俺は横に飛び跳ねてそれを回避。

 身体強化がかかっているのか、体がとても軽い。

 飛び跳ねた時も、紙の様に体が軽かった。

 今ならば何でも出来そうな感覚だ。

 

 俺を捉える事に失敗したスライムは壁に激突すると、不格好に壁に引っ付いた。

 剥がれることが出来なくなったのか、暴れるスライム。

 そんな大きな隙を見逃す訳がない。

 俺は拳を握り、一歩踏み込んだ。


 瞬間、凄まじい熱が体を包む。

 ──熱い。

 しかし、不快感はなくむしろ心地よい熱だ。

 熱に従い、拳をスライムへ叩き込む。


 ゴオオオォォォン!!!


 轟音とともに、ダンジョンが揺れる。

 何かが体からごっそり抜けたかの様な感覚があるが……それでもスライムは吹き飛んでいた。

 そして、壁には大きな亀裂が走っていた。


 おいおいおい……こりゃ、


「エグいな」


 衝撃の余韻に手が震える。

 想像以上だ。

 こんなに凄まじいとは思っていなかった。

 せいぜいパンチが少し強くなる程度かと。

 でも、違った。


 これは……本当に現実なのか?


『──ええ、これは現実です』


 そして、これが現実であることを示すように脳内に声が響いた。




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【あとがき】


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