第4話 ぷんぷん

 人間には様々な死因がある。

 癌、寿命、殺人、はたまた事故死。

 毎日おびただしい数の人間が死んでいく。


 しかし、近年にかけて癌による死傷者が増加したように、急激にその数を増やしている死因が存在する。

 それは、ダンジョンから発生した魔物による死亡である。

 ダンジョンから発生した魔物というのにも様々な物がある。

 異常発生スタンピートによるダンジョンから魔物が漏れ出るケース、ダンジョン外に溜まった魔力から魔物が発生するケース。

 実に様々なケースがある。


 そして、その中でも一際凶悪性の高いケースがある。

 ダンジョン内で死亡した冒険者に魔物が寄生することにより、脳や思考回路を乗っ取り隠密的に人を殺す物だ。


 そちらは前者と比べて圧倒的に凶悪性が高い。

 なにせ、人の皮を被って社会の中に溶け込むのだ。

 社会の中に溶け込んだならば、機会をうかがいさらに人間を殺す。

 殺した人間に、また寄生する。

 それを繰り返すことでより多くの人間を殺そうとするのだ。

 ただしこちらは寄生型の魔物がそもそも極めて少ないため、犠牲者の総数ではあまり多くなかった。


 しかしながらこの様なショッキングな事象という物に、総じて人々は恐怖するものだ。寄生型の魔物が居ることは、一時期大いに世間を騒がしたものである。

 まあ、世間を騒がしたがゆえに直ぐに寄生検査という物が定期的に人々に施されるようになった。

 それからという物、めっきりそれ関連の話は聞かないようになったものである。


 ただ、当然ながら人々の記憶の中には今もなお残っている。

 そして葉上もまた然りだ。


「失礼は承知ですがぶっちゃけて聞きますよ、先輩は人間、人外どっちですか?」


 社内の一角の会議室にて、葉上は山城に向かい合った。

 



 まあ、うん、分かってたさ。

 いきなりこんな姿になって表れれば、そりゃ疑うわな。

 もしも俺が葉上の立場だったとしたら、同じく疑うと思う。

 朝は動転していて寄生という事実に思い当たらなかったが、今思い返すとそんな物あったなって感じだ。


 ただ残念な事に現状、俺はそれに答える手段を持ち合わせていない。


「……分からない。俺自身も分からないんだ、自分がいまどうなっているのか」


「そうですか」


 俺自身、分からないのだ、どうしてこんな体になってしまったのか。


「確か……昨日俺はダンジョンで死んで……それで、気づいたらこんなことになっていたんだよ」


「えっ、ダンジョンで死んだというのはどういう事ですか?比喩とかではなくて?」


「ああ、そうだ。本当に文字通り死んだ。ゴブリンキングに脳天をカチ割られて死んだ記憶はしっかりある。でも、こうして普通に生きているし、普通に俺の意識もあるんだ」


 そして、胸をさする。

 心臓の鼓動はしっかりとあるし、きっと俺は生きているんだと思う。

 

「……とても信じがたい事ですが……まあ先輩の話を信じるとして、条件的に考えると魔物から寄生されたように思うんですけど……意識はしっかりあるんですよね?じゃあ、おかしいじゃないですか」


 その通りだ。

 寄生型の魔物は自我を塗りつぶす。

 しかし、俺がまだこうして俺で居られている。

 だから葉山のスマホのパスワードも言えた。

 きっと俺は寄生されていない、筈だ。

 ……正直怖いラインだけどな。

 でも、じゃあどうしてこんな体になったんだ?

 寄生というラインが消えた以上、この現象はなんて説明すればいいのだろうか。


『マスターの疑問を検知、疑問の解消のために回答します』


 んあ!?

 なんだこれ!

 急に脳内に声響いたぞ。

 まるで骨伝導イヤホンみたいな感じだ。

 てか、なんだこの声。

 S〇RIみたいな感じなんだけど、俺スマホの電源入れたっけ?


『いいえ、私はS〇RIではありません。私はマスターのスキルである【解析】に基づく意思です』


 あるえ?

 おかしいな、変な声がずっと頭の中に響いている。

 俺もいよいよか……。

 なんてボケておくのは置いておいて……こいつ、話が通じている?

 てか、俺のスキルの【解析】に基づく意思の様な物とはどういうことだ?


『私とマスターが同化した際に、マスターの身体組織が進化しました。スキル【解析】はその時に獲得したスキルです』


 え、え、ちょ、まって。

 なんかいろいろありすぎて良く分からなくなってきた。 

 スキルを獲得?

 は、え?

 スキルって獲得できるもんなの?

 てっきりスキルは才能由来の物だって思ってたんだけど、違うのか?

 というかそもそもお前は誰だ?(二回目)

 

『はい、私はマスターの──』


「──先輩?急に黙ってしまってどうしたんですか?大丈夫ですか?」


 と、その時葉上に声掛けられたことによって現実に引き戻された。

 

「ん?ああ、だ、大丈夫だ。気が動転していたようで幻聴が聞こえてしまっていたようだ」


「ええ、その年でそりゃ不味くないですか?」


『失礼ですね、マスター。私は幻聴ではなくマスターのスキルです。間違えないでくださいね、ぷんぷん』


 ああ、やばい。

 同時に話しかけるのやめて欲しいかもしれない。

 頭がぐわんぐわんするだよね。

 

 てか、ぷんぷんって……。

 こりゃいよいよただの幻聴って訳ではなさそうだなこりゃ……。

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