第3話 信じてもらえない!
会社のフロントに着いた。
この時間は、出勤の時間であるためサラリーマン達でごった返している。
女性から男性。
若者から老人まで、実に様々な人間が行きかっていたのだが、女児の姿である俺は特異な者だったらしく、好奇の目で見られた。
かなりこっ恥ずかしかったが、出来るだけ気にしないようにして自分の部署を目指した。
さて、ここに一つ問題がある。
それは、どうやって今の姿で自分の部署までたどり着くのか?という物だ。
そりゃそうだ。
だって、こんな女児が会社内をうろついてるんだぞ?
警備員のおじさんに速攻で捕まりかねない。
それに、俺がもしも警備員だとしたら女児が社内をうろついていたら直ぐに母親の元へ連れて行こうとするだろう。
ただし、仮に自分の部署に辿り着けたならば?
そうすると話は変わってくる。
同僚に話を通してもらうことが出来るのだ。
仮にこの体の中身が俺だと信じてもらえなくとも、自分のパソコンのパスワードを開けるなりなんなりすれば信じてもらえるだろう。
しかし、途中で警備員に見つかれば終わりだ。
きっと証明の機会なくどこかへ連れていかれてしまう。
そうなればGAMEOVAERである。
なので、ここは絶対に見つかっちゃいけない場面だ。
という訳で抜き足差し足、俺はこっそり自分の部署を目指した。
俺はこの会社に3年近くも務めているのだ、会社の構造くらい知り尽くしている。
だからこそ、この俺が見つかる訳がない。
証明完了QED。
勝ったな、風呂入ってくるぜ、ガハハ。
▽
「お嬢ちゃん、お名前は?」
はい……、普通に捕まりました。
えっと、うん、バカだ。
数分前に戻って自分を蹴っ飛ばしてやりたい。
何が勝ったなガハハだ、馬鹿野郎。
しかし、捕まってしまったんだ。
下手に逃げるよりも、ここは警備員の質問に答える方が良いだろう。
もしかしたら、俺が社員である事に気づいてもらえるかもしれないからな。
「えっと、俺は別に子供じゃなくてですね……」
「そうですねー、お嬢ちゃんは子供じゃないよねー。だから、大人な偉いお嬢ちゃんには、お名前を教えてもらいたいなー」
「……
「そうかそうか、お嬢ちゃんの名前は國頭なのねー、偉いですねー。じゃあ、お母さんの名前も教えてもらえるかなー?」
おい、話が違うぞ?
これは完全に俺が子供だって扱いじゃないか?
「ち、違います!俺は子供じゃありません!」
「そうかそうかー、じゃあ、お母さんのお名前を教えてもらえるかなー?」
あ、ダメだ。
「違うんです!俺はここの社員なんです!」
「そうかそうかー、じゃあ、お母さんのお名前を教えてもらえるかなー?」
「葉上を読んでください!俺の後輩なんです!呼んでくだされば分かりますから!」
「そうかそうかー、じゃあ、お母さんのお名前を教えてもらえるかなー?」
こうして、地獄が始まったのである。
▽
あれから十数分ほどそうしていると、ついに警備員も痺れを切らしたのか、センターまで連れて行こうとしてきた。
流石に、それは不味い。
そうなったら出社が出来なくなってしまう。
これは……いよいよか。
俺の人生終わったなり……。
「あ、あのー、先ほどから会話を聞いていたんですけど、その女の子の話も聞いてあげた方が良いと思います」
その時だった、
「は、葉上!?」
後輩の葉上が現れたのだ。
どうしてここに!?
なんて疑問が湧き出るが、ここは助けを求める方が先決だろう。
「助けてくれ!俺だよ俺俺!」
「ん?」
「お前の先輩の國頭だよ!」
「んー?どういうことです?確か、先輩はこんな小さくなかった筈ですけど……」
「なんか目が覚めたらこうなってたんだよ!」
「それは……信じがたい話ですね。でも、なにか証明できる物でもあるんですか?」
き、来た!
「あ、ある!確かお前のスマホのパスワードは11810だった筈だ!」
「え?どうして知ってるんですか、俺のスマホのパスワード。え、こわ」
そりゃ当たり前だ。
葉上のスマホのパスワードは悪い意味で部署内で知れ渡っているからな。
あ、パスワードの意味は葉上の名誉のために言わないでおくぞ。
「まあ、それは置いておいて……これは、本当に先輩っぽいですね。あの、警備員さん、この子連れていきますよ」
「え?あ、ハイ」
こうして俺は葉上に連れられて社内に入っていった。
────────────────────────────
【あとがき】
少しでも面白いと思っていただけましたら、レビューとフォローをお願いします。
作者の大きなモチーベーションになりますので、していただけますととても嬉しいです!
────────────────────────────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます