第2話 衝撃の事実

 目が覚めると、そこはいつもの部屋だった。

 キョロキョロと見渡してみるが、なんの変哲もなく、本当にいつもの部屋だった。

 ベッドの下を探ると……ちゃんと薄い本がある。 

 

「……?」


 あれ?

 俺、死んだんじゃなかったのか?

 ゴブリンキングに棍棒で上半身を潰され、死んだ気がするんだが。

 夢だった、とは言わせない。

 だってちゃんと痛みが鮮明に思い出せるんだから。


 じゃあ、ここはあの世か?

 ……随分と現実的なあの世だな。

 薄い本までしっかり用意しているなんて神様も作りこみがしっかりしているじゃないか。


 頬をつねってみる。

 

「……痛い」


 ちゃんと痛かった。

 つまりは、これは現実という事らしい。

 いや、もしかして痛覚まで再現したあの世なのかもしれない。

 ……バカなこと考えてないでさっさと朝飯食うか。


 しかし、ふと思う。

 なんだか頬がとてもフニフニしていたぞ。

 肌も滑らかで、まるで自分じゃないような感じだった。

 まるで……自分じゃないような何かになったような……。


 いやいや、気のせいだろう。

 寝ぼけているだけだ。

 そんな事よりも今日は会社だ。

 さっさと飯を食って支度しなければ。


 俺はベッドから降り、キッチンへ向かった。

 冷蔵庫を開けると、冷凍食品が並んでおり、中から味噌汁と食パンを取り出す。

 電子ケトルで温めた水で味噌汁の素みたいなやつに注ぐ。

 その間にグリルにパンをセットし、加熱。

 

 これで朝食は出来上がりだ。

 それぞれ机の上に並べ、食らう。

 いつも通りの味。

 本当にいつも通りの味だった。

 

 しかし、一つだけ違う点があることに気づく。

 なぜか手が小さいのだ。

 俺の手は、男という事でそこそこ大きく、食パン一切れを覆えるくらい大きかったはずだ。 

 なのに、今はかつての半分ほどしか覆えない。

 それに、手も真っ白で肌がきめ細かい。

 

「どういうことだ……?」


 んあ!?

 なんだこの声!?

 俺の声じゃないぞ!

 なんというか、甲高い。

 まるで女児みたいな声だ。

 ワッツハペン?

 

 流石に寝ぼけているという事はないだろう。

 それに、これは現実だ。

 夢じゃない。

 

 よ、よし、確認するか。

 こういうのは実際に確認した方が早い。 

 あれこれ考えるよりも、この目で見た方が正確なのだ。

 

 すぐさま鏡の前まで移動。

 これなら分かるだろう。

 自分がどうなっているのか。


 鏡の中を覗き込んでみると……


「はぁああああああああああ!??????」


 そこに居たのは白髪の女の子だった。



 よ、よし、落ち着こう。

 一旦素数を数えて落ち着こう。

 1,2,3,5,……ってちがーう!

 

 ……うん、落ち着いた。

 この一連の流れは心を落ち着かせるって南カルフォニア大学が研究を発表していた。だからきっと効果はちゃんとある、と思う。


 ま、まあ、そんな事はおいておいて、この姿、なんだ!?


 右手を上げれば、鏡の中の女の子も右手を上げる。

 左手を上げれば同じく、だ。

 ニッコリ笑えばあちらも笑う。

 

 つまり……ここから考えられることは……俺がこの女の子なのか?


 いーや、ないない。 

 この、俺が、だぞ?

 27歳の、中高生からギリおじさんだと言われる人間がだぞ?

 いや、関係ないか……。

 でも、だぞ?

 この俺がこんな女の子になっているだと?

 それに、めっちゃ可愛いぞ、この子。

 顔なんてぷにぷにしてそうだし、鼻立ちもめっちゃすらっとしてるし、お目目なんてぱっちりだし……。

 俺が、この子……なのか?


 ……流石に認めよう。

 これだけ条件が揃っていれば、そうなんだろう。

 もしもドッキリでしたー、だったらもう立ち直れなくなりそうだけど。

 ……いや、ドッキリしてくれる友人なんて居なかったわ。

 あれ?なぜか目から涙が。


 と、その時だった。


 ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ。


 スマホに設定していたアラームが鳴った。


「あ、やべ」


 この時間に設定したアラームは、会社出勤の時刻だ。

 この時間が、一番丁度良く電車に乗れる時間。

 だから出遅れると不味い。

 

 すぐに会社の制服に着替える。

 だが、体が小さくなってしまっているのかブカブカだった。

 しかし、どうしようもないためそのまま着る。


 残りの食パンを口の中に押し込み、さっさと家を出発した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る