第2話 プロローグ2―――清国との戦
大日本皇国を初めて襲った戦は、清国とのものである。
天保13年(1842年)に終結した阿片戦争によって国内での列強諸国による支配が強まった清国は、明治23年(1890年)、朝鮮半島にて朝鮮人を虐殺、これを日本側の責として大日本皇国に宣戦布告し、大日本皇国はこれを受けて清国側に宣戦を布告した。
神人である四柱が見た『史実』では、この大日本皇国(史実では大日本帝国と名乗っている)と清国との戦争の原因はさらに4年後に起こる朝鮮での反乱だったそうだ。
大日本皇国、神国三牢では、当時大日本皇国とは異なるベクトルでの近代化―――いや、現代化が進んでいた。骸石を用いて発生する特有の力〈骸石力〉を利用した、骸石力式機甲人形「剛嶺務」の手によって霊峰三山のうち東西にあるものは居住区を作るべく、神人が一『吹雪』が西に、神人が三『煉』が東に社を立てた。
そのことから、西の居住区は『吹雪』東の居住区は『煉』と言う地名が付けられ、神人の社は今もなおかつてと変わらぬ威容を誇って地元の民に愛されている(特に『吹雪大明宮』は崇められ神格化されている吹雪明神が【恋愛、人付き合い】を司るとされていることから結婚式を挙げるときに吹雪大明宮の分社が式場として選ばれることも多い)。
しかし一説には神人である『吹雪』が真の意味で祀られているのは『常闇ノ祠』と呼ばれている、吹雪大明宮の境内奥深くにある朽ち果てかけた牛蛙程の木の鳥居をのみ持つさびれた祠だともされているが、そちらは吹雪大明神の悪しき面を封じる祠だと言うのが通説である。
一方の北の霊峰は三峯山として呼ばれ、ほとんど手の加えられていない状態で保存されることとなった。北部の湖へと繋がる道部分は山を貫きトンネルとして開通され、その先にある神坂市(現在の御琴群御琴町)へ繋がる道路が作られた。三峯トンネルと呼ばれるそれは、御琴郡北部の北御琴町にある御琴空港から三牢市へ訪れる多くの観光者を通して三牢市へ誘っている。
ところは戻って大日本皇国。大日本皇国には戦力というものはほとんど存在しない。神国三牢が支援を行うと幾度も表明を出してきているのだが、明治20年(1887年)に「皇国議會」が発足する迄の間大日本皇国を支えるものは存在せず、唯天皇陛下が最上位のものとして存在したのみであった。
明治20年議会が発足すると、議会は即座に神国三牢の技術供与を受諾。神国三牢に発足した企業『三牢重工業』へと資材を送り、史実では1920年ごろに行われたとされる西洋の大戦争「第一次世界大戦」にて初めて登場した「戦車」という兵器が送られてきた。
戦車は画期的な軍事兵器であった。
まず、足元。悪路の多いと予想される清国本土への攻撃の為、同じく三牢重工業から売り出された電気駆動四輪車とは違い、左右を同じ方向へと回り続ける軌道で動き、そして外れることのないという『無限軌道』を採用。
また、戦車上部には遠距離への砲撃が可能である戦車砲(56mm45口径)および対清国兵士用の対人機銃(7.62mm機関銃)4基と対人・対街戦闘を可能とした砲塔。
敵国側に鹵獲されることを防ぐ為にセキュリティは十全に強化され、また等しい厚みに延ばされた80mmの鉄板を纏う事で敵兵の銃撃にも対抗。
しかし数少ない弱点として、過ごしにくさがあった。
戦車は元々、二人ないし三人での運用を目的として設計されている(運転、測量、砲撃)。しかし、居住スペースは非常に狭いのだ。そしてセキュリティの問題上敵国では換気ハッチ以外を閉めねばならず、冬は凍え夏は寝苦しいという弱点を備えていた。また食料問題もあり、『無限軌道を破壊されれば固定砲台』と揶揄されていた。
―――『戦車』、は。
大日本皇国と清国の戦争中、神国三牢は兵士を僅か16人のみを鉄の小包を持たせて派兵した。そのことを聞いた現地将校は戦後「小包の内容が知れた途端に彼らを射殺する心づもりだった」と語っている。
三牢の兵士が持っていた鉄の小包は、開くと途端に一つにつき16基の巨大な金属の蜘蛛となった。
『鉄蜘蛛』と呼ばれているそれは名の通りの八脚をもち、そして脚の関節部分に14mm対人・対軽装甲重機関砲を一門ずつ搭載し、マルチ光学センサーを搭載した前面には14mm対人・対軽装甲重機関砲が二門搭載された。戦車では視界が及ばずまた兵器類も置けないため弱点となった後方もマルチ光学センサーと14mm対人・対軽装甲重機関砲が二門搭載されて弱点ではない。しかも、16基の鉄蜘蛛小隊のうち4基は前後方の重機関砲が射程300M程度の火炎放射器となり、たったそれだけで当時の大国であるイギリス植民地を移動含め一週間で完全に殲滅せしめると言わしめるほどの戦力を持っていた。
以下、鉄蜘蛛の性能。
重量:760㎏
材質:磨琳(現代では生成不可の、神人謹製の謎素材)
体長:2.6Ⅿ
体高:2.1Ⅿ
武装
通常型:14mm対人・対軽装甲重機関砲12門
焦土型:14mm対人・対軽装甲重機関砲8門、焦土火焔放射器4基
装甲:圧延鋼板800mm相当(関節)、圧延鋼板1100mm相当(他)
速度:最大時速560㎞/巡航時速110㎞
特に装甲に関しては、史実に存在したとされる世界最強の戦艦『大和』の装甲を大きく引き離す強度で、速度に関しても史実に存在した戦車の最高速度が鉄蜘蛛の巡航速に殆ど等しいと言う異常な性能を誇っていた。
結果、清国は鉄蜘蛛16小隊によって僅か三日で陥落。金5億両もの大金が7:3で神国三牢と大日本皇国に入り、死者を殆ど出さずに清国を完全に撃滅したことによって神国三牢は文字通り神国として崇められ、吹雪大明宮が日本の寺社仏閣で最も利益があるとされる所以となった。
大日本皇国の議会は清国全土を自らの植民地とすることを取り上げたが、神国三牢にいる神人が一『吹雪』は清民族との関係悪化を避け沿海州を無期限租借する=自国化することを提案した。現在においてはそれだけではなく清国の外交を制限することによって他の列強からの干渉を行わせないようにしているということも言われているが、これが大日本皇国の『世界共栄圏』の始まりたる皇国領の拡大の先駆けであった。
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