2つの神器

「ちょっとユウマ!だいじょうブ!?」



心配するラウの目線の先に、椅子から転げ落ちているユウマの姿があった。


ユウマの作った露天風呂を皆で堪能し、完成した熊鍋をつつきながらラウのお兄さんの件を話していた時のことだった……



「結論カラ言うと、お主の兄は生きておるハズじゃラウちゃん。魔王なんてモンはそうそう死んだりせんわい」



うんうん、そうだとも!魔王といえばおとぎ話の中でもまさに無敵で……え?



「えぇぇぇぇぇえええぇえ!?」



ユウマの大声に耳を抑えながら何を叫び出すのよと憤慨するラウに対し、驚くのは当然だと応えるユウマ。


だってそうだろ?


ラウのお兄さんって……魔王なの??



「言ってナカったっけ?兄様は現魔王で、オ爺様は先代魔王よ」



!!!!!?!??!?!!?


ここでユウマは椅子から転げ落ちたのだった。


ユウマのこの反応は決して大袈裟なことではない。


ラウの兄である現魔王でさえ伝説級の存在なのに、目の前にいる老人は生ける伝説とまで謳われている先代魔王その人、いや、その魔族なのだ。


いやまぁあのとんでもない金オーラの持ち主だもんな……ユウマは起き上がりつつ質問をする。



「ラウのお父さんは魔王にはならなかったのか?」



このユウマの質問に答えたのはラウではなく、先代魔王だった。



「この兄妹の両親はモウ亡くなってイルんじゃよ。それにワシも2人の本当の祖父ではナイしな」



兄妹がまだ幼い頃、妹を守るために大暴れする兄の存在はすでに魔王領のなかで有名だったらしく、先代魔王のこの爺さんがなにかと目を掛けてくれたらしい。



「ラウ、何も考えずに親の話なんて聞いちゃってごめんな」


「ううん、イイの。親の顔なんて覚えてないし、兄様がイツも隣にいてくれて……オ爺様も良くしてクレて……」



ラウは泣き出してしまった。


いつも隣にいたお兄さんが行方不明なんだもんな……



「大丈夫じゃヨ。彼奴は必ず生きてオル」



先代魔王の爺さんが言うには、歴代の魔王には魔王同士でしか感じることの出来ない『繋がり』のようなものがあるらしく、その繋がりが切れた気配がない……つまりまだ生きている……といった事らしい。


だけど10年以上ものあいだ影も形も見当たらない事を考えると、異空間かなにかに閉じ込められている可能性が高いといった考察だった。


俺はこの時に初めて知ったのだが、ラウのお兄さんと同じように勇者まで行方不明になっているらしい。


もし勇者もラウのお兄さんと同じように異空間に閉じ込められてるのだとしたら、そんな伝説級の2人を異空間に閉じ込めた奴がいるってことだよな……


ここで急に爺さんが独り言を喋り出した。



「ん?ほう……時がきたか。ソウじゃな……うむ。……なんと!それはイイ提案じゃのう」



ユウマとラウが不思議そうな顔をしていると、先代魔王はラウにこう提案した。



「ラウちゃんや、コノままユウマと旅を共にせい」



曰く、俺の旅の目的の1つがより多くの神器を見つけることであり、神器の中にラウのお兄さんを見つけ出す力を持つ物があるかもしれない……ということだった。



「しっ……仕方ナイわね!オ爺様の提案だし……特別に着いてイッテあげるわ!と・く・べ・つにっ!!」



ううむ……元気が出てきたようで何よりだw


それよりもこの爺さんは一体誰と話していたんだ?怖いんですけど……



「ユウマ、お主にはワシの友を託そう。話し相手がイナクなってちと寂しいがのぅ」



先代魔王の爺さんはそう言うと、右手の人差し指にはめていた指輪を外し差し出してきた。


おいおい爺さん、あんたのデカい指のサイズの指輪なんて渡されてもw


いいから指にはめてみろと促されるまま、自分も右手の人差し指に指輪をはめてみると、見る見るうちに指輪はユウマにピッタリのサイズになった。


なんだこれ!魔法の指輪か何かか!?


ユウマの頭の中に聞いた事の無い女性の声が静かに響いた。



《ユウマ、これからよろしくお願いします》



!?


誰だ!


この家の中に他に誰かいたのか!?そんな気配はまったく感じなかったぞ!!


先代魔王の爺さんが楽しそうに大笑いする。


やはりお主も驚くよなぁと言いながら、声の主を教えてくれた。



「声の主はその指輪じゃよ」



しゃ!喋る指輪!?


ラウがキョトンとした表情をしているところを見ると、どうやら今この声が聞こえていたのは俺だけらしい。



「神器・創造の指輪のククルじゃ」



こ、これが神器!


神器って……喋れるのかよ……意志を持ったアイテムなのか!!



《わたしが知る限り半分正解です》



うおおお!また声が!!


指輪が続けて話す。



《わたしはわたし以外で持ち主と話せる神器を知りません。ですが神器に意志は存在します。なので半分正解です》



そ、そうなんですか……



《そうなんです》



うわっ!心の声までばっちり聞こえちゃうのね……



「爺さんこれ……受け取っていいのか?」


「イイもなにも、それがソノ神器の意志なんじゃから遠慮はイラんわい」


「オ爺様とユウマ2人だけ話しててワタシつまんなーい!」



じたばたしてるラウは放っておくとして、こんなに早く1つ目の神器と出会えるなんて、本当に幸先が良いぞ!


なんて喜んでいたら、爺さんが衝撃的なことを言い出した。



「お主ナニを言っとるんじゃ?1つ目じゃナクて、2つ目じゃろがい」



????????


何を言ってるんだこの爺さん?


神器なんて他に俺は……



「最初からズット自分の首にブラ下げておるじゃろうが」



な!!!!!!にーーーーー!?


父さんからお守り代わりに渡された大賢者マーリンの形見……このペンダントが!?



《天光の勾玉、神器の1つです》



おおぅ!!指輪の神器さんがそう言うのなら……そうなんだろう……父さんこれが神器だって知らなかったのかw



《どうやら今はまだ眠っているようです。相応しい持ち主が現れれば目覚めるでしょう》



なるほど……意志を持ち、自分で持ち主を選ぶのか。


先代魔王との偶然の出会いから神器の1つをGETできたと思ったら、すでに2つ目とは!


俺って裏スキルみたいな感じで幸運とかあったりするんじゃないのかw


兎にも角にもだ!!


【創造の指輪ククル】

【天光の勾玉】


さっそく神器を2つ見つけることが出来た!



「ところでユウマよ、お主の両親はドウしておる?」



「ん?父親はシックザールにいるよ!母親は俺を産んですぐに出ていったらしいけど、もうこの世にはいないかもしれない」


「そうか……余計なコトを聞いてしまったの……」



俺たちは明日の朝トイフェル山を出る事に決め、俺は寝る前の日課である日記をしたためていた。


兄の生存の可能性と新たな目的を得たラウはご機嫌なようで、眠そうなルルを脇に抱えながら、何を書いてるのーと日記を書く俺の邪魔をしてくる……


にしてもラウよ?爺さんに会う前はどうしてあんなに緊張していたのか。


どうやら久しぶりに会うのと、家出して来たことを咎められると思っていたらしい。


甘々な爺さんで良かったなw


真剣な表情の先代魔王が一人夜空を見上げながら呟く……



「運命か宿命か……お主ノ息子の幸運ヲ願おう……」



夜は静かにふけていく……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る